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メッセンジャーバード

昔、仲間たちと車で遠くに行くとき、トランクにギターと一眼レフカメラと煮炊き道具一式と水彩絵の具とグローブと釣り竿と栗の木のインゴットと彫刻刀とトンカチと巨大ノコギリと規制刃渡り以上のナイフとジャックダニエルの携帯は絶対だった。仲間はそれぞれの旅のカバン、道具があるから毎回ぼくのそれらをそれらを邪魔として廃棄しようとしていた。

当時はきちんとした宿に泊まることに抵抗があり、そこまでの身分でもなかったことから宿泊は無人駅もしくは民宿が主だった。

それでよかった。その後の繰り返す日々の中でその時の仲間達の内ふたりは割りと早いうちに逝ってしまった。

そんなことを思い出しながらスマホを一周、確認作業をする。やらなくてもいいことだ。そして今夜もまた夜が始まる。時間が経つに連れ少しのお酒によって弛緩させられた筋肉が訴える。身体はもうまもなく起き上がっていることに限界を迎え、適当なところまで文章を書いた後に深い眠りにつく予感がしている。

いのちが歌っている。無風の夜に行われた先週のキャンプは不健康な義務感を含まない安心と空白の時間。大きな焚き火の煙が真っ直ぐ天に上がっていた。是、狼煙。月夜の空に立ち上る煙は数十キロに及ぶまで届く美しいメッセンジャー。ラインや携帯用メールなど足元にも及ばない美しいメッセージツールだ。いつまでこの環境を贈られているか分からないが、手放すことを避けたいと思っている。

・・・

朝が来てしまうことの口惜しさ、住み慣れた夜に眠らなければならないという口惜しさが並立している。決して無理はしない、と誓った一方で、くらやみを楽しむ間隙の時間をもう少し享受したいと思うのは、夜更かしが出来なくなった我が身の我儘かもしれない。


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