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愛なのか、エゴなのか


「愛ってなんだろうね」

少し前に友人と新大久保で昼から
キムチとポッサムを肴に
マッコリを飲んでいた日のこと

彼と2人で飲むといつも
ほろ酔いで柔らかくなった脳みそで
漠然とした大小様々な問いについて
あーでもない、こーでもないと
いつまでも話が尽きないから楽しい


『エゴイスト』という映画の話になって
(まだ僕は観ていなかったけれど)
友人は小気味良いネタバレをもらしつつ
主題とされるエゴについての話になった

エゴとは、つまり自意識
自分の内側に矢印が向いていて

愛とは、与えるもの
望まれるのは見返りを求めない姿勢であり献身
自分の外側に矢印が向いている

一見すると相反するように見えるけれど
愛とエゴはたぶん
切っても切り離せない関係にある

そんな気がしている

もしかしたらあなたにも
思い当たる節があるのかもしれない

ある1つの行為や感情が
愛なのか、それともエゴなのか
二者択一に判断しきるのは難しい

いつだって僕たちは自分の為に誰かを愛して
時には、誰かの為に自分を大切にする

行為や感情を因数分解していくと
その構成要素は複雑に入り乱れていて
一言で言い表していい代物ではなくなる

カントはこれを
仮言命法(〜だから、〜する)
と名付けて批判をして
定言命法((前提条件なしに)〜する)
のみを行為せよ、なんて言っていたけれど
僕にはそんなの不可能にさえ思えてしまう

ただでさえ僕たちは
「〜だから、
 一方で〜という考えもあって
 その裏側には〜という気持ちもあって
 こういう感じになったらいいな
 ああいう感じにならないでほしい」なんて
思いながら1つの行為や感情を表出している


純粋と策謀、懐疑と無意識の狭間で
複雑怪奇で五里霧中な仮言命法に
どっぷり浸かっているのが僕たち愚かな人間だ


そんな複雑なバックボーンをもつ行為や感情を
愛なのか、エゴなのかの二項対立で考えるのは
簡単ではなく、なかなか答えは出ない

愛って、なんだろう


いや、待てよ

そもそも、これは二項対立なのかな

そんな違和感がふと浮かんでくる

愛とエゴは同列に並べて、はい、どっち?と
選択できるものなのだろうか

これは愛なのか、エゴなのか

そんな問いは、そもそも成り立つのか

考えを少しずつ深めていく


仏教哲学(唯識瑜伽行派)には
人の認識をジャンル、階層分けした
八識」という考え方がある

僕たちの生活に馴染みのある西洋医学では
五感(視覚/聴覚/嗅覚/味覚/触覚)というけれど
唯識の思想ではそこに三つプラスされる

それは
五感(五識)と一緒に働く「意識
自意識である「末那識(まなしき)
深層心理である「阿頼耶識(あらやしき)

この五+三で八識というわけだ

そして全ての感情、情動は
末那識(自意識)によって阿頼耶識(深層心理)に
植え付けられた種子によって発芽する

この自意識と深層心理のループを
ハックして全てコントロール下に置ければ
この世界の全てをコントロール出来る

なぜならこの世界には
自己の認識以外は存在していないから

これが唯識の思想


要するに
全てのスタートは末那識=自意識にある
と結論付けている


愛なのか、エゴ(自意識)なのか

この問いは愛とエゴを
同列、同格、同質に扱うということが
大前提にあるけれど

そもそも愛とエゴは
階層、レイヤーが違うのかもしれない

愛情や憎悪、猜疑や嫉妬といった感情で
ひとつのレイヤーが構成されていて

その上のレイヤーにあるのが
エゴイズム(自意識)

つまり
エゴの構成要素としての愛
エゴの一部分であり、一表出形態である愛

愛なのか、エゴなのかという問いは
そもそもの前提条件が破綻している

愛なのか、エゴなのか、ではなく

愛はエゴなのかもしれない

ハイボールとマッコリで
ゆるゆるになった脳みそで
僕はそんな事を思った


誰かを愛することや、誰かを憎むこと

あの人を恐れて、猜疑の連鎖に陥り
少しずつ、少しずつ関係が破綻していくこと

あなたを大切にしたいと願い、
どうか幸せであってほしいと信じること

そして、幸せになりたいと祈ること

その全てがエゴなのだとしたら
ちょっとガッカリしてしまう気もするし
人間の醜さを浮き彫りにしてしまう気がして
嫌気がさすけれど

一方で、愚かで醜い人間という動物が
ひとりで勝手に背負っている肩の荷がおりて
少し気が楽になるような気もしている


愛なのか、エゴなのか

こんな苦しくて悲しくて、切ない問いは
そもそも問う必要がなかった

「大丈夫、全部エゴだよ」


そう言われて打ちのめされた僕たちは
少し落ち込むけれど諦めて、開き直って

そうして、また誰かを愛するのだろう


そんな図太くて、無神経で
お気楽思考でネバーギブアップな人間を

僕はどうしても、嫌いになれない


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