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誕生日と精神医学(後編):誕生日は御用心?"誕生日ブルー効果"の理由とその対策

誕生日と精神医学(前編): 誕生日には御用心?日本でも誕生日ブルーは存在するのか?〜国内文献の紹介〜】の概要。
前編では日本国内で実施された「誕生日ブルー」に関する研究を2報紹介しました。
研究1では日本において誕生日に死亡者数が増え、特に自殺者数が多くなることが明らかになりました。
一方、研究2では10の倍数の誕生日[成人(20歳)や定年(60歳)など]や社会的に重要な節目に誕生日を迎える際、自殺率が上昇することがわかりました。
(後編)では、この2つの研究をもとに、不肖、鹿冶梟介(かやほうすけ)が2つの論文を考察し、さらに「誕生日ブルー対策」をご紹介いたします。



【鹿冶の考察】

ここまで本邦における"誕生日の自殺”という重いテーマに関する研究論文を二つご紹介しました。

二つの論文のメジャーなポイントは…、

・誕生日に死亡率は上昇し、特に自殺の割合が誕生日以外に比べて50%近く増える
・誕生日における自殺は人生の節目に起こりやすい(10の倍数の年齢、喜寿など)。
・特に男性の場合は10の倍数の誕生日での自殺が目立つが、女性の場合は38歳と77歳で顕著な自殺率の増加を認めた。

…、という点です。

男性において60歳で自殺が増える理由は「定年」だと推測できますが、その他の節目、とくに女性の38歳と77歳については論文中でも「わからない」としております(77歳は喜寿ですが、そこまでこだわる理由は…?)。

男女差に関する考察は困難ではありますが、それではなぜ人は誕生日や人生の節目に自殺をしやすいのでしょうか…?


誕生日に自殺者が増える理由


<理由1> 誕生日は「最後の日」として選ばれやすい

毎日辛い思いをして生きていると、「人生を終わりにしたい」という気持ちが芽生えます。

そして人が死を意識すると、人生の終わりをいつにするか考え始めます。

しかし、直ぐに実行に移すことは難しいため、

「辛いけど、とりあえず”あの日"までは頑張ろう…」

という考えに至ります。

この時、”あの日”は想起しやすい日が選ばれやすいため、誰もが持つ記念日すなわち”誕生日”が脳裏に浮かぶのでしょう。


<理由2> 誕生日を期待した形で迎えられず絶望するため

冒頭でも書きましたが、子供時代の誕生日は誰にとっても特別な日であったでしょう。

家族や友人が無条件に「おめでとう」を言ってくれる素敵な日...。

つまり誕生日は何かを期待せずにはいられない日なのです。

しかし淡い期待にも関わらず誕生日を一人で迎えると、いつも以上に孤独感を感じ、その結果絶望するのではないでしょうか。

ところで特別な日と言えば、”クリスマス”を思い出す方もいると思いますが、統計的にはクリスマスに自殺が増えるという確かなデータはないそうです(ただしドイツの研究によるとクリスマスに癌で死亡する割合は高くなるそうです[参考文献5])。

やはり「誕生日」というのは、我々人間にとって重要で、そして期待せずにはいられない特別な日なのです。


<理由3> 自分の人生を振り返る機会となり、挫折感を味わうため

人生の節目、特に成人(20歳)や定年(60歳)になると人は今までの人生を振り返ります。

いわゆる「人生の棚卸し」という作業のことです。

人生を振り返り「よく頑張ったな」と思えれば良いのですが、「こんなはずではなかった…」という挫折感も「人生の棚卸し」では生じやすいのです。

自らの足跡を振り返り、若い頃に描いていた夢・将来像とのギャップに絶望する可能性が人生の節目にはあるのです。


<理由4> 自分の人生の先行きが不安になるため

人生の節目では「人生の棚卸し」だけでなく、当然「この先、自分はどうなるんだろう」という将来への不安も生じます。

人生の節目を迎え、仕事のこと、お金のこと、健康のこと…、様々な不安がこれから先の人生に立ちはだかると思うと、このまま自分の人生を歩みゆく勇気がなくなり、人生というマラソンからリタイアすることを考えるのです…。


<理由5> 飲酒量の増加

洋の東西を問わず慶事には「お酒」がつきものです。

つまり、誕生日にはついつい酒量が増えてしまいます。

しかし、過度の飲酒は急性アルコール中毒、交通事故などの確率が高くなりますし、気分が落ち込んでいる時に多量に飲酒するとは希死念慮が増悪する可能性があります。

誕生日にお酒を飲むこと自体は良いのですが、嫌な気分を紛らわすためのお飲酒はおすすめ致しません。


誕生日ブルー対策法

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