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まる男の責任感の行方

1973年生まれのまる男は小学校1年の頃から、ある理由でプロも通うボクシングジムで学校以外、ボクシング漬けだった。そして、中学校、友達に誘われて野球部に入る。運動神経は怪物だけど、常識のだいぶずれた少年の物語である


  木田中野球部は今日も練習に励んだ。クタクタに疲れた部員たちが練習を終えると部室で着替え始める。今日は部室ではキャプテンと副キャプテンがこれからの練習内容について話し合っていた。1年生がグランド整備を、そして部室で着替えおえても、まだ話しあっていた。1年生が着替え終わると部室の鍵を持っている垂也が先輩2人に声をかける。すると2人ともカバンを持つと部室の外に出た。1年生はほとんどが帰った後で合わせて5人になっていた。そして、垂也は不満そうな表情をしていたが意を決して先輩2人に言葉をかける。
「先輩。部室の鍵をかけるの。まる男にすべきだと思います。まる男は1年の誰よりも野球経験が浅いのですから。」
まる男は自分を指さし、小声で「俺?」と角郎に言ったが、それには気付かない。
キャプテンが垂也を見てため息をはく。
「いや。まる男に鍵を預けるという事は、まる男が夜、部室に入り放題という事だぞ」
垂也はそこまで考えていない。
「だから。・・・どうなんです」
キャプテンは面倒くさそうにまる男を見る。
「まる男。部室の鍵を預かっても、ちゃんと管理できるか?」
まる男は嬉しそうに語り始めた。
「はい、皆が度肝を抜かれるように頑張ります。
まず、1日目は、・・・ぬいぐるみと造花を飾って部室をファンシーにします。
2日目は・・・ドリアンを部室の各所に配置して、芳香剤がわりにします。
3日目は・・・猫用のドアをつけます。野良猫入り放題で、もふもふ天国です。
4日目は・・・部室のどこかに宝物を隠します。そして、盗まれないように部室のあちこちに罠を仕掛けます。
5日目は・・・部室で花火大会、一個5000円ぐらいする。打ち上げ花火を10発ぐらい部室の中で打ち上げます。
6日目は・・・検閲ごっこ。部員全員のロッカーを斧でこじ開け、中を見ます。
7日目は・・・部室の床に土を埋め立てます。ミミズも大量に入れて良い土にします。
8日目は・・・」
副キャプテンがひたいに手をあて目をつぶるのを見届けてキャプテンは叫ぶ。
「もういい!」
垂也の目を見てキャプテンは言った。
「ほら。まる男に任せるわけにはいかないだろう」
垂也はキャプテンの目を見返した。
「はい。やはり部室の鍵は、俺が預かります!」
この決定に不服なのはまる男だけのようだ。
角郎はもうちょっと、まる男が部室で何をするのか聞きたかった。

もうすぐ来る冬の足音。安普請の部室はひどく寒くなることが予想される。

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