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同じ話題でも、17歳のころよりは楽しめるようになったみたい

 耐えがたい出来栄えに、部屋に戻ると毎回泣いていた祖母カットは、中学生の頃。少しずつ脱していき、高校二年生になった頃には美容院に通っていた。

 初めて足を踏み入れたそこの美容院は、元気の良い男性店長さんと、少し若いおとなしめの男性店員さんがいた。
 当時の私は慣れない美容院で、慣れない世間話をすることが難しく、女子校だったし、いつもめちゃめちゃ意識過剰になって座っていた。それでも祖母カットより全然良いので、ほんのひと時の居心地の悪さなどどうってことない。
 ただとにかく話を広げられないし、自分から振る話題も思いつかない。

 今度は一つ質問を考えていこう。
 そう思いつき、考え抜いた質問が。

 「美容師さんて、お昼ご飯はいつどうやって食べているんですか」

 それはそれは唐突に聞いた。

 お客さんのカットをする合間に奥の部屋でこそこそっとサンドウィッチとか食べているよ。

 そう教えてくれたと覚えている。

 へーそうなんだ!
 それしかないのだけど、もう少し何か工夫しているのかなとも思っていたので、そのまんまかあとちょっと新鮮に驚いた。
 当然、どうして? と聞かれたけど、その続きをまったく考えていなかったし思い浮かばない。「なんとなく」と答えて、お互いにうふふと笑ってまたお互いに黙った。

 頭を抱えたいような思い出を、記憶の奥の方にしまいこんで見ないようにしていたのに、急に思い出したのは……。

 「かわせみさんて、よくお昼に予約入れるじゃないですか。お昼ごはんってどうしてるんですか?」とカットのお兄さんに聞かれたからだ。
 お兄さんたって、私より10歳下であって、もう充分おじさんだ。
 15年ほど通っているので、20代だった彼の面影を思って、つい「お兄さん」と思ってしまうけど。

 以前は息子の登校時間に合わせて早起きだったので、11時頃にはお腹が空いてきて早いお昼ご飯にしても問題はなかった。
 今はもうそこまで早起きしないで良いから、本当はお昼過ぎに予約を入れたい。
 でもカットの時間がお昼しか空いていないって言うからさあ。しょうがないやん。

 と言いたい気持ちは置いておいて、来る前の11時台にササッと食べると答えた。

 その美容師さんは、カラーなど他のスタッフさんたちが対応している間に時間があるから、奥に引っ込んでお昼ご飯をやはりササッと食べていると思われる。
 その後、お昼ご飯を食べるタイミングやそれによってカロリーが高くなる晩ご飯の話、そしてそれらを食べるタイミングの話で盛り上がった。結局食べ過ぎてしまうのだという話にお互い落ち着く。

 「お昼ご飯をどうしているのか」の質問の軽さと、その後、否応なく盛り上がってしまう食の話。

 高校生の頃の、質問にかける気持ちの重たさと盛り上がれなかった自分を思い出し、35年ほどの歳月を思った。



読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。