見出し画像

再びの「木づかいのススメ」

注目される林業

近頃、林業と木材について耳にすることが多くなった。テレビなどメディアが頻繁に取り上げていることも一因である。これまでどちらかというと話題になること少ない分野であったが、地球環境、循環型資源や脱炭素社会など、社会と環境の「持続」がキーワードになるのに伴い、注目されるようになってきた。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)運動にみられるように、グローバルな価値観転換への模索がその背景にあるのであろう。

木材利用の主流である建築分野では、近年木造の耐震・耐火技術が飛躍的に進んだ結果、欧州や北米を中心に高層建築を木造で建てる計画が進んでいる。たとえば、イギリス・ロンドンでは80階建ての木造ビルが、またスエーデン・ストックホルムでは34階建ての木造高層マンションが提案され、関係者で話題になっている。カナダ・バンクーバーではブリティッシュ・コロンビア州立大学(UBC)の学生寮が高層木造(18階、高さ58.5m)ですでに完成している。

わが国でも住友林業が2041年を目標に、高さ350メートル、70階、木材と鋼材を組み合わせた柱/梁構造をもつ木鋼ハイブリッド(木材比率9割)の超高層ビルの構想を発表して話題を呼んだ。東京日本橋にも高さ70m、地上17階建ての木造高層建築が計画されている。ごく最近では、JR仙台駅前に7階建て純木造ビルが完成した。元禄期に再建された東大寺大仏殿の柱には重ね柱が用いられ、小径材から直径1m余り、長さ約50mもの長大柱を作り出しているが、この木造ビルでも同様に製材を束ねて一体化した柱/梁が使われ、側面からドリフトピンやボルトなどを配して、接合を強固にしている。オリンピック東京2020大会が行われた国立競技場は、天蓋を支える垂木に各地のスギ材を使った隈研吾さんの特色ある設計になる。自己主張の強いデザインではなく、景観と一体となった建築、周囲の風景に溶け込む建築に和様の雰囲気が感ぜられる。

他方、米国ではコロナウィルスのパンデミックにより住宅需要が増加し、木材が不足、高騰している。建築資材の木材は国際商品であり、この影響が世界に及んでいる。いわゆる、ウッドショックである。わが国も総需要の60%の木材を、北米を始め世界各地から輸入しているので、ウッドショックの影響で木材需給が逼迫している。その結果、国産材の需要が高まり、高騰して原材不足で入手が困難になっているようである。

このように、グローバル経済下の木材が注目され、NHKの朝の連続ドラマでも林業が取り上げられるなど、国民の関心が環境に向けられるにしたがい、森林と林業、木材利用に向けられるまなざしも変わってきている。

再びの「木づかいのススメ」

日本木材学会が主催した「日本の森を育てる木づかい円卓会議」は、経済界と市民、環境/森林/木材の専門家など各界有識者が集まって論議し、2004年11月に提言書「木づかいのススメ」を公表した。わが国高度成長期に、いわゆるラワン材の大量輸入が熱帯天然林の伐採と環境破壊を促し、「木を伐ることは環境に悪い」という風潮につながった。「森林伐採=環境破壊」という世評がまだ強いなか、「わが国で育てた木材を使って、環境を守ろう」という提言書の主張は新鮮に受け止められ、話題になった。いまでは、森林伐採を環境破壊に直接結び付ける短絡的な反応はさすがに少なくなった。

「国産材の利用推進を通じて山(環境)の保全を図る」という提言は、その後「木づかい運動」や「木育」という政策に反映され、10月8日の木の日をはじめ、10月は木づかい月間としてさまざまな関連イベントが実施されている。熱帯天然林の過伐による環境破壊と異なり、人が植え育てた森林を伐採して使い、そしてまた植えるという循環的な利用は持続性があり、むしろ環境を守るということが一般市民に理解されるようになってきたのは、大きな変化である。

しかし、一概に伐採といっても、間伐のように森林を育てる施業もあり、主伐期に皆伐して木材を生産し、再植林することとは意味が異なる。さらに、皆伐といっても、施業の状況はさまざまである。たとえば、主伐の(標準)伐期齢を50-60年とした皆伐施業もあれば、200年以上の長伐期多間伐(択伐)施業もある。いずれであっても最終的には皆伐が必要になる。「植えて、育てて、伐って使う、また植える」という循環プロセスが林業そのものであり、その持続を維持するためには伐採・再造林というプロセスも必要不可欠です。いずれにしても、皆伐施業では水土の保全や生態系に十分配慮する必要がある。森林といえば山林で、傾斜地であるわが国では、大規模面積の一斉伐採は土砂流出や水害などの自然災害を招く可能性もあるので注意が要る。

林業は、木材を初めとする林産物生産という経済行為であるが、森林の環境保全という公益的な意義も大きい、皆伐跡地の再造林放棄地がときに林業の現場で見られるのは大変残念なことである。「山林の保全に十分配慮し、そして持続性を担保した効率のよい林業」を目指すべきであるが、実現するには地域のさまざまな条件を考慮した施業計画に工夫が要る。そのためには、林業/木材産業だけでなく、情報、環境、金融、流通、土木など幅広い産業分野と専門家、自治体行政の協業が必要であるように思う。

わが国が「木の国」、「木の文化の国」と呼ばれて久しいが、残念ながら、その資材を供給するはずの林業の体制は未だ不十分であり、国産材が国際市場で戦っていくためには多くの改革が必要である。

写真:奈良県吉野川上村の択伐林業

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?