見出し画像

チューリングテストと人工無脳

先日、新しいAIエンジンの発表があったこともあり、さらにAIブームに拍車がかかっているようです。調べ物をしたり慣れない分野の文章を書くのに、無くてはならないものになりつつありますが、AIの歴史は意外と古く、80年代の8ビットPC時代に流行っていた「人工無能」というものを思い出しました。

歴史的に見ると、機械が知能を持っているかを判定するために考案された「チューリング・テスト」というものがあり、これに合格すれば人間でなくとも知能を持っていると判断してよいのではないかというテストです。判定に人間を使うので、言ってみれば官能テストのようなところがあり、科学的なテストなのかというには十分なのかという議論は当時からありましたが、まずはこれをクリアするのが人工知能の目標でした。

チューリング・テスト

このテストを行うと、実は人間のほうが適応してしまうという結果が見られることが発見され、これをテストに用いられたプログラムの名前を取ってELIZA効果と呼んでいます。

ELIZA効果

日本においてパソコンが普及し、皆でゲームなどのプログラムを書いていたような時代、自分でAIを作ってみようとする人は、このELIZAのようなプログラムを書く人も現れました。基本的には英語向けに書かれていたプログラムを何とか日本語に対応させるという作業でもあったのですが、カタカナしか使えない中、人間に分かち書きをしてもらうことで、何とか日本語を解釈できるようにしていました。

わかち書き

つまり知能云々以前に、与えられた入力の字句解析が関門で、この技術は当時アドベンチャーゲームと呼ばれていたカテゴリのゲームを作るうえでも必須のものでした。それでこれらが融合してかわいい女の子の絵を付けた人工無能が、盛んに作られた記憶があります。ELIZA効果もあってなかなか気持ちを入れ込むには十分だったようです。いやぁ日本らしいですね。

人工無脳って知ってる?

今、人工無脳を調べると、もっぱらチャットボットの話が出てきますが、これはパソコン通信が普及した時代に、この人工無能の技術が応用されて登場したもので、いつも誰もいないチャットルームに行くと、人工無脳が待っていたり、掲示板への書き込みに答えてくれたりしていました。システムに組み込まれているというわけではなくて、接続している他の誰かが端末側でプログラムを動かしていたのですが。これを行うプログラムもライブラリに登録されており、ダウンロードしては勉強したり改良したりしていましたね。当時はもっぱら文字列処理と通信に強いBASICで書かれたものが多かったのですが、字句解析の処理が書きやすいPASCALも頑張っていたように思います。まだC言語はパソコンで気軽に使えるものではなかったですしね。ちなみに悪い遊びとしてあたかも人間が人工無脳のフリをして他の人をカラカウというのもあったようです(逆チューリング・テスト?)。

パソコンで漢字が使えるようになり、パソコン通信でも当たり前のように漢字が使えるようになると、人工無能も普通の日本語でやりとりできるようにはなったのですが、これにはわかち書きなしの日本語に対する構文解析技術が必要でした。これは思った以上にハードルが高くて、当時のパソコンの能力では日本語に対するチューリング・テストに合格するのは困難でした。そのため人工無能もいったん鳴りを潜め、インターネットの時代になってようやく復活してきた感があります。

人工無能の知能の行方

こうしてチャットボットの時代となり、娯楽的な使い方から、まじめなヘルプデスクまで、いろいろな形で人工無能が使われるようになったのですが、古き良きチューリング・テストに合格するのはなかなか大変で、対話だけで相手が人間かどうかを判定するのは難しいようです。この人間であるかの判定はセキュリティのひとつとして大きな課題なのですが、その境界はコンピュータの能力が向上するにつて曖昧さが増しているようです。

人工無能とは? 人工知能の違いなど分かりやすく解説

最近の生成AIに対しても、このチューリング・テストが行われているようですが、今度は逆ELIZA効果とも言える現象もあるようで、人間のほうが賢くなったと言うか疑り深くなったのかもしれず、合格するのは難しいようです。もしかしたらこれからはチューリング・テストによって「人間」の方の知能が判定される世の中になるのかもしれません。

1960年代のチャットボット「ELIZA」がチューリングテストでOpenAIの「GPT-3.5」を破る

人工知能の発展は、知能の再定義を必要とするかもしれず、そろそろ知能とは何か人間とは何かという哲学の要素も必要かもしれません。人間の方もウカウカしていると「人間無能」と判定される日が来そうで、こりゃボケたらヤバいな。

人工知能の歴史

ヘッダ画像は、以下のものを使わせていただきました。
https://www.irasutoya.com/2019/03/blog-post_84.html

#AI #人工無能 #チャットボット #AIの歴史 #パソコン通信 #アドベンチャーゲーム #字句解析

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?