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【MLB】山本投手(ドジャース)が9度目の先発 5回2/3を4失点の投球・・・安定感出てきたが気になるポイントも

1.はじめに

 今月14日、山本投手(ドジャース)が今季9度目となる先発登板で、5回2/3を投げて4失点の投球。前回の登板で自身3連勝をマークしたが、この日は勝ち負け付かず、試合は延長戦の末ドジャースが6-4で勝利した。

 前回登板で今季最長となる8イニングを投げ、直近5登板は投球数が90〜99球で推移しており安定感が増してきたと思われたが、今回の登板は84球での降板となった。メジャー初登板で、1回5失点の内容でつまずいたが、山本投手自身の自制する能力が高い点と、ドジャース球団が数試合を費やして丁寧な起用をした結果、安定した軌道に乗りかかっていたが、この日の投球は後悔が残る投球となった。山本投手はNPB時代から、安定した軌道に乗せてしまうと他の投手より長く良い状態が続くため、極端な登板間隔のバラつきがなければ、連勝がしばらく続く可能性が高かったが、次回の登板に5勝目を目指す事になった。

2.球に力があり、状態は全く悪くない

 この日の登板結果は、山本投手本人も満足していないだろう。私が見た限りでは調子は悪くなく、山本投手本来の球威のあるストレートに多彩な変化球を織り交ぜ、上手く投げる事ができていた。フォークも低めのボールゾーンへ沈ませ、制球も悪くはなかった。この日のやられ方は、シーズン序盤に打ち込まれたものと、内容が全く異なるものだった。

 アメリカには落とし穴が多く掘られているようで、向上心のある山本投手だからこそ、この穴につまずいてしまったのだと感じた。調子も悪くなく、球威も問題なかった山本投手が陥ってしまった穴とは何だったのか。私が感じた事を、これまでの投球内容を参考にしてお伝えしたい。

3.前回登板後のコメントで気になった一言

 前回は、渡米後最長イニングとなる8回を投げ、2失点にまとめて4勝目をマーク。イニングをできる限り長く投げたい山本投手にとって、8回を投げ切れた事と、100球未満の少ない球数で到達できた事で、おそらくメジャーでの登板の中で最も満足のいく結果を得られたのではないか。

 ただ、試合後のコメントに目を通していると、気になった点があった。先程述べたように、山本投手の目指す投手像として、長いイニングを投げる事を強く意識しているのは間違いなく、可能ならば完投してその試合を支配したい気持ちがあると思う。気になったコメントとは「少ない球数で長いイニングを投げられたら理想的。」だった。他の投手でもコメントしそうな内容だが、この試合を見た後だったので妙に引っ掛かった。

 前回の登板で山本投手は初球から19球連続でストライクを投球し、これはドジャースの球団記録らしく、山本投手のゾーン内に安定して制球できる技術を表すものとして立派なものだ。   話は変わるが、私がアメリカに残してきた記録は、今でも3Aで輝いている記録で、4者連続本塁打を浴びたものだ。今でも覚えているが、4発とも左中間スタンドの非常に近い位置に飛ばされ、ゴルフのアプローチでもされているのではないかと思うほどだった。スキャンダル持ちの投手の話はここまでにして、山本投手の話に戻る。   しかしながら、最近の山本投手の投球を見ていると、どの打者に対しても初球からストライクゾーンへ投球しているイメージが強い。これは決して良くない投球ではないのだが、山本投手にしては安易にゾーン内に投げてしまっている様子が窺えるのだ。

 長いイニングを投げるためには、球数を抑えなければならない。5イニングで100球前後の球数を費やしてしまったら、投手が長いイニングを投げたい意志があっても、球数が優先される。目先の試合を優先しがちな日本球界よりも、長いシーズンを考慮しているアメリカの方が、スパッと交替させられる事も多い。その傾向を山本投手は既に感じ取っており、全体の球数を減らすために、ボール球を少なくする事を優先して、打者に向かって投球し始めていた。前回登板ではストライク率も約75%と先発投手としては非常に高い数値だったが、実はこの数値は高ければ良いというものでもない。細かい分析はしていないが、私のこれまでの経験を踏まえると、メジャーリーグや3Aレベルでは、多くの投手は60〜65%程度がその投手にとって最も良いバランスで投げられているように見られる。70%までストライク率が高くなってしまうと、意外と打ち込まれて失点が多くなる傾向がある。55%以下だと、ボール先行の投球が目立ち、制球に苦しんでいる印象が強い。50%以下だと、四球絡みの走者が生還するケースが多い。

