見出し画像

ヴェネツィアで生まれた、「水」への好奇心。

イタリアにきて、はやくも8ヶ月が経ちました。
「そちらの留学生活で得たものは?」と聞かれたときに思うのが、

「水」への好奇心でした。

■ ヴェネツィアと港湾都市、発明の数々

「海の都」ヴェネツィアは、私の今いる街から電車で30分ほど。
さまざまな映画で舞台になった街ですが、何よりも個人的におもしろかったのが「街の発展史」でした。

まず、1,000年以上(!)も独立を保ってきた共和国という点(7世紀末~1797年)が驚きです。鎖国した江戸幕府ですら260年間なのに、そこまで存続していたのかと…。歴史上で最も長く続いた共和国、と実は言われています。

どうやって、そんな長い期間も繁栄できたのか?
その理由に、水の国ならではの「イノベーション」の数々がありそうです。

例えばひとつには、統治技術が優れていました。国のトップは元首(=ドージェ)といわれ、終身制だったわけですが、ここに「十人委員会」や「四十人委員会」といった機関が設けられ、権力の分散が図られる。

なので周辺国が「ヴェネツィアを滅ぼす!」といって暗殺者を仕向けて元首ひとりを仕留めても、情勢があまり変わらなかったり。興味深い政治手法です。

また現在の資本主義社会でも広く扱われる複式簿記の制度が、イタリアの都市国家で生まれて、交易上ヴェネツィアで発展を遂げました。

本式の銀行開店で、当時のリアルトは、現代のわれわれが、シティとかウォール・ストリートとかいう言葉を聴くと感じるのと同じ感じを、北はロンドンから南はカイロに至るまでの商人に与えたのだろう。

塩野七生「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 (上)」新潮社

ドイツにロンドンからも、また北アフリカのカイロやアレクサンドリア、シリアといったところまで。商取引に従事するあらゆる国々の人々が集い、この水の地で決済をした。必然的に「どうやったらスムーズにやりとりできるか」を考えるため、銀行や為替の発達を促していったわけですね。

今でも銀行の 'bank' はイタリア語の'banco'を起源にしています。アメリカや北西ヨーロッパ的な「ザ・資本主義」なものが、この中世イタリアの都市で先駆けていたのが、何とも意外に感じられます。

さらには、聖地巡礼のパッケージ型観光事業を始めたのも、ヴェネツィアでした。また植民地経営的にキプロス島で砂糖の栽培もしてたり、とにかく外向きに打って出ていた都市です。

■「水」はイノベーションの源

「水」は、人類社会において、イノベーションの源といえるのではないか?

古代・地中海交易で栄えたフェニキア人は、アルファベットの生みの親です。何十億人もの現代人が今も自然と使っているイノベーションが、古代の地中海で生まれていたんですね。またPaypalを始めとしたキャッシュレスの技術が、シリコンバレーの発明家により続々と創出されている。

海=大洋に開けた都市は、常にイノベイティブであり続け。「世界とつながっている」という、冒険に満ちた空気感が張り詰めている。

水をはさんで、常にものが飛び交うため、「効率性」が求められる。異なる集団との交渉・コミュニケーションを容易にするため、象徴文字を改良して線状アルファベットを生み出し、金や銀を持ち込まなくても帳簿上で決済を済ませ、今や電子取引のアプリで「価値」の交換をする。

フェニキア人もヴェネツィア商人もシリコンバレーの起業家も、海洋に接して生まれたイノベーションの集団でした。

世界史の窓 「ハンザ同盟」より。

他の欧州社会でもロッテルダム、アムステルダム、ハンブルク、タリン、リガ、ロンドン、コペンハーゲンなど。北ドイツのハンザ同盟を始めとして、北海・バルト海交易で栄えた都市群は、今でも国の中枢を担っています。

日本も例外じゃなく。大都市圏は港湾に栄えてきました。東京湾 (首都圏)、伊勢湾 (中京圏)、大阪湾 (阪神都市圏)、博多湾 (北九州圏)。湾沿いに栄えた大都市圏だけで、全人口(1億2000万人)の4分の3は占めるでしょう。

中学や高校の地理を学べば、だいたい一度は習う内容ではありつつも。実際に水に囲まれたヴェネツィアを歩き回ることで、より実感覚に裏付けされたインプットができたように感じます。

■ 日本と「水」

日本に触れましたが、振り返ってみると水との関わりがとても強い国だなと改めて実感します。国土の全方位を水で囲まれてる国は、なかなか珍しいです。

レストランは水がタダ。学校ごとにプール(25mで約540,000L)が設置されている。風呂の浴槽は毎日貯めて入る習慣がある…。何気なく当たり前に享受してきた「水」が、大陸ヨーロッパにいると重要なことに感じます。

日本の特色として、年間の降水量は1,600~1,700mmで世界平均の倍以上 (ひとり当たりでは1/3と低いですが)。また花崗岩(水の浸透が早い)が多い地質で、狭く傾斜が急な山々に囲まれるために、山から海まで流下するスピードが早い。水に溶け込むミネラル分が少なくなるため、お米がおいしく炊ける軟水になる(欧州圏は硬水で、ワインや牛乳で煮込む料理が多い)。

そんな「水」とともにあったからか、節水技術も優れており。日本の漏水率(浄水場から蛇口に届くまでに失われる水の比率)は、世界で最低レベルの5%台(イタリアは55%以上…)。福岡市などは最低位の水準で、わずか1.7%程度です。

またビジネス面でも。衛生陶器のTOTOやLIXILが製造する節水型トイレは海外展開が盛んだったり、目薬、液晶や半導体に必要な純水(H2Oに限りなく近い純度の水)の製造でも、栗田工業やオルガノ、野村マイクロサイエンスなどが海外事業で強かったりと。日本が「水」というブランド力をより活かしていけないだろうか、という好奇心を抱いています。

■ 「水」からの好奇心

留学で学ぶ利点は、プログラム内で学ぶことももちろんですが、異なる街を歩き回る機会が持てる中で、五感で味わいながら「これまで当たり前だと思っていたもの」が崩される瞬間にあった気がします。

そのときこそ、さらなる好奇心がやってくる。私にとってのイタリア(ヴェネツィア)を通した「水」がそれでした。地理への好奇心がさらに増大し、日本との比較をする上でも今後も学び続けていきたいと思っています…!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?