20231104: 大阪

 2023年11月3日から4日間の学園祭が開かれるということは、私にとってはかなり貴重なことであった。というのも、日ごろの私は講義がある日は講義に、サークルがある日はサークルに忙殺されているというのが常であり、講義とサークルのどちらもない日には、たしかに心の安静が保たれるのであるが、そのような日はもう全くといっていいほどなかったからだ。ところで学園祭とは、基本的にサークル単位でなんらかのものごとを起こし、サークルに所属する人間はそれによって駆り出されるというのが普通だが、私のサークルは2年目になるとそのような仕事のいっさいが免除されるという、数少ないよい所があるために、こうして私は4日間、大阪へ行く日程を確保できたのだった。
 4日間というみじかい時間に大阪に行くことを決めたのは、大学の友人にそのように提案されたからだ。日ごろから、私が多忙であることや大阪に帰りたいという内容の愚痴ばかりを聞かされていて、嫌気がさしていたにちがいない。行ってきちゃえよ、といわれて、そのように決断することも人生において必要だとも思ったので、ついに行くことにした。そう決めてからは、まず両親に相談して、連休前のために夜行バスが高いということを伝えると、よく考えたらちょうど期限が切れそうなJALマイルがある、それを使って飛行機を取ってあげよう、といってくれた。
 11月2日は、5限の講義が終わってすぐに出発する必要があったので、スーツケースを転がして、めったに乗らない筑波大学循環に乗って、つくばエクスプレスで東京に出た。少し前に古着屋で4,000円ぐらいで買った、冬に雪が降った次の日の空のような、あざやかでまぶしい青のアウターを羽織って、ニューエラのキャップを被る。狂気の決断にはそういうスタイルがいい気がする。ワイヤレスイヤホンで日本シリーズ第5戦。森友哉、空振り三振。いい感じだ。
 羽田空港。空港という場所は、一切戸惑わずにどんどんと綺麗になっていく、不思議な場所だと思う。関西空港も、伊丹空港もそうだ。10年前、ただでさえ綺麗だったのに、あらゆるものがなくなっていき、まっすぐになっていく。どんどんと漂白されていく。そしてそこには最終的に、どこの土地でもない空間が広がる。ある意味でもっともグローバルな空間でもある。日本シリーズ第5戦。セカンド中野、ライト森下ダブルエラー(このような単語があることを、私はこのときに初めて知った)。ビハインドが広がっていく。関西空港行のボーイング機が準備をしているゲートの近くには、阪神のユニフォームを着た小さい子供がいる。オリックスファンがガッツボーズをする。すでに東京から切り離されたグローバルな空間は、それゆえに少しだけ大阪のものとなった。私も、コンビニで買ったおにぎりと海藻サラダを食べながら観ていた(この時間になると、飲食物を調達できるのはコンビニだけである)。
 試合は佳境に入っていくものの、ついに飛行機に案内された。私はもう一度イヤホンに切り替えて、radikoから聞くことにした。電波を発する機器は、機内モードにするか、電源をお切りください。8回裏、ランナー2・3塁。ぎりぎりの緊張感。森下が打った。左中間を真っ二つ!、と、実況が叫んだ。タイガース、本当に日本一になるかもしれない。
 関西空港についてからのことは、とくに書くべきではない。白、あるいは灰色の正方形と長方形だらけの空間を歩いて駅まで行って、灰色と青色の電車に乗って、天王寺から地下鉄で実家に到着。それだけのことであった。とくに大阪に着いたという実感はなかった。それを感じるにはあまりにも疲れすぎていたからだと思う。


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