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忙しない東京と、日常の「余白」

「ああ、私の生活には『余白』が必要なんだな」

今日はそんなことを実感した1日でした。

***

以前どこかで「東京の生活が嫌い」だと書いたことがあります。今日はいい意味でその考えがちょっと変わり、もう少し的確な表現ができるようになりました。

地元、農村での生活

私は、福井県の小さな農村出身です。

最寄り駅まで歩いて30分以上。(もはや最寄りではない)
小学校の全校児童は70人程度。
3階以上の建物なんてほとんどなくて、小学校の屋上からまち全体が見渡せるような場所。

私は、このまちでの生活が大好きでした。

小学校の夏休みには、集落の子供みんなで、地区中を駆けずり回る。
中学校から帰ると、通学路の近くで畑仕事をしているおばあちゃんに「おかえり〜」と声をかけられる。
大学の受験勉強に疲れたら、ふらっと外に出てこっくりと田んぼに沈んでいく夕日を眺める。

天気が悪い日には雨の匂いがして、稲刈りの時期には風に藁の香りが混ざり、冬の寒い日にはキンと張り詰めた空気を感じる。

決して便利な生活ではなかったけれど、ゆったりとした時間が流れて、
ふとした瞬間に、ふうっと深呼吸したくなるような毎日でした。

福井の夕日。晴れている日には、毎日違う風景がみられます。

東京での生活

私は今、東京に住んでいます。

そして、今まで私は周りの人に、散々「東京は住むところじゃない」と言ってきました。

電車は3分おきに来る。
徒歩10分圏内で、生活に必要なものはほとんど揃う。
競い合うように並んだ高いビルは、どれも新しくてピカピカ。

とても便利な生活ですが、私はここでの生活があまりしっくりきませんでした。

住んでいるのは6畳の1K。
隣の家はおろか、アパートの隣の人の名前も知らない。
富士山が見えるはずの高架の奥には、電線がびっしり。
アパートの屋上に登っても、見えるのはさらに高いマンションだけ。

もちろん、東京に集積している文化資源は本当に凄いです。

でも、ここでの暮らしは、同じような日々の繰り返しで、なんだか息が詰まるような感じがしました。

東京(多分渋谷。)何もかもが手に入る街なのに、何か物足りなさを感じていました。

なぜ、「田舎が好き」で「東京が嫌い」だったのか

「なんで東京は嫌いなのに福井は好きなの?」

今日話した方に、そんな質問を投げかけられました。

改めて違いを明確化するのは、ちょっと難しい。
すこし考えてみて、たどり着いたとりあえずの答えは

「福井での生活には『余白』があったから」

時間割に沿って授業を受ける。
家に帰って課題をこなす。
待ち合わせをして誰かに会う。

そんな規則的で合理的な毎日の隙間の
ふとした瞬間に
「ひと」や「自然」が顔を出す。

規則性と合理性のはざまにある「余白」のような時間が、私は好きだったのかもしれません。

東京で見つけた、わたしの「余白」

東京での生活が苦手だったのは、私の毎日に「余白」がなかったから。

でも、さいきん東京にも「余白」を見つけました。

元々入っていた予定が終わって、ちょっと時間をもてあます。
そんなときに、ふらっと立ち寄りたくなる場所ができました。

その場所にめぐりあったのは、ある「おつかい」がきっかけ。

***

今年の春、いろいろなご縁があって地元の製塩所。
帰り際、にっこり笑顔と芯のある生き方が素敵なご主人に呼び止められました。
「これ、東京の『つきや』っていう酒屋さんに持っていってくれない?」
そう言って、手渡されたのは、1パックのお塩。

「これを通じた出会いも、楽しんで欲しいから。」

そんなご主人の言葉を胸に、4月のある日、その「つきや」さんに訪れました。

おつかいできたとはいえ、どう店員さんに声をかけたものか...
そんな迷いもありながらお店に足を踏み入れました。

店頭のおばさんにことのいきさつを説明すると、
「遠くからありがとうね、ちょっと長居していって。」
そうして飲食スペースに通していただきました。

「つきや」さんは、家族経営の酒屋さん。
お酒の卸売りと、「角打ち」という飲食営業もしています。
近くに大学があるため、大学生もちょくちょく足を運ぶのだとか。

「日本酒ってあんまり飲んだことないよね?これ、ちょっと試しに飲んでいって」
4代目のお兄さんにいただいたのは、3種類の日本酒の飲み比べ。

「お昼ご飯まだ?じゃあ出来合いのものだけど、おつまみ代わりに食べてきなよ」
そうやって、新玉ねぎのサラダ、塩むすび、浅漬け、牛肉しぐれ煮などなどもいただいてしまいました。

初めて訪れた時にいただいた日本酒。
初心者でも手が出しやすい、アルコール低めのものをチョイスしてくださったそうです。

なんだかんだ1時間半くらい長居してしまって、
「またおいで!」といって送り出される。

ふらっと「おつかい」に来た大学生をふわっとあたたかく迎え入れてくれる、
初めて訪れた場所なのに、
なんだか実家みたいだな、と感じました。

***

そしてまたここに訪れたのが今日。

「また来ました、おつかいの子です!」
そう言って店頭のはちみつレモンを買ったら、また日本酒の飲み比べをさせてくださいました。

一番右は、人生初のワイン。

「ねね、今のマック、辻利とコラボしてるらしいよ。めっちゃ美味しそうじゃない?」
そんな超たわいもない会話が始まったかと思うと、
「これ、芋焼酎なんだけど、マスカットの香りがするんだよ。お酒って、使う菌とか材料によって全然香りと味が違ってて...」
そうやって真剣な顔でお酒の話をしてくれる4代目のお兄さん。

私と話す時間で利益が出るわけでもないけれど、
毎回こうやって迎えてくれて、
忙しいはずなのになぜか長居してしまう。

ここで過ごす時間は、
効率・利益・合理性に満ち溢れた東京の生活で、
ふっと息をつける、私にとっての「余白」なんだな、と思いました。

***

「東京が嫌い。東京は住むところではない。」
そう言っていた私も、このお店を知って、東京のことがちょっとだけ好きになりました。

私の生活に必要なのは、合理性からちょっと離れた「余白」。

目まぐるしく変化する忙しない東京で、
こんな「余白」が
どうかなくなりませんように。

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