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介護の言葉⑬「自分語り」と「体験談」

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることが出来ています。


 初めて、読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。

 この「介護の言葉」シリーズでは、介護の現場で使われたり、また、家族介護者や介護を考える上で必要で重要な「言葉」について、改めて考えていきたいと思います。

「自分語り」と「体験談」

 このシリーズは、いつもは、どちらかといえば、支援者、専門家など、周囲の方向けの話だったと思いますが、今回は、家族介護者向けの内容でもあるかもしれません。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたく思います。

(私自身の経歴につきましては、このマガジン↓を読んでいただければ、概要は伝わると思います)。

 さらに「介護の現場」で使われているというよりは、今回の話は、介護のことが、社会の中で、どのように見られているのか、という視点からの話でもあるので、少しぎこちなさや、違和感があるかもしれません。それでも、こうして介護のことを書いてきて、改めて考えたいことだと思いました。

 第13回目は、「自分語り」と「体験談」について、お伝えしたいと考えています。

影響された記事

 突然、このようなことを考えたいと思ったのは、完全に、この文章の影響です。

 この記事は、夫婦別姓の制度を実現させたい、つまりは現状を変えようとする人たちが、どうして、「自分語り」をするのか。について、これまでなんとなく分かっているようで、分かっていないことについて、かなり明確に形にした印象がありました。

 誰もが好きで語っているのではない。悲痛さを伝える必要があるからこそ語るのだ。現行の制度で何かを変えようとする側が、婚姻の形態や性的指向など、本来開示しなくていい私的な事柄を開示しないと、当事者の悲痛さや不便さが伝わらず事態も動かない。だから、語らざるを得ないのだ。

 これは、「夫婦別姓の制度」に関する社会運動の話なのですが、自分自身についても、改めて考えることができました。

介護に関する「自分語り」について

 私自身も、こうしたnoteの記事で、「自分語り」をしていることになると思います。

 どうして、このように「自分語り」にも見えることを続けているのか?

 それは、この20年の介護に関わる中で、家族介護者支援に関して、これから何が必要なのか。自分なりに理解したことがあり、それを少しでも広く伝えようとするために始めて、そして続けています。

 さらに、もう少し詳しく言えば、大きく分ければ、2つの目的のために、このnoteも始めています。

◎家族介護者への理解は、まだ本当に進んでいないので、そのことを、少しでも伝えたい。
◎家族介護者への支援については、個別的で心理的な支援が重要で、その体制を整えていくべきと考えているので、その必要性を伝えたい。

 これを「社会運動」というのは、自分自身でも大げさですし、そういう意識もほぼありませんが、生意気にも、社会のシステムを、少しでも何かを変えていこうとするならば、どうして「自分語り」が必要なのか?といったこと自体も考えていかないと、ダメかもしれないと思いました。

「自分語り」の2つの理由

 私が、「自分語り」をするのは、理由が主に2つあります。

 そんなに他の(知らない)人のことを、知りたくないのかもしれない、と思いながらも、介護に関して書くときに、自分の体験という「自分語り」をした方が、より読んでくれるのではないか、と思ったのは、それまでの経験から、でした。これが一つ目の理由です。

 例えば、人前で、介護に関して話をするときに、「臨床心理士(公認心理師)です」と言ったとしても、それほど広く知られている職業でもありませんし、私が誰だか分かりません。そうした時は、簡単でも自己紹介をして、そして、介護のことを語るときに、自分の介護体験を話すと、急に聞いてくれる空気になることが何度もありました。(学会のようなアカデミックな場所では、それはあまり歓迎されないように思います)。

 それで、このnoteで介護のことを語り、ましてや、今の支援の状況を追認するだけでなくもう少しこうした方がいいのではないか、と言った内容も伝えるのであれば、「自分語り」は必要ではないかと、半ば、無意識で続けてきたように思います。そうしないと、読んでくれないのではないか、といった恐れに近い気持ちもあるのかもしれません。


 もう一つの理由は、介護の支援がもう少し必要では。と言ったことを語るのであれば、何が大変なのか、を伝える必要があるからです。それも、具体性がなければ、なかなか分かってもらえないと思っています。

