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うちのバランサー

私の実家にあの子が迎えられて早6年、あの子は実家のさまざまなバランスをとってくれている。

あの子の名前は「猫」って呼ばれてる。
母親に置いて行かれて、実家の敷地に置いてけぼりされていたから保護してそのままうちの子になったので、名前が猫のままになってしまった。(でも、あの子は猫と呼ばず、フーちゃんなんて呼んでも反応するからいいのかと思ってる)
兄が見つけて、祖母が甘やかし、父が朝ご飯をあげ、祖父とは隣人、姉は子分、母は母。我が家の末っ子が新しく来たねなんて、そんな距離感であの子は6年間実家にいる。

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6年の月日が経って、あの子は随分と太々しく豪快にもなった。

保護猫で半分野良のような子だったから外で飼っていて、家の中には絶対に入れなかった。でも、最初の冬に、あの子は強行突破をした。
朝ご飯を呼びに来たあの子がいつものように玄関ドアの前で鳴いていた。いつも父が朝ご飯を食べ終えた後にあの子のご飯をあげに外に行くんだが、その日ドアを開けた瞬間に家の中に突入。机の下に敷かれたホットカーペットの上で丸まって寝始めた。何度言っても出て行かず、彼女の毎年の定位置になった。

あの子は、そんな風にしてどんどん家の中の定位置を増やしていった。あの子が家の中に我が物顔ではいればボソボソと話をするだけの家族の中が笑いに包まれる。

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家族は6年の間に物理的にも心理的にも徐々に距離が開いていって、久しぶりに会っても何を話して良いのか、実家で何をして過ごしていいのかわからなくなった。でも、あの子がいればそんなことはなくて、あの子がどんなテンションや空気感のわたしたちを穏やかにしてくれた。
今ではあの子がいない実家は考えられない。あの子を最重要ポジション、CBO(チーフ・バランス・オフィサー)に任命したいくらいだ。

祖父が粗相をして祖母が怒鳴っていても、母が将来について父に相談していて暗い空気になっても、あの子がいつもその雰囲気を変えてくれる。
お腹が減った、かまってほしい、散歩から帰ってきたぞとことあるごとに鳴く。鳴いて鳴いて、反応するまで鳴き続けるので、空気を換気してくれる。

兄弟や親との関係が希薄でも、あの子が家族のLINEをにぎわしてくれる。それでギリギリ関係を保ててる。

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私は実家に顔を出すたびに、あの子にお願いをする。
時間をかけて丁寧にブラッシングをしてあげながら両親を見守ってもらえるようにお願いをする。
彼らはわたしたち子供に対して甘えたり弱音を言わない人たちだから、せめて、あの子に対して愚痴や辛いこと悲しいことを言って溜め込まないで欲しい。それを聞いてくれ。そして彼らに何かあった時に近くにいて、もしも彼らに緊急事態があったら近所の人に伝えて欲しいとあの子にお願いする。もちろん、先に報酬として美味しいおやつをたっぷりあげてお願いをする。



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