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ロシア国民は反戦の声を上げていないのか2

 プーチン大統領は、これまでも、石油会社ユコス社長だったミハイル・ホドルコフスキーを8年以上にわたって刑務所送りにしたり、チェチェン戦争でのロシア軍の犯罪行為を告発したジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤや、反体制人気政治家のボリス・ネムツォフを暗殺するなど、自らの権力を脅かすカリスマ的存在を、排除してきました。暗殺については、プーチン大統領本人の指示があったという証拠はないものの、大方の意見はそうです。

 政権による弾圧を恐れて国外移住する著名人が多い中、ナワリヌィやヤーシン、カラムルザは、あえて国内にとどまって反戦・反体制活動をしてきました。安全な国外からいくら反戦や反体制を叫んでも、国内にいる人たちの心には響かないと考えたからです。

 ナワリヌイの葬儀や墓の周囲には、当局による厳戒態勢が敷かれましたが、拘束される危険にも関わらず、多くの人が長い行列を作りました。地方都市では、その都市を象徴するようなモニュメントの前に、当局によって捨てられても捨てられても、市民が手向けた花が山積みになっています。

 ナワリヌイは生前、自由で幸福で民主的なロシアを作ることを夢見て、反体制活動をしていました。自分が死んでも、恐れず、残った人たちで活動を続けてほしい、自分たちのような反体制派は思ったよりたくさんいる、連帯せよ、と訴え続けていました。

 彼の最後の呼びかけが、「反プーチンの正午」という、先日行われた大統領選挙の3日間にわたる投票の最終日の、各地の時間で正午に投票所に行く、という行動でした。反対制派の候補者が全員立候補を拒否され、対立候補は政権の息のかかった人ばかりでプーチン大勝が確実な中、同日同時刻に投票所に行こうというのです。

 プーチン以外の候補に投票したり、全員の名前に×をつけたり、「戦争反対」と書いたり、投票用紙を破ってもいいし、何もせずただその場に行くだけでもいいから、とにかく反戦・反体制の立場の人たちで集まって連帯しよう、自分たちがたくさんいることを確認しよう、という趣旨でした。

 ナワリヌイは投票日前に亡くなってしまいましたが、その遺志を継いだ妻のユリアが、SNSでこの行動への参加を呼びかけ、それに応じた多くの人たちが、全国で100人近い拘束者を出しながらも、国内外各地の投票所に長蛇の列を作りました。

 今のロシアで、プーチン政権とウクライナ侵攻にNOを突きつけるためにできる最大限のことが、この「反プーチンの正午」だったのだと思います。それほどまでに、ロシアという国で独裁と全体主義が進んでしまった、ということです。

 プーチン氏再選のために、3日間の投票日のうち、官民を問わず企業や組織の職員は、多くが、所属先から強制されて初日に投票をしました。その日に投票所に行って投票しないと、職務上支障をきたす組織が多かったようです。プーチン氏に投票せよとの指示はなかったようですが、投票率が上がれば当然プーチン氏の得票率も上がるので、指示は不要なのだと独立系メディアは伝えていました。

 組織として電子投票が義務付けられていて(電子投票の方が結果を操作しやすいと言われています)、それを拒否して3日目に「反プーチンの正午」行動に参加した人で、「職場で誰かが自分の名前で電子投票をしていて、二重投票になった」と証言する人もいました。

 また、投票用紙に「戦争反対」と書いて投票箱に入れた人が、その場で警察官に拘束される事件も起きました。その警察官は投票箱のすぐ近くで監視していて、投票用紙に書かれた「戦争反対」の文字を覗き見たとのことです。

 ロシアの選挙は不正が罷り通っていて、今回の大統領選でも、プーチン大統領は自分の好きな数字をでっち上げることができる、と選挙前から言われていました。

 ロシア国内では「外国エージェント(スパイ)」指定を受けて放送を禁じられている独立系メディアのニュースでは、そうした違反を当事者の証言とともに数多く取り上げていましたが、一般の国民が見ることのできるテレビ局のニュースでは、「反プーチンの正午」は失敗だったと揶揄する形でほんの少し取り上げただけで、違反については全く伝えていません。

(写真は独立系ネットニュースチャンネル「ドーシチ」より「反プーチンの正午」運動に参加して投票所に行列する人々)

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