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森林・林業統計を読み解く

伐採材積と素材生産量

やや専門的な話になりますが、森林や林業に関する統計データを読んでいると、ときにおもしろいことに気付くことがあります。大分以前に「京都府林業統計 令和2年版」を見ながら、伐採面積や材積を調べていたときのことです。
 
令和元年の伐採材積(針葉樹)は20.7万m3、一方、「京都府の森林・林業の現状 令和2年版」によると、令和元年の素材生産量は15.1万m3とありました。素材生産量には広葉樹チップがわずかに混在しているものの、ほぼ全量がスギ/ヒノキの原木丸太と考えてよいと思われます。
 
そうすると、この伐採材積と素材生産量の統計数字の間に横たわる差異は何を意味するのでしょうか?素材生産量は原木丸太ですから、伐採樹木の幹部の体積、つまり幹材積の総和になります。木材として利用する場合、出材量、つまり原料の量的な目安となる値です。
 
一方、伐採材積には、幹の材積のほか、枝条や葉の材積量が含まれるのです。炭素固定など気候変動への寄与については、森林の産み出す(枝葉を含む)全バイオマス量を用いるのでこの数値が大事になります。結果として、伐採材積は素材生産量の40-50%増となりますが、これら二つの数値がときに混同され、少なからぬ混乱を招くことがあります。
 
同様に、わが国「森林・林業白書」などによると、森林面積は人工林約1,000万ヘクタール(ha)、天然林1,400ha、その他竹林等を合わせて合計約2,500万haと記載されています。その純生長量についてはさまざまなデータがありますが、用材利用の基礎となる幹材積ベースでみれば、現状でもせいぜい7,000~8,000万m3/年,人工林に限れば5,000万m3/年程度と見積もられています。量的には日本の年間需要をなんとか自前でまかなえ、自給できる量です。したがって、わが国の森林が産出する全バイオマス量は約1.0億~1.2億m3/年と概算されることになります。
 
なお、材積とは、木材の体積のことで,測定の対象に応じて幹材積,枝条材積などに区分できますが,普通に材積というときには幹の材積を指します。また、森林バイオマスは、これらの「材積」に、「密度」を掛け合わせて求められる生物体量(乾重量)をいいます。

自給率

『森林・林業白書 令和4年版』をみると、令和2年(2020年)の国産材年間需給量は3,092万m3です。木材自給率は、第2次大戦直後のほぼ100%の時代から減少の一途を辿り、平成14(2002)年には18.8%(需給量1,692万m3)まで低下しました。しかしその後、政府の国産材の利用推進施策により令和2(2020)年には41.8%まで持ち直しています。
 
令和2年の国産材の年間需給量(3,092万m3)の内訳をみると、製材用材、合板用材、パルプ用材、燃料用材およびその他に区分けされ、それぞれ1,162万m3、420万m3,442万m3、893万m3および175万m3とありますので、その他を除く原木丸太の前4者の利用比は概略40:15:15:30と計算されます。柱・梁材や集成材のラミナ(板材)の原料になる製材用材の次ぎに、燃料用材が大きな割合を占めているのがわかります。けれども、これはごく近年になって見られる現象です。
 
たとえば、8年前(2012年)の平成28年度版の同統計資料をみると、国産材需要は1,928万m3/年、自給率27.3%、前述の素材利用比率をみると、大略60:20:20:0となります。つまり、2012年には燃料用としての国産材の利用はほぼ皆無で、製材用材が過半を占めていました。したがって、これらの統計量はこの間国産材利用に極めて大きな構造変化があったことを示唆しています。言い換えると、この8年間に燃料用材が急激に伸び、結果として自給率が伸びたことを示しているのではないでしょうか。バイオマス発電等のエネルギー需要に関わる燃料用材が国産材需要の増加分1,130万m3の80%余りを占めたことになります。
 
以上のように、統計データを読み解くことで、近年の国産材自給率の大幅な向上はもっぱら最も安価な燃料用材によるものであったことがわかります。この事実は,わが国社会経済における木材ニーズ、つまり、「バイオマス発電」のニーズを色濃く反映していると言えますが、政府の自然エネルギー補助政策が大きく寄与しているのです。林業の立場からは素材価格が抑えられ、ますます補助金に頼る構造を助長しているのではないでしょうか。

持続型資源としての木質資源

ちかごろ欧米を中心にサーキュラーエコノミー(循環型経済)という言葉が盛んに用いられています。1994年以降、わが国では国連大学が提唱したゼロエミッション型社会に向けた3R(リユース、リサイクル、減容)の取組みが盛んでした。資源投入量と消費量を抑えた循環型社会の形成は、いわば、人間社会の営みのなかで循環を促す取り組みでした。
 
近年の循環型経済はストックを有効活用しながら、資源の廃棄や消費に伴う環境汚染、気候変動の危機や生物多様性の喪失など、様々な負の外部経済を内製化しようとする経済システムです。言い換えると、人間社会の営みでの資源循環に加え、自然の営みの循環にも配慮した経済の構築を目指していると言えます。
 
森林は水土や生態系の保全、温暖化抑制など環境保全に関わるもののほか、その産物である木材は再生産が可能であり、材料とエネルギーの両方に利用できるなどの特長をもっています。循環型資源として必須不可欠のものであり、木材のリサイクルにおいてはカスケード利用が大きな特長です。つまり、製材や合板製造時に排出される工場残材、住宅や建物を壊したときの建築解体廃材などをリユース、あるいはリサイクルチップにして紙やファイバーボード・パーティクルボードの原料とし、さらに異物等の除去が難しく、品質の低下したチップは燃料に利用するのが理に適っています。このような多段的利用方法を滝(cascade)になぞらえて、カスケード利用と呼んでいます。
 
木材は「再生産可能」な資源と言われますが、自然(森林)の再生産が担保されていなければ、持続性が保障されているわけではありません。森林が生産する以上の伐採を行えば、早晩再生可能ではなくなります。したがって、「生長量以上に伐採しない」という持続原則を基本にすべきことは言うまでもありません。
 
カスケード利用の観点からは、間伐された丸太をすぐに燃料にして燃やすのはもったいないことです。一方、未利用のまま山にうち捨てられるのも資源の無駄になります。木質原料の形態や品質に応じて加工し、リユースやリサイクルも活用して適切で循環的なマテリアルとしてできるだけ長く利用をして、最終的にエネルギーとするシステムの構築が是非共必要です。
 

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