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複雑な現実の中で、いつもみんなにエフェクティブであってほしい(八木澤智正さんインタビュー①)

八木澤智正さんは、大手製薬会社に勤務しながら、「マネジメントの発明者」ピーター・ドラッカー教授が教鞭を執っていたことでも知られる、米国・クレアモント大学へのMBA留学経験を生かして、ドラッカーのマネジメント論に基づくグループコーチングを主宰したり、日本におけるドラッカー学会の理事を務めたりされています。また、ドラマーやコンポーザー(作曲家)、音楽イベントの主宰者としても活躍されています。

そんな八木澤さんに、ご自身の中でのドラッカーマネジメントと音楽活動との関わり、そしてそれをどう日々のお仕事や活動に生かされているかについて、インタビューさせていただきました。


経済社会は生態系のようなもの

まずは、企業人として、あるいは「知識労働者」(※ドラッカーの言葉で、知識を使って働き、成果を上げる労働者)として、今の経済社会をどのように捉えているか、という点からお訊きしてみました。

「自分と経済の関わりを明確に意識したのは、IR(投資家向け広報)の部署に所属していた頃でした。投資家の方々が会社の株式を取引するわけですが、その中に少なからず企業年金基金が含まれていたんです。

ということは、年金運用元である企業で働く労働者の方々が、間接的に投資先企業のオーナーになっており、その有り様を問うている。そう考えると、経済社会も生態系のようだなと感じました。これは自分が学生時代に生物学を専攻していたこととも関係があるかも知れません」

私(筆者)も以前、音楽家・坂本龍一さんと生物学者・福岡伸一さんの対談本を読みながら、経済社会も生態系のようなものではないかと感じたことがあります。

「売り手」と「買い手」という二体の関係性で考えるよりも、無数の主体が価値を循環させている生態系のような経済社会をイメージして、その一員として自分も参加していると考える方が、私にもしっくりきます。

完全には捉え切れない人間・社会をなんとかしていくのがマネジメント

「それと同時に、社会というのは、一面的にはなかなか捉え切れないものだなと思います。社会科学の領域でいえば、経済学・経営学・社会学など、それぞれに社会に対する学術的なアプローチがありますが、一つの学問体系で捉えることに危険性も感じます。

複雑な人間や人間が作る社会に対して、ある一面から切り取った時点で、ないものとされてしまう部分がどうしても出てきてしまうんです。

自分がドラッカーと価値観やアプローチを共有しているのは、世の中をいくつかの要素の融合や不完全なものと捉えた上で、それでも一度捉え切ろうとするところ、扱えない領域があるとわかった上で、それでもなんとかマネジメントしていこうとするところです」

私もこの点にとても共感します。私自身のこれまでを振り返ってみても、学生時代からごく最近まで「こうすればこうなるはず」「論理的に考えた通りにやればうまくいくはず」という考え方をごく当たり前のようにしてきました。

しかし、やはり物事の全体性や複雑性というものをよく認識できていなかったのだと思います。うまくいかないことも多々あり、それを見て見ぬふりをしたり、「もっと頑張ればできる」と自分を叱咤したりして、余計に苦しくなることもしょっちゅう。

でも、ここ数年、Essential Management School(EMS)というスクールで学ぶ機会を得て、複雑な現実の中では思い通りにいかないことは当たり前、それでも実現したいことに向けてなんとかしていくのがマネジメントなのだと気づくことができ、とても気が楽になりました。

ドラッカーマネジメントも学べば学ぶほど、クリアな答えを教えてくれるものというよりは、複雑で不完全な人間や組織をどう生かして成果を上げていくかという「人間学」に近いものだな、と感じています。

みんなに「エフェクティブ」であってほしい

「自分はみんなに『エフェクティブ(効果的)』であってほしいんです。『エフェクティブ』とは、『こうであるといいな』と思うことに対して、あまり遠回りしないで、ある程度実践し続けることです。

ドラッカーの著書の中にも、『マネジメントとはこれである』と一言で言い切っているところはないし、世の中はややこしいけれど、だからこそエフェクティブな人たちに囲まれていたいと思っています。」

私が八木澤さんのグループコーチングに参加していて良いなと思うのは、ドラッカーのマネジメント論を踏まえつつ、それをどうメンバーそれぞれの日々の実践に生かしていくかを一緒に考える場であることです。

マネジメント論を知識として学ぶだけではなく、ドラッカーが遺した考え方の中で時代が変わっても応用できる本質的な部分を受け継ぎ、どうしたら成果に結びつけていけるかを、自分たちの実践に照らしながら考え、それをまた実践に生かそうと試みています。

人間や組織は「パーフェクト」ではないけれど、学びと実践を続けることで、少しずつ「エフェクティブ」になっていくことはできるのではないか、その点に私も希望とワクワク感を持ちながら参加しています。

※写真は全て八木澤さん提供。クレアモント大学でドラッカー教授と。

その②「自分をフルに生かして生きる」に続きます。








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