並木 一史

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  • note社員のスキな本 #読書の秋2021

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    読書感想投稿企画「#読書の秋2021」に参加したnote社員の「スキな本」記事をまとめていきます!

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    書いた小説をまとめていきます。

最近の記事

小説用のアカウントを分けることにしました。以降は小説はこちらのアカウントで書いていきます! https://note.com/kazushinamiki2

    • 【小説】ホタル

      せまいアパートの一室で。瞳から成って、頬を伝い、顎の先から、透きとおったようなその一粒が、落ちる。あの時、瑞葉が言ったとおりの方法で、いま、ぼくは精神と生活から解き放たれようとしている。神さまなんて信じていなかった、あの時。 *** 「辛いことがあった時はね、自分のためではなくて他人のために哀しんで、他人の幸せを祈るようにして涙を流すの」 「なんで、そんなことを?」 瑞葉は、こうして不意に持論を展開しはじめることがよくあった。しかも、ごく普通の人のように、酒の席で意気

      • 【小説】ふくろう

        はるかとおくに、ほんのかすかな、葉ずれの足音をきいたふくろうは、音もなしに飛びたちました。 月があかるいよるで、星も出ていました。えものがよく見えて、狩りに出るには絶好のよる。森の木々の間をぬうように、ふくろうは、むだのない動きで、えものへ向かっていきます。秋から冬へ向かう季節のつめたい空気を、ひだりへ、みぎへ、それをいなすようにして切りながら、ふくろうは飛びました。その飛行はよるのように静かで、かぜのように速いのでした。 飛びつづけていくうちに。目標にしていた足音が近づ

        • 【短編小説】かえる

          街のそこら中にいる色とりどりのかえるで、あたりはすっかりマーブル模様。民家のへいの上には緑のかえる。神社の階段には水色のかえる、郵便ポストには同化してあかいろのかえる。道端に咲くあじさいの葉っぱのうえでは、紫色のかえるがあごのしたを膨らませています。しとしと雨が降っているきょうは、それぞれのかえるの背のうえでぴちゃぴちゃと、あまつぶが跳ねていました。 そしてかえるの大合唱が街中にひびきます。げこげこぐぐぐ、けーろけろ。高らかな声やくぐもって喉を鳴らす声、声の大小高低もさまざ

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          【掌編小説】記号

          ある地方都市の中心地からすこし外れたビルに入っている、小規模なファッション・デザインの会社。もう深夜に差し掛かる時間だというのに、オフィスの一角にはまだ電気がついている。そこでは、ブルーライトカットの眼鏡をかけて、自身はいくぶん地味な服を着た若手の女デザイナーが、濃いブラックコーヒーを片手に、液晶画面の中のスケッチツールを凝視していた。片手に持ったマウスを機敏に動かし、集中してスケッチを進めるのは、単純に帰宅したいからであって、仕事に燃えているからではない。 デザイン会社と

          【掌編小説】記号

          【掌編小説】家

          「もうお年ですから、次の公演ではおやすみになってください」 俺を真っすぐ見る女監督の目には感情がなかった。いやきっと、感情が籠もらないように、伝えてくれているのだろう。年のせい、と建前を敷いてくれていることにも、彼女なりの”武士の情け”が伝わってきた。 大学を出てすぐに彼女と組んで、役者として舞台をつくって。もう20年である。その幕引きがこんなふうに、ファミレスのボックス席で告げられることになるとは思わなかった。都心の駅に近いところであったからか、店内はやや混んでいる。若

          【掌編小説】家

          【掌編小説】トウキョウ

          『きょうの地下鉄道の運行は、終了いたしました』 地下へ降りる入り口のところにかかっている木札を、ホリはにがにがしい面持ちで見つめていました。 ーーしまった。地下鉄道の最終電車は、この秋から、早まったんだっけ。 きょうも一日中、根をつめて、はたらいて。やっと仕事を切り上げて帰れると思ったホリは、帰る”足”がなくなった恨みを、誰かにぶつけたくなります。 なたね油の洋燈はまだ灯りが灯されていて、地下へ通じる扉のところでは、人影がゆらめいていました。老鉄道職員が、シャッターを

          【掌編小説】トウキョウ

          【掌編小説】アルメ

          日本中のあらゆる子どもたちによって、学校の教室を、街区の公園を、そしてソーシャルネットワーク上を、そのニュースが駆けめぐりました。 『12月24日に、よるを通して、アルメが仮想空間でライブをやる』 夢も希望も機械学習で予測され、その結果を自由に検索できるこの時代。子どもたちの毎日に不足していた「たのしみ」を、アルメが与えてくれたのでした。 その知らせを聴いてからは、すべての子どもが、クリスマスの日を指折り数えてたのしみに待ちました。そわそわして、眠れない子も多く、学校の

