公木正
どうなる
気になる歌を抜書き
金曜が三度あるようなこの週の土曜の手前粘り気がでる ありがとうございます。 前回のテーマ「ときどき」からもうほぼ一年経っていることにびびりました。 もう一首送ったやつ 雨の音、エビ入りかき揚げ、飽きない、歯医者のスロープの角度、飽きる 以上です。
ファストフードファストファッション吹き溜まり吹き溜まられて学成り難し
昼のシャワーのみずがきらきら 昼寝のうしろめたさを薄い頭痛のせいにして 部屋の電気で昼寝の罪悪感を払う マイナーなコンビニも昼の賑わい 昼に会い夜も会う大学生 昼間の熱が残る鉄棒 昼間の熱が残る柴犬 昼に見ると汚い川 なんか突然昼の月が目に入った 病院の昼休憩を思う コオロギまだ鳴いているあきれる
二時間のホラーとともにスクリーンの無数の穴もずっと見ている
日村履くスケッチャーズのポスターの靴下よりも白い前歯よ
山田佳乃選「蓬」佳作 どつさりと籠に蓬のおもてうら /公木正
ピアノなどない無人駅に降りる ギターを弾ける人かもしれない カスタネットで指を挟んでみる 映画館のCMで聴くはなわのベース ライブ前エフェクターを見ている 客を忘れて試奏に夢中な店員 教科書の鍵盤を得意気に跳ねる指 吹いたのはハーモニカのキーホルダー はなわのベースを集中して聴く 戦メリのサビ前で挫折 急に生バンドの音が聴こえ警戒
白黒のほとんど白の野良猫の切られた耳に黒はあったか /公木正
玉城徹(1924〜2010) 梅雨ばれを風動きつつ紫のかげしじに濃き茄子の一うね 晩餐の卓のおもてに置ける手の動かむとする今のつかの間 ポストまで行くみちに夜の線路越えくさむらの香は心にぞしむ ひえびえと三月のかぜ部屋に満ち時にはばたく如くわがゐる 雨樋のはしより水の紐太く垂るるを見つつ椅子にし眠る 床の上歩(あり)きて見やる古机に今日わがあらず座蒲団一枚 厨房にへだつる窓は棕梠の葉に重き空気の動く見えたり 降りそそぐ眠りの下に横たはる身をわがものとしばらく思
NHK短歌2024.4/山崎聡子選/佳作/「傷ついたこと」 今はない忌まわしいあの校則の忌まわしいあの丸刈り頭 /公木正 ◆ NHK短歌/2024.4/川野里子選・佳作/「顔」 本当に疲れているが寝不足の顔が疲れた演技をしてる /公木正
突然の訃報にテレビはしごしてかめはめ波撃つは海外ファンのみ
ティッシュ箱にメモひとつ まっさらなペン売り場の試し書き ペン売り場の試し書きが若い 文豪の悪筆にテンションがあがる 自転車に住所まで書いてある 日直の名前すこし削れて ヒップホップなんだろうこの落書きは 反省文書く放課後風が気持ちいい 急に原稿用紙のマスが埋まりだす
前川佐美雄(1903〜1990) 机(き)の前のすすけ障子の桟の上に虫の死骸(しにがら)三日ほどありし 観光地旅館の裏を見しごとき心のうちの汚き日なり 鉄骨のあからさまに大き組立てを感心し次に一致して憎む むさぼりて肉食ひし夜を五月雨の街に出て涼しく口笛を吹く 壁に掛かる夏服の汚れ目に立ちてまだ納(しま)はざるを駆けくだりたり カバン振つて深夜(しんや)の街を曲り行ける人物のなどか滑稽なりし 地下に来て茶房の椅子にやすらへり人工の渓流青葉暗き下に みづからに猿
今 日 一 日 見聞 き した も の いっ さ 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり い が えび の はい っ た か き 揚げ を く う
常(とこ)臥しのわれの周囲の掃かるると風呂敷を顔に被せられたり 仰臥しに天井の蠅を目守る吾かくてひたすら時を逝かしむ 手を執り合ひ醜男醜女行けり着替へして出で来しのみに疲るるわが前 馬鹿げたる考へがぐんぐん大きくなりキャベツなどが大きくなりゆくに似る 何とはなく部屋に立ちをり灯をつけし汽車が視野より見えずなるまで 階下(した)のひとは二階に一人居る吾を餘りに寂けしと言ひて覗きぬ 自動扉と思ひてしづかに待つ我を押しのけし人が手もて開きつ 会ひすぎるほど会ひしかど