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【読書メモ】なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない

「コンサルタントって臨床家なんだよな」
そんなことを思いました。

「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」
著者は、東畑開人さん。臨床心理士です。

カウンセラーが提供する補助線

Amazonの紹介文には、こうあります。

家族、キャリア、自尊心、パートナー、幸福……。
心理士として15年、現代人の心の問題に向き合ってきた著者には、強く感じることがあります。
それは、投げかけられる悩みは多様だけれど、その根っこに「わたしはひとり」という感覚があること――。
夜の海をたよりない小舟で航海する。そんな人生の旅路をいくために、あなたの複雑な人生をスッパーンと分割し、見事に整理する「こころの補助線」を著者は差し出します。
さあ、自分を理解し、他者とつながるために、誰も知らないカウンセリングジャーニーへ、ようこそ。

いや「スッパーン」ではないでしょう(笑)。整理とも違う。細かいこというと、整理って捨てることですし…。心を捨てるわけじゃないし…。むしろモヤモヤと向き合うための補助線を提供してくれていると思いました。自分では引けない補助線によって、深く自分と向き合うわけです。そして、時に傷つきながら、孤独な夜を受け入れていく。そんな小さな小さな小舟の物語が描かれています。ここでいう小舟は、現代を生きる私たちのことです。

心の多様性を踏まえたカウンセラーのアプローチ

読み進めると、どのようにしてカウンセラーがクライエントの心の問題にアプローチしているのかを知ることができます。そのアプローチの前提にある知見は、素人にはとっつきにくいものです。それを著者は「処方箋と補助線」「馬とジョッキー」「シェアとナイショ」「スッキリとモヤモヤ」といった言葉を使って分かりやすく伝えてくれます。

これらは、難しいから伝わりにくいという側面もあるのですが、心の問題が理屈だけでは伝わりようがないという側面もあります。それは、一人ひとりが持っている心は多様だからです。自分が気づいていることもあれば、気づいていないこともある。だから、補助線を引くお手伝いをカウンセラーはするわけです。

「○○か××か」ではなく、「○○も××も」

著者が一環して意識しているのは、「○○か××か」ではなく、「○○も××も」ということです。何かを分かろうとする場合、私たちは「○○か××か」と分けて分かろうとします。それも心の働きですが、人生はグレーなことで成り立っている。時に、補助線を引いて分ける必要はあるけど、分けられたそれぞれのどちら「も」受け入れながら、前に進んでいくことで一人ひとりの人生や心が作られていきます。

カウンセラーのあり方と経営コンサルタントのあり方の類似性

カウンセラーは、人生の正解は知らないし、知る由もない。もちろん、クライエントも正解を知っているわけではない。あれ「も」これ「も」受け入れながら、その人が自分で航路を描き、港を渡っていくことを見守るのがカウンセラーなのだと思います。

私も経営コンサルタントとしてそんな存在でありたいと思っています。いつも気をつけているのは、理論武装をしないことです。これは、理論や知見が要らないということではありません。むしろ、誰より多くの専門的な知見を知る努力が必要です。

理論を知っていることと、武装することは別ものです。
武装は、自分を守るために行うことです。そんな鎧をつけている人間を、本当の意味で信頼することは難しいですよね。多くの方が、コンサルタントにアレルギー意識を持つのはそのためだと思います。

臨床と理論を行ったり来たりしながら、自分のあり方を見出し、誰かの役に立とうとする。そこにあるのはいつも個別の解です。それでも、抽象化して理論に落とし込むことで、他の個別の事象へ展開できるようになる。

「臨床も理論も」。
その両面から人間の心を分かりたい、そのためにコンサルタントをつづけたい、そう思える一冊でした。

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