          【掌編小説】アルメ

          【掌編小説】花

          「花が色とりどりに見えるのはね、その色の光を花が捨てているからなのよ」 その花屋は種々の花束や大きな観葉植物などが並べられていて、まさに色でいっぱい、といった様子だった。 「花は、吸収した光の中からいらない光を外に出しているから、私たちは花の色を感じられるの。特にみどりの光は、光合成に使いづらいから、葉が吸収せずに外に出す。だから、捨てられたみどりの光は人間の目にとどいて、葉っぱがみどりに見える。新太がよくここに来て、『緑が多くて癒やされる〜』とか言うけど、いわば出がらし

          【掌編小説】花

          【掌編小説】鳥

          ぼくが毎日ことあるごとにアクセスしてしている動画チャンネルがある。鳥の声を、永遠と、流し続けるライブ中継動画だ。 鳥の数は何十羽もいるのだろう。「ぴぴぴ」を甲高い声で叫ぶ鳥がいたり、「ち、ち、ち、」と遠慮がちに舌を鳴らすような音で鳴く鳥がいたり。それだけの数の鳴き声が混ざりあうと、わけがわからない雑音に聞こえてしまうときもある。 動画の画面は真っ黒で、なんの情報もない。動画の概要説明欄には 『これはわたしの鳥です。』 とひとことだけ。この投稿者は、何十羽も鳥を飼っている、

          【掌編小説】鳥

          なぜ創作を後押ししたいのか

          2020年は「文化は不要不急なのか?」を突きつけられた年でした。 また、わたしが勤めるnote社のミッション「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする。」について、改めて考えなおす必要性を感じた年でもありました。 このタイミングで、2021年に向けて「自分がなぜ創作を後押ししたいのか」を、あらためて、文章でまとめておきます。 はじめて小説を書いた時のこと はじめて創作の価値に気づいたのは、第一作の小説を書いた、大学2年生の時。当時わたしは、海外へ短期留学して帰ってきた

          なぜ創作を後押ししたいのか

          【掌編小説】3時さん

          深夜にレジから眺めるコンビニの店内を、おれはいつもぼんやりと眺めている。 客の購買導線に沿って、本部のマニュアルどおりに整列している無数の商品群。冷却棚と隣合わせの加熱棚。店のブランドロゴが入った銀行ATM。手元には、干からびかけた肉まんが数個入った温蔵庫や、具材ごとに区切られたおでんの鍋。最新式のレジスター。 それら全てが、まばゆいほどの強くてしろい、蛍光灯のもとに照らされている。食品や日用品や機械たち。種類も用途も、温度さえもばらばらで、だれも喋らない。そんな中おれだ

          【掌編小説】3時さん

          【小説】あかつき

          よろこびもかなしみもまだ目覚めないあかつきの時分。 深い青で満たされた空に、東の地平線だけがだいだい色に色づいています。 日はまだ、のぼりません。街の正体をあばくのにはまだ光量が弱く、街は、空の白みを背景に、輪郭だけを残してシルエットになっていました。 夜半にひと雨がかかったために、アスファルトはぬれて黒くしめり、ひんやりとした空気がただよっています。道路のあちらこちらには、水たまりができていました。 電線の上に、一ぴき、すずめが留まりました。あかつきの街は、鳴いてうる

          【小説】あかつき

          日本中のシェアハウスに住み放題のサブスクで、多拠点リモートワーク生活をはじめました

          ※追記 2020年11月、利用を停止して東京に帰ってきました。多拠点生活の中で得たもの、むずかしく感じたことなど、折を見てnoteにまとめます。 ぼくがはたらくnote社は、リアル出社が自由となるはたらき方に、制度が変わりました。その名も「フレキシブル出社制度」。オフィスへ出勤してもよし。在宅で仕事をしてもよし。勤務スタイルを自由に選択できます。 導入を受けて、ぼくは前々から試してみたかった、定額制住み放題サービス「Address」をはじめてみることにしました。 じつは

          日本中のシェアハウスに住み放題のサブスクで、多拠点リモートワーク生活をはじめました

          noteにディレクターアシスタントとして入社いたします。

          ぼくは今年の4月からnoteの運営会社・ピースオブケイク社でアルバイトをしていましたが、この10月から正式に社員として入社することとなりました。 今回はnoteにかかわるすべての方々へのごあいさつに代えまして、入社にあたってのぼくの現状と思い、そして、noteクリエイターのみなさんへのご挨拶をします。 「もの書き」になるか、「編集者」になるかぼくはもともともの書き志望で社会に出たのですが、noteでアルバイトをしていたら、note編集部で「編集者」としてはたらきたくなりま

          noteにディレクターアシスタントとして入社いたします。

          note編集部で3ヶ月働いた今、思っていること。

          大学を卒業してすぐに、ぼくはnoteを運営するピースオブケイク社(ピ社)でアルバイトをはじめました。 そして今、入社から、はや3ヶ月が経ちます。 社員の方々がつぎつぎと「入社して○ヶ月」のすてきなnoteを上げているなか(※)、「アルバイトだって書いてやろう!」という気もちで、ぼくの現状やお仕事について書いてみます。 (※社員の方々のnoteは下のマガジンからどうぞ!) 小説家をめざしていますまずは、ぼくの現状について。 ぼくはこの3月まで慶應SFCに在学していましたが、

          note編集部で3ヶ月働いた今、思っていること。