 では、なぜストライク率が高すぎるのが良くないのか?例えば、高校野球の地方予選のように、投手が圧倒的に打者のレベルを上回っていれば、ストライクを100%投げ続ければ球数を抑えてアウトを稼げるだろう。しかし、投手と野手の力の差が拮抗している対戦では、打者はストライクゾーンの球は積極的に打ち返し、強い打球を放ってくる。加えて、メジャーの打者はファーストストライクから鋭いスイングが可能で、ボール球を上手く使ってコースや高さを意識させるような「配球」をある程度組み込まないと、理想通りに打ち取る事ができない。

 私が心配していたのは、前回97球で8回を投げきる事に成功したため、今回の登板でも安易に初球からゾーン内へ投球してしまうのではないか、という事だった。山本投手は力のある投手だが、さすがに8回を100球未満で投げ切るのは、運も味方にする必要があり、常にできる事ではない。いくら球数を少なくしても、痛打を浴びて失点を許してしまったら交代は早くなり、必然的に長いイニングを投げる事もできない。当然、山本投手も理解していると思うが、8回を投げ切った事で山本投手は更に理想像に近づけようとした結果、今回の4失点の結果となってしまったのだ。

3.今季被弾した6本塁打のうち5本塁打は・・・

 昨年は164イニングを投げ、僅か2本塁打しか許さなかったが、今季は47回2/3を投げて既に6本塁打を浴びている。


【表1】山本投手の今季許した6本塁打の詳細

1本目 4/13 マチャド(SD)      初回 2ラン
2本目 4/13 キム(SD)             2回 ソロ
3本目 4/20 スチュワート(NYM) 2回 ソロ
4本目 5/8   チザム(MIA)         初回 ソロ
5本目 5/8   デラクルーズ(MIA) 6回 ソロ
6本目 5/14 マトス(SF)           2回 3ラン

*左から被本塁打、日付、打者名(チーム名)、本塁打を許したイニング、状況の順。


 このペースで本塁打を許してしまうと、単純にイニングを照らし合わせたら、昨年の10倍の数になってしまう。ただ、6本塁打のうち5本は試合序盤に打たれているが、普通ならばリズムを悪くして本来の投球ができなくなるケースも少なくない。しかし、序盤に本塁打を許しても自分を見失う事なく、いつも通りの投球に回帰できる能力を持ち合わせてるのはさすがだ。

 私が急遽アナログで作成した、上部にあるこの見やすい見づらい【表1】をご覧いただきたい。【表1】の中には記入しなかったが、実はこの6本塁打のうち、5本目のデラクルーズ選手に許した本塁打以外は、全て初球の球をスタンドまで運ばれている。また、初球に打たれた本塁打は全て試合序盤のもので、ファーストストライクから積極的に鋭いスイングをしてくる外国人選手と、球数を減らすために多少甘いコースでも確実にストライクゾーンに投げておきたい山本投手の思惑がマッチしてしまい、「余計な失点」を生み出してしまっているのだ。

 実際に今回の登板でも、1巡目となる9人の打者相手に対し、初球にストライク投球したのは8度を数えた。そのような投球の中、2回にメジャー経験が浅く、初球からガンガン振ってくる超積極的な8番打者に対し、初球を強打され3ラン本塁打を浴びてしまった。ちなみに、この選手は山本投手から放った本塁打が今季初安打だった。焦る事なく、普段の山本投手の投球ができていれば、防ぐ事が可能だった本塁打である。また、初球に際どいコースに投げる事で、多彩な変化球を装備している山本投手ならば、打者に配球を考えさせる事ができ、投球が読みづらくなるため投手優位で投げ込む事ができる。初球に余裕を持った投球で臨めば、序盤の不要な本塁打を避けられ、投手にとって最も大切な役割である失点を減らす事ができる。

4.次回の登板に向けて

 昨年は常に100〜120球を投げ、7〜8イニングは常に稼いで、チームの大きな戦力として活躍していた山本投手だが、今季はここまで100球まで到達した試合がない。ただ、昨年より球数が少ない状態で降板しているのは、山本投手のパフォーマンスが良くない訳ではなく、ドジャース側の考えが全てだ。90球程で6イニング投げられたら、十分な数字で、7イニング投げたら素晴らしい活躍と言える。現状はこの程度の球数で5〜6イニングを最小失点に抑えられれば、チームに貢献できていると言える。欲を出すと、リスクは大きく、新しい環境で慣れてきたとチームが判断すれば、110球前後までは投げさせる事もあるだろう。多くの条件が昨年の変わった中で、チームが恐れているのは防げる故障で離脱してしまう事だ。シーズンをトータルで計算しているチームは、山本投手の実力を認めているからこそ、丁寧な起用を継続している。ぜひ、山本投手には次回の登板で序盤に甘い初球の球をブチ込まれないよう、大胆かつ繊細な投球で勝利に導いてもらいたい。

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