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ChatGPTと詩を共作してみました。

僕は詩を書いています。
「ねむの木の祈り」(『ユリイカ』2021年12月号 特集=フレデリック・ワイズマン)
ぼくたちは死んでいく。」(朝日新聞、2020)
「詩編 風さえ私をよけるのに」(『GATEWAY 2016 01』、YYY PRESS、2016)
など、いくつか公刊されて読めるものもあります。

機械と詩

昔から、詩を書くことは自己の意識を半ば手放しながら言葉を紡ぐものだという感覚を持っていて、そのことにアルゴリズムや機械のプロセスを介入させるのは興味深いと思っていました。

2012年頃、東京大学大学院の講義で「GoogleIME」(Google予測変換)を使って詩を書く、というワークショップを主催したこともありました。自分で言葉を書き出しながら、その途中でGoogle予測が提示した言葉を採用しながら、自分の意図を少しずつずらしていくことで、ある種の詩作経験が誰しもできるのではないかという目的でやってみました。

その時に、僕がGoogleIMEと一緒に最初に書いた詩は、次のようなものです。(部分的にはいいフレーズもあるし、体験としては面白かったものの、全体としては微妙な出来栄えです。)

GoogleIMEと共作した詩(2011)

このときは、半分は僕の言葉で、半分はGoogleが提示した言葉で、たとえば「モアルボアル」という語は僕の知らない言葉です(今でもそんな言葉があるのかも知りません)。

そういう意味で言うと、これは20世紀初頭にシュルレアリスムの芸術家たちが「自動筆記(オートマティズム)」と呼んだ実験の現代版のようなものだと思います。(代表的なものに、シュルレアリスム運動の中心的な思想家であり、詩人のアンドレ・ブルトンが書いた『溶ける魚』があります。)

彼らが自らの無意識にアクセスすることで自分を半ば自動機械にしながら言葉を書いてみたように、僕もインターネットの言葉(Googleデータベース)にアクセスすることで自分を半分だけ機械化して言葉を書いてみたというものです。

ChatGPTと詩

それからしばらくそういう実験をやってみたのだけど、久しく忘れていました。そして最近、ChatGPTで遊んでいるうちに、また同じようにこのAIという新しい機械と共に詩を書けるんじゃないかと思い、実験してみました。

特に何も指示をしないで詩を書いてもらうと、ほとんどどこかで見たような、教条的で「きれい」に見える言葉を並べたようなものばかりを書きます。


最初のうちは、このようなつまらない詩しか書いてくれなかったのですが、いろいろな指示を工夫して、何度も何度も指示を重ねていくうちに、かなり僕の求める詩を書いてくれるようになりました。

詩作の条件

自分なりの共作のルールとして、以下のような条件で詩作してみました。

・テーマは与えない(「愛について」など)
・固有名は与えない(「ランボーのような詩を書いて」などの固有名は出さない)(誰かの詩のデータを引用したものではない)
・本文はすべてChatGPTによる文章
・タイトルは僕があとからつける

なかなかよいものもあって、『ユリイカ』や『現代詩手帖』など、現代詩の雑誌にAIとの共作として寄稿してみたらおもしろいかもしれない、と思うものもありました。

試行錯誤と教育次第で、AIは詩を書くことができそうです。もちろん、そのうちにはひどいものも多いのですが、100以上の詩作実験のなかから、僕とChatGPTが書いた詩をここに掲載してみたいと思います。

僕とChatGPTで共作した詩です。

詩:燃える海のそばで


詩:バニー

詩:赤いほしのこえが聴こえた


詩:白いハイヒールの少女

詩:二つの平面をすべる鳥たちへ

詩:ねむれないよる

詩:わたしたちは

詩:稜線をみた

「海は永遠に燃え続ける」「揺れる 手 足 意味なし」「歌うように鳴く  金属の鳥たち」「空に浮かぶ煙突の群れ」「水晶の城の下で象が鳴いている」「山の向こうで踊る犬が 小さな青い宇宙船を運ぶ」など、僕自身が持っているイメージや語感を超えた、よいフレーズがいくつも生まれました。


詩(テーマあり)

これまでの詩は、条件として「テーマ(キーワード)」を与えないものでしたが、以下の詩はキーワード(タイトル)を与えて書いた詩です。

詩:死

詩:蝶々と戦車

詩:存在

詩:孤独とアイスクリーム

詩:スープ・絶望・宇宙

「命は 奪われても 死は 生きる」「存在しない星たちが眠る」「トロピカルなアイスクリームは、ハイエナの鼻に繋がれている。」などは、また僕の想像していない詩情と語感でしたし、「蝶々と戦車」はヘミングウェイの短編のモチーフを意識してキーワードを与えたのですが、全体としてとてもいい詩になりました。

歌詞(テーマあり)

歌詞:さよならを言わないで

歌を想定した歌詞もたくさん作りましたが、どうしてもいいものができず、ここに一作だけ掲載しました。(条件は同じ。いくつかキーワードを与え、タイトルは僕があつからつけました。)


AIと人間(生成と判断)

これらが、僕がChatGPTと書いた詩です。

本当は、いい文章とよくない文章が混在しているので、ここを削るとか入れ替えるとかすれば、もっといいものができると思いながら、今のところは指示だけで全文をそのままに詩作しています。

これからもっと僕が指示の試行錯誤をしていくか、AIが進化するかすれば、こうしてAIと詩を共作する人々が出てくるかもしれません。実際に、プログラミングやイラスト、音楽、脚本、などの世界では現在でも毎日のようにこうしたAIとの共作の実験が行われています。詩を共作するという実験を見たことがなかったので、やってみました。

どのジャンルでも同じだと思いますが、AIと共作をするという実験においては、人間の側の「価値判断」と「ディレクション」にすべてがかかっています。実践的には「指示→生成→評価」のサイクルをどれだけうまく繰り返せるか、そのなかでAIと人間が、両者共に学習していくプロセスがAIと共作していく上では鍵になるでしょう。

今回の一連の詩も、とにかく僕が好む文章を生成するための試行錯誤でした。僕じゃない詩を書く人間が共作すれば、まったく別の詩情とリズムを持った詩が生まれるだろうと思います。

「無限に生成するAIと、選択する人間」という構造そのものがまた変わる段階が来るのかは分かりませんが、今しばらくはこの構造のもとに関係が築かれるだろうと思います。

AIとの共作のプロセス

今回の詩を、どのように指示をして書かせたのか。どのような試行錯誤をしたのか。僕とChatGPTの共作のプロセスは、僕のメールマガジンにこの記事の続きとして書いています。
(そんな人がいるのかどうか分かりませんが、もしもAIと詩を共作してみたい方はこちらからご覧ください。)

メルマガでは、ここに掲載しきれなかった、ChatGPTと共作した他のいくつかの詩も載せています。)


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