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私が「青のオーケストラ」を好きな理由

先日の投稿で、私が「青のオーケストラ」の原作漫画にハマるまでの経緯を書きました。

ただ、ハマった理由までは書いていなかったので、ここで少し補足。
最も大きな理由は、おそらく私が中学・高校で吹奏楽部に所属していた経験によるものだと思います。「青オケ」でも描かれていたけれど、定期演奏会の開演直前、ステージに向かうときの言葉で表現できないような雰囲気と緊張感の高まり、それをリアルに体験しているから。海幕高校のような超・強豪校ではなかったけれど、やっぱり思春期のかなりの時間を「みんなで音楽を作ること」に費やしていたわけで。だから、阿久井真先生の画力できちんと具現化されている「想い」が伝わってるし、そこに心を奪われたのだと思います。

阿久井先生の原作を、「漫画として」好きになったことも大きいですね。まあ、画力に関して今さら語らなくても、という気もしますが、絵のタッチが私好みという点は大きい。例えば、人物の輪郭線が結構太めのところとか。もう10年以上も前から、漫画の人物の輪郭線って、細いのが一般的になっていますよね? でも、阿久井先生の場合、カットによっては(女の子の顔も含めて)力強いくらいしっかり描かれている。そのタッチから生み出される迫力が、作品の持っているパワーに繋がっているのかなと思います。

そして、コマとコマと間に時間経過を感じ取れる、濃密な空気が流れていること。コマの中に、ちゃんとドラマが存在していること。ときどき、過去の回想シーンが1カットだけ描かれていたりするけれど、その描写だけで、そのとき何が起きて、登場人物がどんな会話をしていたのか容易に想像できるくらい、伝わってくるものがあるんですよね。アニメ化すれば、それだけで数分のシーンが作れそうなくらい。
背景の描写にも手抜きがなくて、(あえての狙いとして、以外は)背景が「白い」だけのコマがないの(それにしても、背景が真っ白でも、集中線だけでも、許されるようになったのは、いつの時代からだろうか?)ですよ。本当に、細かすぎるくらい描き込まれていて(阿久井先生は鳥好きゆえに、スズメの羽毛の描写すら超精細)。まあ、これだけエネルギーが注ぎ込まれている作品なら、そりゃ執筆に時間がかかるよなぁ……。

(画像は、島村楽器「弦楽器フェスタ」から)

ちょっと話がそれるけど、阿久井先生の画力って、むちゃくちゃ「進化」しているんですよね。漫画家デビュー作の「ゼクレアトル~神マンガ戦記~」(原作は戸塚たすくさんだから、物語としては戸塚さん色が濃い)のころから考えると、同じ人が描いているとは信じられないくらいで。

そのあと「猛禽ちゃん」を描かれて、「心が叫びたがってるんだ。」のコミカライズを担当されて、「青オケ」につながっていくわけだけれども、途中からデジタル作画に移行されたことも相まって、圧倒的な画力を身につけられていると思います。ちなみに、阿久井先生のお師匠様は、「マギ」の大高忍先生。だから「マギ」の初期コミックスの巻末には、アシスタントとして阿久井先生のお名前も見ることができます。

話を戻すと、もうひとつ「青オケ」の魅力として感じるのは、シリアスな物語の裏側に、コミカルな「ギャグパート」が織り込まれていること。ストーリーの前面に登場することは少ないけれど、おまけ漫画として描かれているんですよね。アニメ化された部分でいえば、姫ちゃんが調理実習で失敗した焦げたクッキーを羽鳥が食べる場面とか。そういうふうに、おまけ漫画で補完されることによって、作品の深みがさらに増して。まさに緩急自在。だから、アニメを気に入った人には、絶対原作を読んでほしいなぁ、と。
スピード感が豊かで「漫画を読んでいて音が聴こえてくる」と評価されている演奏場面の描写については、多くの人が語っていらっしゃるので、ここでは割愛。そういうふうに読み手の想像をかきたてる、刺激的なカットが満載なんですよね。

あとは、人物の描き方がとても「深い」。それは、某所での阿久井先生インタビューでも語られていましたが、それぞれの内面を掘り下げて、「潜って潜って」誕生したキャラクターたちだから、人物像がものすごく魅力的で。りっちゃんとハルちゃんはもちろん、立花さんも、町井先輩も、立石部長も、高橋翼ちゃんも、滝本かよも、千佳先輩も、みんな「深い」(あえて女子限定なのと、それぞれの呼称は私の趣味だ。笑)。しかも、それが物語を読み進めるごとに見えてくるんですよね。原作最新刊まで読了された方はわかってもらえると思うんだけれど、りっちゃんの家庭環境なんて、それまで何も語られていなかったじゃないですか。それが……。

青野くんと佐伯直の関係性に繋がる青野龍仁のことだって、すべてが説明されているわけじゃなくて、ある種、ミステリーっぽいところも感じられますよね。そんな細々としたところが、読み手の想像を刺激してくれます。まだ原作でも描かれていないけれど、定期演奏会でハルちゃんが演奏した「花のワルツ」に感激して海幕高校入学を志望した中学生の女の子が、仮にヴァイオリン初心者だとして、ハルちゃんリスペクトだけど初心者だから2ndヴァイオリンに加わったら、先輩・りっちゃん&立花さんとの師弟関係はどうなるの?……とか。すっごい妄想が捗るじゃないですか。

「青のオーケストラ」は、そんなワクワクが満ちた作品だと思っています。
原作の好きなシーンを具体的に挙げようかと思ったけれど、長くなったので、またいずれ。

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