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魔々勇々第28話感想・考察「魔王」を背負った少女 (ジャンプ18号)

この記事で掲載している画像は全て週刊少年ジャンプ「魔々勇々」(林快彦)から引用しています(掲載号は画像に付記)。著作権・肖像権等は全て権利所有者に帰属致します。

サブタイトルは「羽化」
見た瞬間コルレオの勇者としての羽化か?と思った自分は甘かった…

ものっっっすごく面白かったし考察しがいありまくりなんだけど、異動により帰宅後も勉強を強いられるし、息子は寝てくれないしで、更新が遅れました。
当面月曜日更新は難しそう。
5月には元に戻れるんじゃないかと…。

◆「君は僕と同じ目をしている…」

のあとの「してしまっている…」が非常に意味深。
ここでハロハロが言う「同じ目」っていうのは、マママが2話で言ってた「自らの保身を勘定に入れない異常な善者」の目を言っていると思う。
自己犠牲を厭わない精神性。
ハロハロがそれを好ましく思っていないような言い方をしたのは自分の行動への後悔か、自分以外の誰にも犠牲になってほしくない想いからか。
後者をメインにしつつも、自分のやり方が間違っていたからこうなってしまったのか…という後悔も含まれている気がする。
後悔というか諦念か。自分と同じ道を歩ませてしまったと。その道の先に平和はなかったんだと。

だけど、コルレオはその先にたどり着けると思う。ハロハロの諦念と後悔を払拭してくれると思う。
サディコの言う「仲間に恵まれた勇者」は自分が仲間にとって大切な存在であるってことまで考えられると思うんだよな。
コルレオの答えは思いつかないし、この瞬間は自己犠牲しか考えてないかもしれないけど、どこかで仲間のことを思い出してハロハロの上をいく答えを出してくれるんじゃないかと思う。

◆答え合わせ

ずっと気にしていた、コルレオに語りかける謎の声の正体はエンドだったことが判明。
これ当てられた人いるのかな…
魔々勇々の考察界隈は極めて充実しているにもかかわらず、この可能性に言及するコメントを一度も見掛けたことがない。
ヒントはしっかり提示されていたけど、あの異形の中身に優しく呼び掛ける存在がいることにたどり着くのは難しすぎる。
期待に応え予想を裏切り続ける林先生すごいっす。

◆絶対に侵してはいけない禁忌

禁忌すぎるやろ。
これ、全てを不幸にする力が宿ることも禁忌の報いだけど、それ以上にこんなことを平然とできてしまう種族が生み出されちゃったことが最大の報いだよ…。
だって、家族に突然紋章が浮かんだ瞬間、国の意思で命を奪われるんだよ。
何万人の恨みを買ったんだよ。
その時に生まれた負の感情全部が紋章に宿ってるんだきっと。
1ヶ月で3800人って、国としてもう引くに引けないところにきてるよなあ。
近付くだけで命を奪うほどの力を持つ紋章術、禁忌を犯し倫理を失った世界への報いにふさわしい。

・そんな軽めで良いんっスか…?

今回の悪い意味でMVP。
3800人の何の罪もない魔王を葬ってきたことで、他者をいたわる感情が一切抜け落ちてしまったような不気味さを感じる。
こいつ個人がサイコパスなわけじゃない。
こんな奴が平然と存在する社会になってしまったことが恐ろしい。
紋章術なんかより遥かに恐ろしい人(魔人)の悪意。

HUNTER×HUNTERのネテロも同じこと言ってたよなあ。
武の極みに達したネテロという個人をメルエムが圧倒したことで「キメラアントは人間を種として上回った」と考えるのは、人という種族を何も理解していない。
利益を追及した結果、自分達が容易に絶滅するような兵器を安価に生み出せるようにまでなってしまう、底すら知れない「悪意」こそが人の恐ろしさなのだと。

ここまで描いた以上、エンドがラスボスではないことは明らかだろう。
「悪意」を生み出す存在に勇者として立ち向かう第二章の展望は絶対にあると思う。
読むためにはアンケ入れなければ!

・痛みに言及しないエンド

耳が、鼻がおかしくなりそうと言いながら痛みに触れないエンド。
個人的にはかなり違和感を感じた。
具体的な拷問シーンはなくても、文字で描写されている内容から想起できる痛みは、精神力でなんとかなるレベルを越えている。
「さ!舌出して!」はやべえって。
エンドには痛覚がないのかもしれない。
痛覚がない(かもしれない)のに他者の痛みを想像して自らを押さえ込み続けたエンドは、本質的には誰よりも優しい子なんだろう。
これも禁忌の報いなのかもしれない。
誰よりも優しい子に、死の紋章を備えた魔王の宿命を背負わせるという。

皮肉なのは、痛覚があったらここまで耐えられなかったかもしれないということ。
耐えられたせいで、ナニカは肥大化してしまった。
いくら死屍累々が母なる紋章とはいえ、もっと早く限界を迎えていたなら、ここまで肥大化しなかったかもしれない。

◆邂逅

「無垢」の描き方が天才的。
踏み荒らされていない花畑。
透き通ったエンドの瞳。
勇者の使命を語る何の躊躇いもなく語るエヴァン。
そして、これらの描写が澄み切っているからこそ、蜘蛛の巣にかかる蝶が不穏。

