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松下幸之助に学ぶ経営理念とリーダーシップ

経営には理念が必要だとつくづく思います。ここでいう理念は、お客さまや社会への約束であると同時に、自分たちが何者なのか、なぜこの事業をしているのかという信念であり、哲学です。つまり、自分たちの判断や行動のよりどころであり、原動力となります。

松下幸之助の実践知から考える経営理念の重要性

この理念がどのように経営のパフォーマンスに影響を与えるのか、ここのところアカデミックな知見を調べています。…が、実践知も大事だと思い、久しぶりに松下幸之助さんの著書を手に取りました。

手に取ったのは、「実践経営哲学」という本です。経営を進める技術は様々にありますが、本書が説いているのは、何が正しいのかと考える心の重要性です。60年の間、経営をやってきて大切だと実感していることを世のために残しておこうという気持ちが伝わってきます。そのようにして世の発展に使命感を持つという考えこそ、幸之助さんの哲学です。

経営理念の形成と生成発展

世の中は「生成発展」している、という言葉が本書では何度も出てきます。会社の経営は、この世に存在している人間が行うもの。そうであるならば、私たちは、その自然の摂理に素直に従って、新しい価値を生み出す使命があり、私たちが事業を行う理由もそこにある、というわけです。

幸之助さん自身、最初からそのような考えだったかというとそうではありませんでした。「いわば食べんがために、ごくささやかな姿で始めたことでもあり、当初のあいだは経営理念というようなものについては、何らの考えもなかったといってもいい」としています。それが、従業員が増えていく中で、何のための事業であるか、その使命を示す必要性を感じたと言います。そのようにして考えた理念が敗戦の混乱の中でも乗り越えるためのよりどころになったといいます。

経営者としての自省と倫理的な価値観

このことを踏まえると、起業家として大切なことは、時に立ち止まって振返り、自社や自分は何のために存在するのかと問い、節目を作っていくことのように思います。そして、そこで何を考えるのかが大事なのだと思います。幸之助さんは、「何が正しいかという人生観、社会観、世界観」に立った経営理念を基礎に持つべきだと説いています。どうやったら儲かるのかという話でもなければ、どうやったら自社が大きくなるのかという話でもありません。

企業のトップが「何が正しいか」と考えるのは大切なことであり、また難しいものです。目先の利益や損得勘定によって不正を働くのは論外ですが、不正まではいかないまでも損得は考えてしまう。ただ、それだけでは長続きしない。なぜなら、そこに自分たちの意思がないからです。

人間としての役割と使命

元来、私たち人間は意志を持ち、創意工夫をすることができます。幸之助さんも尊敬していたとされる思想家の中村天風さんは、人間を「万物の霊長」と言っています。この言葉は、幸之助さんの著書『道をひらく』にも出てきます。他の動物にはない特徴として、人間には意思をもって創意工夫する能力が備わっています。生成発展する世の中で、人間にはそうした役割や使命が与えられているのです。その自覚を持って事業を営めるか、人生を歩めるかが問われているのだと思います。

こうした価値観に基づいた意思決定は、今後ますます注目されていくはずです。損得だけであればAIがはじき出せます。AIも人間が生み出したものではありますが、意思を持つというところには達していません。恐らく、そうした自我に根ざす意思を実装することは困難でしょう。

内省とリーダーシップの発展

リーダシップ研究の領域においても、倫理的な価値観を持った意思決定や、交換の論理ではなく、自分たちの理念に根ざした意思決定ができるリーダーが注目されています。この世の中での私たちの役割、使命を考えれば当然の帰結なのですが、一方で、損得に左右されてしまうのも私たちの心の作用の一つです。そうした矛盾があることを前提に人として何が正しいと考えるのか、そうした内省する習慣を持つリーダーや組織はどうやったら生まれやすくなるのか。大きなテーマですが、探求していきたいと思います。

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