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週刊金融日記 第549号 営業と広報をぜんぶクビにするイーロン・マスクの経営がすごすぎる、FTXはクリプト版セノラスかマドフ、香港のフレンチで北海道産ハマチを食べて気候変動を考えた話、ルッキズムは本当に蔓延っているのか、他

// 週刊金融日記
// 2022年11月22日 第549号
// 営業と広報をぜんぶクビにするイーロン・マスクの経営がすごすぎる
// FTXはクリプト版セノラスかマドフ
// 香港のフレンチで北海道産ハマチを食べて気候変動を考えた話
// ルッキズムは本当に蔓延っているのか
// 他

 こんにちは。藤沢数希です。
 この一週間、世界第2位だったクリプト交換所のFTXの破綻が、人類史上最大のポンジであることが発覚しつつあったり、Twitterを100%買収したイーロン・マスク氏がいきなり世界で6割以上の社員をリストラする様子が、それこそTwitterからリアルタイムで流れてきて、もう、とんでもない情報の洪水でヘトヘトでした。

●FTX「前代未聞の経営」 記録不十分・資金流用疑いも 新CEOが批判、裁判所資料で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN180A20Y2A111C2000000/

 さて、まずはFTXのほうですが、これは粗末な中身でした。ポンジ(Ponzi)というのは、日本語だとネズミ講と訳されるので、ネットワークビジネスのような語感が強いですが、非常に古典的な投資詐欺です。FTXは顧客の資金を流用していたと言われていますが、銀行は顧客の預金(顧客=債権者)を他に貸し出したりしますから、どういうのが詐欺で、どういうのがいいのか、銀行と証券会社の違いとか、顧客の資産を運用するファンドとか、いろいろ金融の規制を説明しないといけないんで、まあ、今週号ではあっさりと書きたいと思います。興味がある方は、拙著を読んでください。

『外資系金融の終わり』
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 顧客からお金を預かって、それを運用して、運用報酬を取った後の損益を顧客に返すファンドのビジネスでポンジを説明すると、たとえば顧客から100億円預かって、今年は+10%儲かったから10億円配当しますよ、と本当は儲かってないのに預かり資産からそのまま配当していけば、10年間はバレません。10年経った後に全部なくなっていることに気づくわけです。しかし、毎年10%も配当しているなんてすごい!と評判になって、次から次へと新規顧客がやって来れば、ポンジスキームはなかなかバレず、この流入が続く限りとんでもない資金が集まってくることになります(実際に配当していて投資している人たちは儲かっているわけです!)。これで人類史上最大のポンジをやったのがマドフで、その規模は7兆円超えていました。彼は懲役150年になりました。FTXはこれを上回る規模になるかもしれません。

●マドフ受刑者が死去、巨額詐欺事件で禁錮150年
https://www.reuters.com/article/people-madoff-idJPKBN2C134Z

 血液たった一滴で瞬く間にさまざまな病気の同時診断ができるすごい検査装置を発明したとして一世を風靡した、スタンフォード大学中退の美人すぎる研究者ことエリザベス・ホームズさんが設立したセラノスというベンチャー企業がありました。著名なエンジェル投資家やベンチャーキャピタルから多額の資金を集め、次のスティーブ・ジョブズが現れた!などと言われ、彼女はフォーブス誌の表紙を飾ったりしましたが、後にインチキであることが判明しました。彼女も最近ようやく裁判が終わり、これから11年以上は刑務所に入ることになりました。

●速報:セラノス創業者のエリザベス・ホームズに、禁固11年超の有罪判決
https://wired.jp/article/theranos-elizabeth-holmes-is-going-to-prison/