2024年18号より
エンドだって守る心を持っていた

後述するように、蝶は価値観の変容のモチーフなんじゃないかと考えている。
魔人と人が争う世界の中、魔王と勇者が「守る」という目的を一致させて社会の価値観を変容させようとしている。
この二人の未来が既に雁字搦めであることを暗示するかのような蜘蛛の巣が恐ろしい。
エヴァンが母なる紋章を持って生まれたせいで、魔人は禁忌を侵した。
この世界はもう引き返せない。

もし、エヴァンが母なる紋章を生み出すための魔人の行為を知ったなら、自らの命を絶つのも分かる。
自分がいるだけでどれだけの命が失われたか知ったら、守ることに力を使いたいと言っていたエヴァンだからこそ耐えられないだろう。
グリシャもどきが言っていたことは本当なんだと思う。
何度もエンドに蘇生させられるうちにエヴァンの勇者像は消えてしまったんだと思うとエヴァンの人生もまた壮絶。

ちなみに顔が隠れているグリシャっぽいやつはグリシャではないと予想している。
グリシャはエンドをたまたま後発的に利用するチャンスを得たにすぎないが、こいつは初めからもっと上位視点から物を見ている。
同じグループに属した存在ではあると思うけど。

◆羽化

サブタイトルはエンドの羽化を指していた。
肥大化した死屍累々の顕現。

・蝶が意味するもの

これまでも、蝶は意味深に何回も出てきている。
考察は引用ポストのとおり。

画像はそれぞれ2023年42号、2024年13号、2024年3号。

ラルフがコルレオに目を覚まされ、「勇者と魔王が手を繋ぐなどという絵空事」を信じようとし始めたシーンにも蝶が出てもいいんじゃないかなーと思った。
単行本で加筆されたりしないかな。

これまでは常にポジティブなシーンで描かれてきた蝶。
しかし、今回描かれたのは真逆といっていい最悪なシーン。
「価値観の変容」を意味する蝶がドクロから羽化する。
優しい少女が悪魔に変わる。

・愛に対する捻れた理解

「捻れた理解」が具体的にどのような理解を表しているのか完全には読み取れなかったけど、コミュニケーションを伴わない、物言わぬ首に接吻する行為が愛なはずがない。
しかし、自分の望みを通したことがなく、花畑でのエヴァンとの会話以外にまともなコミュニケーションを取ったことのないエンドが、正しい理解にたどり着けるはずもない。
捻れた理解を思うままに振り回せるようになる不幸。

・肥大化した目的意識

やがて彼女は異形へと姿を変えた。
目的意識の重要性が強調され続けている紋章術。
強すぎる目的意識は、やがて本人を飲み込んでしまうのかもしれない。
深層心理にまだ本来の性格が残っており、その意思に反する行動をし続けているということは、紋章術に行動を乗っ取られてしまったと言えるように思う。
まだ明らかになっていない刻印解●も、目的意識にある程度身を委ねることで能力の可能性を広げるものなんだろうか。
だとしたらリスクも大きそう。

◆世界から背けた目。それでも流れる涙

コマ割りで目を隠したハロハロ。
何の変哲もない目隠しを使っているエンド。
同じ獅子凛々の世界で顔を合わせたにもかかわらず、両者の目の隠し方は対照的。

他者から見られないためではなく、世界から目を背けるために、原始的な手段で目隠しをするエンドのほうがハロハロより人間臭い。

それでも涙はこぼれる。
他者を不幸にさせたくない。
こんな自分なら生まれないほうが良かった。

2024年17号より
この涙の解釈ほんと好き

他者のためでもあり、自分のためでもある涙を流せるエンドは優しくて強い。
この涙を流せる以上、エンドは本心では世界を拒絶しきってはいないんだと思う。

・コルレオ復活の理由

エヴァンがコルレオを生き返らせることができたのは、母なる紋章だし命を賭ければそれくらいできるのかなーくらいに思っていた。
まさか死屍累々の効果だったとは。
エヴァンが言う「命と引き換えに」というのは、蘇生にかかるコストではなく死屍累々をコピーした副作用か。

グリシャは「永遠の命も死者蘇生も思うがまま」って言っていたけど、本当にそんなわけがなかった。
あくまで効力はエンドの生存する間という条件付き。

コルレオは、エンドにとっての救いになるのであれば、自分の命を賭けること自体はできてしまう。
だが、この涙を見てエンドの死が本当の正解という結論は出さないだろう。
もはやエンドと一蓮托生となったコルレオがどんな答えを出すのか座して待つのみ。
エンドもエヴァンも救ってくれ。

◆まとめ

時間がないなら記事を簡易にすればいいんですよ。
そんなこと分かってる。
でも書き始めるとシンプルにまとめられないし次から次へと書きたいことが出てきてしまうんです。
読めば読むほど味がするんだよなあ。
これでも書く内容は厳選してるんだけど…。

冒頭に書いたとおり当面は更新が遅れるかもしれませんが、引き続き楽しみながら記事を書いていきます!
更新が遅れそうってポストに対するいいねで応援してもらているような暖かい気持ちになれました。ありがとうございます!

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