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【あいつ】本を書く #シロクマ文芸部


「本を書く」・・・《あいつ》がそんなことを言ってたのを
不意に思い出した。

☆☆☆

大学の研究室から帰ってきて寛いでいたらスマホに着信☆
発信者も確かめずにうっかり出てみたら
訳の分からない質問に晒された・・・? 
要は【私が本当に当人?】であるかの確認だった。


数日後。
私の家に、厳重に梱包されたかなりの重さの荷物が届けられた。
重いので部屋まで運んでもらったのだが、数日過ぎても・・・
まだ、荷物を開ける勇気が持てず、毛布を被ったまま放置されている。


☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 


《あいつ》と出会ったのは私がまだ学生の頃だった。
友人たちとの卒業旅行の行先だったヨーロッパの遺跡に立ち寄った時に
話しかけてきたのが彼だった。

古代史を研究しているという彼の話が面白かったこともあるが
どこか浮世離れした感性に興味が惹かれ・・・
顔が好みだったこともあり、気が付いたら・・・私より10歳も年上の
《あいつ》と付き合うようになっていた。

☆☆☆☆☆


理工系だった私は大学の研究室に残った。

《あいつ》は、都内に1DKのアパートを借りていたが、その部屋は
寛げる空間がない程に書物や資料で埋め尽くされる魔境となっていた。
もちろん片付けることなどは許可されなかった。
だから二人で一緒に居る場所は、自然と私の部屋になった。

彼は大学の助教授として古代史を教えていたが
研究の名目に頻繁に海外に出かけていた。 
・・・まるで遠距離恋愛のような付き合いだった。


付き合い始めて3年になった頃。
私のベッドに寝ころんでいた彼が唐突に言った。

「紗理奈は《明晰夢》って観る?」

「明晰夢? う~~ん、観ないなぁ?」

「俺、最近・・・よく観るんだ。現実感が半端なくてさ・・・!」

「ふ~~ん。どんな感じなの?」

「俺が・・・調べたいと思ってた場所にいる。 まるで・・・
このまま帰れないんじゃないかってくらいにリアルな世界・・・!!」

☆☆☆

そんなことを言っていた《あいつ》が、あの日
自分のアパートに帰った後。忽然と消えた。 
スマホも部屋に置いたまま・・・?!

捜索願いも出したが消息が知れることはなかった。
《あいつ》の存在さえ夢だったかのように
私の前から消え去っていた☆


☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 


そんなことから数年・・・
《あいつ》のことなど記憶の中から整理したいと思うようになった頃に
スマホに着信。 意味不明の話を訊かされた。

発信者は《あいつ》とも親交のあった研究者で・・・
偶々ヨーロッパのとある博物館に訪れた際、日本人の研究者であることを
伝えると、博物館の倉庫に廃棄物としてあった【粘土板】を委託されたのだという。それは《メソポタミア文明》以前の物で「ここにあっては困る」
遺物で、半ば押し付けるように託されたのだと・・・☆

「そのことが・・・私とどういう関係があるのですか?」という問いに
「あなた宛ての・・・遺物でしたから」という返答。

その【粘土板】は古代オリエントの楔型文字で書かれて保存の為に焼かれたと同じ方法で書かれた物だったが、発掘された出土品の中にあり、
研究対象からも除外される【不要オーパーツ】扱いされていたものだった。 

なんせ・・・

その時代にはあり得ない【日本語で書かれた粘土板】であり
現代の日付けと私宛ての住所と電話番号まで書かれていたのだから。

☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆ 


・・・と、いうことで開けてみるのも怖いままに・・・
私の部屋の片隅に毛布で包まった
その【粘土板】が放置されたままに置かれているのだ。 

「本を書く」・・・《あいつ》がそんなことを言ってたのを
不意に思い出した。

あれは・・・《あいつ》が書いた物なの?!

☆☆☆


私の人生さえも左右し兼ねない【粘土板】・・・?!

決意するまで数日が過ぎていた。


《あいつ》が私に向けた言葉を・・・
訊いてやろうじゃないか・・・・!!!



【開】



*こちらに参加させていただきました。

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