I. はじめに

IEO(Initial Exchange Offering)という資金調達方法があるのをご存知だろうか?

暗号資産取引所を通じてトークンを投資家に販売し、そのトークンをそのまま取引所で売買できるようになる仕組みだ。

これは、株式を上場するIPO(Initial Public Offering)のアナロジーからIEOと呼ばれるようになった。

そもそもIPOとは株式を発行することで多数の投資家から資金を調達することを意味するが、同時に株式を市場に上場させることで、投資家の間で自由に取引ができる状況にすることを含意する。

IEOも全く同様で、トークンを発行することで多数の投資家から資金を調達することを意味するが、同時にトークンを市場に上場させることで、投資家の間で自由に取引ができる状況にすることを含意する。

ここで、IEOとIPOの共通点は、

  • 多数の投資家からお金を集める

  • 投資家は自分の投資をいつでも精算できる市場が存在する

と言えることができる。

では、両者の違いはどこにあるのだろうか?以下でIEOとIPOの相違点についてまとめていこうと思う。

II. 上場に際しての登場人物

その前にIPOとIEOを比較し、株式・トークンいずれも上場に携わる登場人物を整理してみよう。
下の表をご覧いただきたい。横軸にIPO、IEOを取り、縦軸に機能を並べ、それぞれの登場人物を整理した。

(1) 発行体

IPOの場合、株式の発行を前提とするため株式会社に限定される。
一方で、トークンを上場させるIEOは必ずしも株式会社に限定されるわけではない。

上場するトークンは提供しているサービスやゲームなどのポイントやそのサービスやゲームの仕様を決定できる権利などさまざまであり、必ずしも株式会社に限定する必要がないからだ。

(2)取引所

株式であれ、トークンであれ、それらが流通する取引所が必要である。この取引所の運営体として、IPOの場合は証券取引所、IEOの場合は暗号資産取引所を運営する暗号資産交換業者となる。

証券取引所の代表例は何と言っても東京証券取引所だ。暗号資産取引所はコインチェックや、ビットフライヤー、ビットバンクなどが代表的な取引所として挙げられる。

証券取引所を運営するには金融庁よりライセンスを取得する必要があり、暗号資産取引所を運営する場合も、同じく金融庁よりライセンスを取得する必要がある。

証券取引所は金融商品取引法に、暗号資産取引所は資金決済法にそれぞれ規制が定められている。

(3)販売者

IPOやIEOの場合、発行体が直接投資家に対して販売することは現実的ではない。
特定の少数の投資家に株やトークンを販売するなら可能かもしれないが、不特定多数の投資家に販売することを想定するIPOやIEOの場合、株式、トークンそれぞれの顧客基盤を持っている証券会社と暗号資産取引所を通じて販売する方が圧倒的に効率的だからだ。

ここで、株式を不特定多数の投資家に販売する場合には第一種金融商品取引業のライセンスが必要であり、また、トークンを販売する場合には暗号資産交換業のライセンスが必要となる。

いずれも金融庁がライセンスを認可し、根拠法令も(2)取引所と同様に株式の場合は金融商品取引法、トークンの場合は資金決済法に定めがある。

(4)審査

IPO、IEOいずれの場合も証券会社、暗号資産取引所それぞれが抱える顧客に対して販売をすることになるため、自社の顧客に問題ある商品を買わせないようにするために株式やトークンの審査を行う。

また、IPOの場合は東証は審査専門部隊(自主規制法人)を東証の外部に設立し、実効性ある厳しい審査体制を構築している。一方、IEOの場合は暗号資産取引事業者で構成される一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が審査を行っている。

(5)発行体の会計監査

IPOの場合、発行体である株式会社の決算の状況に嘘がないか発行体の会計監査が求められる。これは証券取引所における要請と金融商品取引法の定めによるものである。

一方で、IEOの場合、発行体の会計監査が求められているわけではない。今後IEOの際にも発行体の会計監査が求めるという噂を聞くが、2024年2月時点においては制度化されていない。

III. IPOとIEOの相違点

上記の登場人物の整理を踏まえて改めて、相違点をまとめると、以下の2点に集約できる。

  1. 取引所運営者と銘柄の販売者が同じか否か

  2. 会計監査の有無

以下それぞれ深掘る。

1. 取引所運営者と銘柄の販売者が同じか否か

繰り返しになるが、株式の場合、株が流通する市場は東証を代表とした証券取引所が担い、そこで投資家間の株式の売買の代行を証券会社が行っている。

つまり、市場の運営者とそこで商売を行うプレイヤーが違うのである。

一方で、トークンの場合、トークンが流通する市場は暗号資産取引所が担い、そこでトークンを売買代行するのもまた市場を運営している暗号資産取引所となる。

つまり、市場の運営者とそこで商売を行うプレイヤーが同一という点が特徴的だ。

トークンの場合、IPOにおける主幹事証券会社が担っている役割と東証が担う役割のいずれも暗号資産交換業者が担うことになっている点は興味深い。

2. 会計監査の有無

IPOには発行体の会計監査が求められるが、IEOには求められない。

これはIPOの場合、発行体の決算の状況は株式の価値にダイレクトに関係する情報であるが、一方で、IEOの場合、発行体の決算の状況と、発行体が提供するサービスやゲームに関するトークンの価値には理論的には関連性がないため、会計監査は重視されていないものと考えられる。

IV. おわりに

IPOとIEOについて、それぞれに関わる登場人物を中心に比較した。

IPOは株式の上場実務の中で長い歴史を経て様々な失敗と反省の上に今の実務が確立されているわけだが、未だに問題は後を絶たない。

まだ、実務が固まっていないIEOについては黎明期故にカオスであるのは言わずもがなだ。

しかし、ここまで死屍累々の上で資本市場が発達してきた点に鑑みると、IEOも多くの失敗は経験しつつも、着実に実績を重ねて新たな資金調達の方法の1つとして確立してほしいと心から願っている。

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