 先週号では、FTX破綻直後に大急ぎで記事を書き、メルマガ配信しました。僕はTwitterでフォローしている、クリプト界隈の詳しい人たちの意見を参考にしてまとめました。記事に書いたとおり、情強ほどFTXを使っており、そんな人たちは、当時はまだサム・バンクマンフリード(SBF)たちを信じていたようで、「分別管理されている」自分のお金も戻ってくるだろう、と希望的観測があったように思います。SBFは大手メディアにも多額の広告宣伝費を払っていましたし、大谷翔平さんや大坂なおみさんも米国のFTX被害にあった投資家たちから訴えられたように、著名なスポーツ選手や芸能人、インフルエンサーたちも、FTXから多額の報酬を受け取り、FTXを宣伝していました。また、SBFは米国の民主党に巨額の献金をしています。
 こうしたことから、当初は、ライバル取引所のBinance社がトークンを売ったことから、取り付け騒ぎのようなことが起きて、果敢なリスクテイクが仇となって破綻してしまった……、というような、かつてノーベル経済学賞受賞者などが運用していたヘッジファンドLTCMの破綻劇になぞらえ、最大限にSBFたちに好意的な解説がされていましたが、中身を開けてみたら(捜査はまだまだこれからでしょうが)、FTX破綻はマドフやセラノスの方にずっと近い、とてもお些末なものだったようです。

週刊金融日記 第548号 業界No2クリプト取引所FTX破綻でこれから連鎖倒産がはじまる

●広報大使の大坂なおみ選手・大谷翔平選手も対象、FTXの投資家が元CEOら提訴
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20221118-OYT1T50114/

●FTX創業者、救世主から悪役への顛末
https://jp.wsj.com/articles/how-ftxs-sam-bankman-fried-went-from-crypto-golden-boy-to-villain-11668414003

 教育本である拙著『学歴攻略法』がとうとう発売されました。いろいろと感想が集まってきているので、いくつか紹介したいと思います。

『コスパで考える 学歴攻略法』
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●『コスパで考える学歴攻略法』強く推奨する、はむっち@ケンブリッジ英検

★親の愛ゆえに、国によって姿形は違えど、どこでも受験戦争は起こるんですよね。


 今週も読者から興味深い投稿がいくつもあります。見どころは以下のとおりです。

- 経済・資本主義・投資などの分野で面白かった本をご教示ください
- 双極性障害の治療であえて保険外の治療を行おうと思います
- 近年のルッキズムが跋扈する恋愛市場についてどう思われますか

 それでは今週もよろしくお願いします。

1.営業と広報をぜんぶクビにするイーロン・マスクの経営がすごすぎる

 イーロン・マスク氏が買収したTwitter社ですが、変革のスポードが速すぎて、もうすごいです。まずは、グローバルに約7500人いた従業員ですが、初日にいきなり半分がクビになりました。その後も断続的にクビ切りが行われ、現在は2700人まで減ったようです。

●Twitter had nearly 7,500 employees before Musk took over. Now it has about 2,700.
https://www.theverge.com/2022/11/21/23472025/elon-musk-twitter-hiring-again-ending-layoffs

 これに、反イーロンのメディアなんかが、もうTwitterは終わる、障害が起きてTwitterは使えなくなるだろう、と盛んにTwitter上で報じていました。
 しかし、そんなイーロン・マスク氏が、残ったエンジニアたちと深夜まで必死に働いている様子をTweetすると、世界中のオタクや陰キャたちのハートをがっつりと掴んじゃったようで、親イーロンの人たちが、Twitterは大丈夫だ、これからもっと良くなる、などと盛んにTweetしています。

★Twitter社に残ったエンジニアたちと共にイーロン・マスクは深夜まで働いていました。

★一方で、イーロン・マスクは広報とかマーケティングとか、なんとかコミュニケーションみたいなキラキラ部署をぜんぶまとめてつぶしました。

 また、世界を良くするために政治的に好ましいと思われる情報をキュレーションして、ご親切にも僕のタイムラインに流してくれていた方々が綺麗サッパリと全員がクビを切られたので、僕のタイムラインは、ふつうにフォローしている人たちの重要Tweetがそのまま流れてくるようになり、とても快適になりました。
 世界を好ましいものにするために永久凍結されていた方々も、復活してきましたね。

★トロント大学の心理学教授のジョーダン・ピーターソンは女性差別的であるとしてTwitter社から永久凍結されていたのですが、復活しました。

★凍結されていたトランプ前大統領のアカウントも復活しましたが、トランプ氏はバンされたあとに、自ら新しいSNSを立ち上げており、そちらの居心地がいいからなのか、Twitterに戻ってくるかどうかはわかりません。

★イーロン・マスクはトランプに戻ってきてほしそうですね。

 さて、今週は、この世間を騒がしているイーロン・マスク氏の基本的な経営戦略について、僕なりに理解したことをいろいろと書きたいと思います。

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