見出し画像

引き戸に張り付く

高校時代のクラスメイト、N君の話。

N君は小学生の頃、母方のおばあちゃんの家で一人留守番をする事になった。

夕方までには戻るから、とおばあちゃんは言って出かけて行った。

N君の為にオヤツも用意してあって、オヤツを食べながら一人テレビを見てお茶の間で留守番。

おばあちゃんの家は古い農家で、玄関は曇りガラス張りの引き戸だった。

N君は暫くテレビを見ていたが飽きてきた。ふと玄関に目をやると、曇りガラス張りの引き戸に人影が見える。

お、誰かきた。そんなN君にいたずら心が湧き上がる。玄関に来た人を驚かせてやろう。玄関の前に立つ人に見つからないようにそっと玄関横の窓から玄関前を覗いてみた。

‥誰も立っていない。あれ?俺の見間違いかな?
そっと窓の横から曇りガラス張りの引き戸の内側を見る。

‥人影だ。誰かが玄関前に立っている。もう一度窓から玄関前を見た。

やはり誰も立っていない。N君は全身に鳥肌がたった。‥そこでN君は気づいた。

玄関に人形の黒い影が張り付いている。それは家の中を覗くような仕草を引き戸に張り付きながらしている。まるで出来の悪いプロジェクションマッピングのようで、正直気味が悪い。

幸いにも玄関の鍵はかかっている。N君はそっとお茶の間に戻り、何も気付かないフリをしながらテレビの音声ボリュームを上げ、あまり見たくはなかったがテレビに集中する事にした。人影の事は考えないようにした。


おばあちゃんが帰って来る夕方がとてつもなく長い時間に感じた。玄関をひとりで通るのが嫌で、家族が迎えに来るまでおばあちゃんの家にいた。

‥結局おばあちゃんには引き戸に張り付く人影の事は言わなかったと言う。

私はどうして言わなかったの?と聞いたら、N君は、だっておばあちゃん一人暮らしだし‥そんな変な人影が家に張り付いているのがわかったら気持ち悪いだろ?人影も俺の見間違いかもしれないし‥と話してくれた。

‥ただし、もう二度とおばあちゃんの家で、一人の留守番するのは避けたそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?