 その時に、私が知っている他の介護者のことは、秘密保持の観点からいって、書くことはできません。修士論文の時に、インタビューに協力していただいた方々の貴重な言葉の数々は、論文の時だけでなく、書籍になる際には、公表してもいい、と言った許可をとらせてもらっているのですが、このインターネット上では、やはり公表は難しいと考えています。(まだ書籍化できず、こうした皆様の気持ちを生かせていない後ろめたさもあります)。

 そうなると、介護者の具体的な経験を語る時に、私自身の経験であれば、あとは自分の家族の承諾を得ることができれば、ある程度は伝えることができます。それを読んで、たった一例ではありますし、私個人の経験であり、一般性をどこまで持っているかも分からないのですが、それまで介護のことを知らなかった方々には、「家族介護が、どのような体験なのか」を、少しでもイメージしやすいのでは、と思って、書いています。

統計による支援の開始

 それでも、本来であれば、「自分語り」がされる前に、もっと的確に素早く家族介護者支援が行われるべきではないだろうか、と思う気持ちもあります。

 例えば、高齢者虐待や、介護殺人や介護心中、介護を苦にしての自殺など、かなりの数字であることは統計で出ているはずです。

 介護殺人は、いまだに2週間に1回程度のペースで起こっているはずで、それを考えたら、その「統計的事実」を元にして、誰かの「自分語り」がないとしても、素早く支援の方法を模索し、当事者に話も聞き、どうすれば少しでも有効な支援ができるのかに対して、行政を中心として、動き始めてもいいのに、という思いはずっとあります。

 ましてや、コロナ禍により、さらに介護殺人増加の傾向が見られている「事実」もあります。

介護の苦労を分かってもらえず、憎しみが生まれたと説明。

 最近でも、元警察署長が、昨年の犯行の理由について、こうした証言をしています。そして、介護保険が開始されてからの、この20年でも、こうした事件は明確に減少しているわけではない、という「統計的事実」だけで、現状よりも積極的な介護者支援を、今まで力を入れていなかった「家族介護者の気持ちを支える」方法も含めて、検討してもいいのだと思います。

 誰かが自分の大変さなどを「自分語り」しなくてももっと有効な家族介護者支援を、少なくとも検討し始める、という選択肢をとることもできるのに、と思います。(こうした裁判での証言も、切実な「自分語り」でもあるので、少しでもその後の支援に生かせないだろうか、と思います)。

「体験談」について

 本屋に行っても、図書館に行っても、「介護の体験談」は、多く並んでいます。どれも貴重な体験の記録だと思います。それは、読者にとっても、かけがえのない記録でもあり、人類の知的財産でもあるはずです。

 同時に、これを語った人、書いた方にとっても、その自分の「体験」が決して無意味ではない、というような証明になるかと思います。

 今のところ、それまで有名な方。もしくは、かなり特殊な介護の体験だけが書籍化される傾向にあると思いますが、個人的な感触で言えば、介護相談などで話を伺うたびに、どの介護者の方の「体験談」も、等しく貴重でかけがえがなく、とても意味があるものだと、思っています。

 介護者の方で、辛いことや大変なことの真っ最中にある方は、何か別のことをする余裕などないかもしれません。ただ、ほんの少しでも時間がある時に、もし、よろしかったら、ご自分の介護の体験を、その時の気持ちとともに、書き残すのはいかがでしょうか。(ごく短いメモのようなものでも、「体験談」になると思っています)

 ご自分の気持ちを書くこと自体が、少しでも負担感をやわらげる、という働きもありますが、そうして残したものは、後になって読み返したときに、その時の自分に対して、こんなに頑張っていたんだ、と思えることもあるかもしれません。

 私も、介護の最中に、日常的に書いていたものを、このnoteにも載せているのは、少しでも介護者の理解の一助になれば、とも思っているのですが、自分自身でも、例えば10年前のものだと、まるで別人のような感じがすることもあります。

 全員に当てはまることではないかもしれませんが、短くても「体験談」という形にするだけで、ご自分のされている介護が、少しでも意味があることだ、といった思いを持てるようになる可能性もある、とも思っています。

 他の誰にも読ませなくてもいいので、よろしかったら、「未来のご自分」に向けて書いていただくのは、いかがでしょうか。

 
 今回は、以上です。

 疑問点、ご意見など、お聞かせいただければ、幸いです。よろしくお願いいたします。



(他にも介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。



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