コロナ感染は1年後のメンタルヘルスを悪化させる: 米国大規模研究の結果
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
昨年の今日(すなわち令和5年5月8日)、新型コロナウイルス感染症(covid-19)は感染症法上の分類で二類相当(正確には"新型インフルエンザ等感染症")から五類感染症になりました。
この分類変更によりコロナ感染者の行動制限がなくなり、コロナ禍の象徴となったマスクを着用する人も減ってきました。
世の中はウィズ・コロナからポストコロナ(アフターコロナ)にシフトし、皆様もコロナ前(プレコロナ)の生活を取り戻すべく、コロナ禍ではできなかった旅行、会食、イベントなど楽しまれているでしょう。
小生も時々(?)飲み会に参加しますが、繁華街の盛況ぶりを目の当たりにすると、とても不思議な感覚に陥ります。
病院では今でも皆マスクを着用し、発熱者が出れば抗原検査、そして病院職員がコロナに罹れば発症翌日から5日間は出勤停止… …とコロナに注意しながら仕事をしております。
狐につままれたような思いがするのは、小生がきっと未だにポストコロナに馴染んでいないためでしょうか。
あらためて今の世の中を眺めると「もはやコロナはただの風邪」という意見も極論ではないように思え、病院でやっているコロナ対応が滑稽にすら見えてきます。
病院によってはコロナ対応も緩くして、発熱しても検査を行わないところもあるそうですが、そろそろ病院もポストコロナにシフトすべき時が来たのかも知れませんね。
ところが最近、このポストコロナに水を差すような研究報告を目にしました。
それは、新型コロナウィルスに感染すると1年後の神経・精神疾患発病リスクが増大する...、という論文です。
新型コロナが五類感染症になって丁度一年となる本日、皆様とこの重大な研究結果を是非シェアしたいと思います。
なお、論文のデータが多いため研究結果の一部のみをご紹介しております。
【研究紹介】
<目的>
COVID-19感染後12ヵ月における神経・精神障害の発症リスクを推定する。
<方法>
米国退役軍人の全国医療データベースを活用。
コロナ前の2019年の退役軍人(6,244,069名)と、2020年3月から2021年1月の間コロナ陽性であった退役軍人(169,476名)のデータが選ばれた。
コロナ陽性者についてはさらに感染30日後生存してたケースのみを選択した(154,068名)。
退役軍人のうち2020年3月に生存しかつコロナ陽性者のコーホートに組み込まれなかったケースは5,809,137名であった。
また過去のコーホート研究として2017年のデータ(5,876,880名)のデータを抽出した。
これらのデータより、コロナ感染者(感染12ヶ月後) vs 現代のコロナ陰性者、コロナ感染者 (感染12ヶ月後)vs 過去のコロナ陰性者(コロナ禍前の人)で比較を行い、コロナ感染12ヶ月後における神経・精神疾患の発病リスクと超過負荷を推定した。
<結果>
以下に、精神・神経疾患に関する結果のみを提示する。
記憶障害(HR 1.77(1.68,1.85); 超過負荷10.07(9.00,11.20))およびアルツハイマー病(HR 2.03(1.79,2.31); 超過負荷1.65(1.27,2.10))のリスクが増加した。これらの認知機能障害の複合アウトカムのリスクと超過負荷*は、それぞれ1.80(1.71、1.88)と10.35(9.27、11.47)であった。
*超過負荷: 1000人あたり何人の患者が生じるかを示した数字
メンタルヘルス障害には、大うつ病性障害(HR1.44(1.39、1.48);超過負荷17.28(15.43、19.18))、ストレス・適応障害(HR1.39(1.34、1. 44);超過負荷14.34(12.66、16.07))、不安障害(HR1.38(1.33、1.42);超過負荷12.44(10.93、13.99))、精神病性障害(HR1.51(1.33、1.71);超過負荷1.02(0.66、1.43))であった。これらの精神疾患の複合のリスクは1.43(1.38、1.47)、超過負荷は25.00(22.40、27.69)であった。
めまい(HR 1.44(1.38, 1.50);負担6.65(5.72, 7.61))、傾眠(HR 1.67(1.31, 2.12);負担0.56(0.26, 0.94))、ギラン・バレー症候群(HR 2.16(1.40, 3. 35);負担0.11(0.04、0.22))、脳炎または脳症(HR 1.82(1.16、2.84);負担0.07(0.01、0.16))、横紋筋炎(HR 1.49(1.11、2.00);負担0.03(0.00、0.11))であった。これらの他の神経疾患または関連疾患の複合のそれぞれのリスクと負担は、それぞれ1.46(1.40、1.52)および7.37(6.41、8.38)であった。
<結論>
COVD-19は長期的に見ると精神疾患発病のリスクファクターになる可能性がある。
【鹿冶の考察】
<本当にコロナはメンタルヘルスの脅威となるか?>
今回の記事、いかがでしたでしょうか?
