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三島由紀夫の作品で一番好きな『夏子の冒険』

三島由紀夫と聞くと、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか。

代表的な作品は『金閣寺』や『仮面の告白』など。

もしくは、数年前に映画化された東大全共闘で白熱して討論する姿か、小説家としては異色とも言える壮絶な最期が印象に残っている人もいるかもしれませんね。


そうした強烈なイメージとまったく結びつかない小説が『夏子の冒険』です。三島由紀夫の中で個人的に一番気に入っています。

『夏子の冒険』(なつこのぼうけん)は、三島由紀夫の7作目の長編小説。無邪気で破天荒な美人のお嬢様・夏子が、猪突猛進な行動力で北海道に向い、仇討ちの青年と一緒に熊退治に出かける恋と冒険の物語。夏子に振り回される人たちの慌てぶりを交え、コミカルなタッチで描かれた娯楽的な趣の作品となっている。
Wikipediaより引用

作品紹介でも書かれている通り、まさに「娯楽小説」の極みとも言える作品です。恋愛あり、涙と笑いがあり、冒険があり、謎解き要素もあり。エンタメの要素をこれでもか!というほど詰め込んでいます。

世間一般の「三島由紀夫」のイメージとだいぶギャップがあるのではないでしょうか。


この作品の魅力は、なんといっても主人公の「夏子」です。

夏子は、裕福な家庭に生まれた美人のお嬢様。数々の男性を虜にしていきましたが、変わり映えのしない日常に飽きてしまい、周囲の反対を押し切って、函館の修道院に入ることにします。

ところが、函館に向かう車中で出会った青年に一目惚れ!実はその青年は、敵討ちのために一頭の熊を探していました。「熊退治」と聞いた夏子は怯むどころか、修道院のことなどすっかり忘れて、むしろ青年と一緒に行動することを目指します。そして、二人は熊を追いかけて北海道の冒険の旅に進んでいくことに……。


これだけ読むと、「なんて我儘なお嬢様!」と思うかもしれませんが、歯に衣着せぬ夏子の物言いと肝の座った行動力のおかげで、ちっとも嫌味に感じません。周りをとことん振り回すのですが、当の本人はどこ吹く風。

恐るべし夏子の魅力。

まさに究極のヒロインとも言える存在です。


そして何よりも凄いのが、こうした魅力的なキャラクターを余すこと無く活かし、物語の中で巧みに操る三島由紀夫の文才です。読者を飽きさせない軽快なテンポはとても70年以上も前の作品とは思えません。

1953年に映画化されているようですが、現代で実写化もしくはアニメ化しても流行るのではないでしょうか。


「文学」というと、取っ付きにくいイメージが強い人も少なくないと思います。たしかに、言葉の言い回しが古かったり、時代背景が今とちがったりして、スラスラ読みにくい作品もあります。

でも、『夏子の冒険』はちょっと別。
騙されたと思って、ぜひ一度読んでみてください。

この作品がもっと注目されて、また映画化してくれたら嬉しいなと密かに思っています。


みな


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