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福井・大垣、20190317

 中学校を卒業した後に、青春18きっぷを使って一人旅をすることにした。5日間かけて北海道へ行く。数日前に卒業しているとはいえ、中学生にとってはそれなりの冒険である。この5日間を覚えている限りで書こうと思う。面白いものではないことを最初に断っておく。

青春18きっぷの画像

 もう詳しい時間は覚えていないが、出発したのは早朝である。1日目(2019年3月17日)の予定は、大垣駅22:48発ムーンライトながらに乗車する。これだけだった。しかし、1日分18きっぷを使うのだから22時まで何もしないのはもったいない。そこで福井に行くことにした。時間をつぶすにはちょうど良い距離にあるし、福井駅に行けばなにかしら見るものがあると考えたからである。

 湖西線に乗りながら、北を目指す。この時に乗った電車はおそらく古いタイプのもので、途中駅でごみを捨てに行くときはドアを手で開けた。電車のドアを手で開けるのは初めての経験だ。そのあと福井駅に向けて乗り換えた電車は2両ぐらいしかなく、とても混雑していたことを覚えている。
 福井は恐竜の町である。福井駅には大きな恐竜の模型が置いてあり、鳴き声も出る。県立の恐竜博物館があるのは勝山であり、とてもではないが寄り道できるような場所ではないので、福井の恐竜成分はこの模型と、駅構内のベンチに座っている恐竜で味わうしかない。

混雑しているときなどは、この恐竜が鬱陶しくなるのである。

 福井市は江戸時代から城下町として栄えた。しかし、現在は本丸の石垣と堀が残っているのみである。城址には福井県庁が建つ。

 予想に反して福井駅周辺は全く見るものがなかった。3月17日はあいにくの雨だった。どんよりとした曇り空の下、歩いている人は少ない。北陸都市のイメージとして私の中に印象的に残っている。

 さて、22時には大垣に居なければならない。福井を後にし、もう一度2両編成の列車に乗り込む。入浴をするため、湖西線比良駅で降り、近くの温泉施設に行くことにした。

比良駅もまた何もない駅だが、琵琶湖のすぐそばにあり、景色は素晴らしい。コテージ、ボート、湖水浴場。何もない分、休日にゆっくりするには最適かもしれない。

 大垣に出るには、米原で乗り換えないといけない。山科駅を経由し、もう一度北上して米原に向かう。米原は新幹線も停車する大きい駅だ。ここで夜ご飯を食べようと考えた。しかし、ご存じの通り、私はその時知らなかったが、米原もまた何もない駅である。
 到着するとあたり一面真っ暗で、途方に暮れてしまった。唯一、閉店間際の平和堂で食料を調達することができた。閉店間際で値引きされた白ご飯とたけのこの煮物。多分200円もしなかった。イートインスペースで3分ぐらいで食べた。この思い出の平和堂も今は閉店してしまった。

米原駅前

 東海道線で大垣へ行く。米原まではこれまでも1人で来たことがあるが、ここから先は未踏の世界である。この何とも言えないわくわく感は、今はもうどう頑張っても体感できないだろう。

 「ムーンライトながら」とは、大垣から東京まで結ぶ夜行快速列車のことである。需要の高い春・夏・冬休みの夜に走っていた。18きっぷを持っていれば、そこに500円ほどの追加料金を払うだけで東京まで行くことができた。お金のない学生にはありがたい列車だったが、残念ながら今はもう廃止となった。

車内から。

 列車に乗った後は疲れていたのですぐに眠ってしまった。次に目を覚ますともう品川だった。

 3月17日は、地方都市の「何もない」ことを痛感した一日となった。しかしその「何もない」ことを理由に切り捨てることはしたくない。町は観光客のために作られているのではない。そしてそもそも、本当に何もないわけではない。極端な話だが、建物が建っていて、木が生えていて、道が通っている。「何もない」のは私たちにとってだけである。
 「何もない」ことから目を背けてはならない。旅は、自分が知らなかったとこを目にする───「見たくないものを見る」絶好の機会である。「何もない」ことを如何にして楽しむか。こうした姿勢がオーバーツーリズムから脱却への、旅を楽しむことへの第一歩であると考える。「何もない」ことは私たちを考えさせる。

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