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狼男と精神医学: 獣人化を科学する〜海外文献の紹介~

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

ハロウィンが近づいてきましたね👻🎃💀

皆様はハロウィンに参加する派ですか?それとも傍観する派でしょうか?

小生のハロウィン初体験は、10数年前に留学した時のことです。

日本にいた時の自分では信じられませんが、当時ドラキュラの格好をして夜の街に繰り出したのは良い思い出です…(は、恥ずかしい…😖)。


ところで、ハロウィンの定番お化けの一つ、"狼男"が精神医学とつながりが深いことをご存知でしょうか?

実は海外では、「自分が狼になった」と思い込む妄想の症例報告が多数あり、この妄想を「臨床的狼男(ライカンスロピー: clinical lycanthropy)」と呼びます。

今回の記事では、ハロウィンの定番”狼男”と精神医学に関する、興味深いレビュー文献を紹介したいと思います。

なお今回紹介する論文では、犬男妄想(kynanthropy)も含まれた解析となっております。

↓ハロウィン用にマスクはいかがでしょうか?



【ライカンスロピーの定義】

まずはライカンスロピーの定義を見てみましょう。

ライカンスロピーは、現代では稀な病態でありますが、米国MacLean病院の研究では以下のようにライカンスロピーを定義しております。

1.現在または過去に自分が「狼に変身した」という妄想的信念がある。
2.患者は自らが狼になったこと(あるいは狼のようになったこと)をはっきりと覚えている。
3.狼に似た行動をとる(遠吠え、唸り声、這いずる)。

Lycanthropy: alive and well in the twentieth century, Keck PE et al., Psychol Med, 1988 
(一部、鹿冶が加筆)


【研究紹介】

Clinical Lycanthropy, Neurobiology, Culture: A Systematic Review. Guessoum SB et al., Front Psychiatry, 2021

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34707519/

<目的>
狼男化した症例の文献を調べ、発病メカニズムや文化的背景を考察する。

<方法>
2021年1月までにPubMedとGoogle Scholarでシステマティックレビューを実施した。症例報告、神経生物学的仮説に関するデータ、文化的側面に関するデータを対象とした。言語は英語に限定しなかった。

<結果>
診断:
ライカンスロピー(臨床的狼男)とキナントロピー(犬の変身妄想)は最終的に合計38例が報告された。関連する診断は、統合失調症(8例)、精神病性うつ病(12例)、双極性障害(6例:躁病+躁鬱混合エピソード)、その他の精神病障害(5例)などであった(図1)。

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