コロナに罹ると1年後に、記憶障害が1.77倍、アルツハイマー病が2.03倍、うつ病になる確率が1.44倍、不安障害が1.38倍発病リスクが高くなる...、と聞くと「やっぱりコロナ怖い...」と思われるでしょうか?
...が、賢明な読者の方はご理解されていると思いますが、実はこの研究は2022年9月に発表された研究です(1年半前)。
ご存知のように、コロナは変異を繰り返し徐々に毒性が低下していったと言われております。
今回の研究は2020年3月から2021年1月の間にコロナに罹患した人を対象としており、デルタ株以前の比較的毒性の強い株に罹患した時期のデータなのです。
一般的に重篤な感染症ほど強い免疫反応が生じるため、後遺症も生じやすいと言われております。
このため現在流行している弱毒化したコロナ株が同様の水準でメンタルに影響するか否かは、今後の研究報告を待たねばならないでしょう。
またこの研究の限界として、米国退役軍人という特殊な人々を対象にしている点、また対象者の多くが白人であった点などが挙げられ、この研究結果が他人種や他職種にも当てはまるかは不明です。
<新型コロナだけの問題?>
新型コロナ感染症がメンタルヘルスのリスクを上げると聞いて驚いた方もいらっしゃるかもしれませんが、実は感染症とメンタルヘルスの問題は以前より指摘されておりました。
例えば、イギリスの疫学調査ではインフルエンザ感染は鬱病の発症リスクを1.3倍引き上げるそうです(OR 1.30, 95%CI 1.25-1.34)。
また別の研究では、インフルエンザ感染は認知症のリスクを4.56倍(OR 4.56, 95%CI 2.56-8.13)も上げるそうです。
インフルエンザ以外の感染症だと、台湾の研究によると帯状疱疹の罹患はうつ病のリスクを1.32倍まで上げ(OR 1.34, 95%CI 1.03-1,70)、多発性硬化症の発病リスクを3.76倍上げるそうです(OR 3.76, 95%CI 1.18-12.00)。
このようにウィルスの種類によらず、感染症は後のうつ病(鬱症状)や神経疾患のリスクになりえるのです。
<感染症対策はメンタルヘルス対策>
今回の記事は、「コロナ怖い!」と不安感を煽ることが目的ではありません。
そもそもCOVID-19に限らず、昔から存在するウィルスや細菌感染が人類の脅威であることに変わりはないのです。
今回の記事で小生が強調したいのは...
「感染対策はメンタルヘルス対策である」
というこの一点です。
外出後のうがい、手洗い、咳エチケット等一般的な感染対策だけではなく、十分な睡眠、バランス良い食事、適度な運動を心がけ免疫力を高めましょう。
感染を予防すれば精神疾患のリスクを下げますし、そもそも睡眠・栄養・運動自体がメンタルヘルスに好影響を及ぼします。
誤解が無いようにもう一度強調しますが「コロナはただの風邪」と言って侮るのではなく、「感染症はどれも悪化すれば恐ろしい」ということを十分理解し、"正しく恐れる"という姿勢が大切だと思います。
【まとめ】
↓感染症対策にハンドソープはいかがでしょうか?
【参考文献など】
1.Long-term neurologic outcomes of COVID-19. Xu E, Xie Y and Al-Aly Z, Nat Med, 2022
2.The risk of new onset depression in association with influenza--A population-based observational study. Bornand D et al., Brain Behav Immun, 2016
3.Risk of depressive disorder among patients with herpes zoster: a nationwide population-based prospective study. Chen MH et al., Psychosom Med, 20214
4.Virus exposure and neurodegenerative disease risk across national biobanks. Levine KS et al., Neuron, 2023
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