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小学四年生のクラスが「なんでやねん」だらけだった話。

小学四年生の時の担任のH先生は、「私はあなたたちの学校のお母さんよ!」が口癖でした。

私は子どもながらに、「なんでやねん!」と、心の中でそれはもう大きなハリセンで突っ込みました。


いやまぁ、あの頃は私も子どもでしたから。
大人になったら、H先生の立場を考えるとわかるかも。

H先生は、生徒たちに身近に接したいという親切心から言ってたのかもしれませんね。


・・・・・・・・・

・・・・・・・・・?

・・・・・・・・・???


いやいや、それでもやっぱり、なんでやねん!!


H先生が話すときは、生徒たちは椅子の後ろで手を後ろに組み、一切話すことも動くことも許されませんでした。

なんでやねん!

またクラスの子を、「あなたは美人、あなたはそうじゃない」って分けることもありました。

なんでやねん!!

ちなみに私も「そうじゃない」方に振り分けられました。

なんでやねん…….。

H先生は、ニコニコ笑っていたと思ったら、急に怒鳴ったりしました。

「理不尽に怒る」のは、子どもからしたら恐怖でしかありません。

叱るときは理由を伝えられなければ、それは感情をぶつけるだけの自己満足。

H先生は、もしかしたら厳しくすることでクラスをまとめようとしていたのかもしれない。だけどそこにはルールはなく、感情、気まぐれによるものに見えました。

そんなH先生の態度に、小さな私の心の中には「なんでやねん!」がどんどん溢れていきました。


でも、不思議なことに、ほとんどの子どもは「なんでやねん!」って思ってなさそうでした。
おそらく、先生の言ったことは受け入れてしまうんです。子どもは純粋だから。

え、私?
私は、ちょっといろいろあって歪んでいたので。
それは後ほど書きますね。

教室は、子どもにとったら、「世界の中心の場所」です。

そんな教室である日、クラスメイトの優等生のS君が、授業中、廊下に投げ飛ばされました。

デジャブ。
その姿は、グルメ番組で見た、魚の卸売り市場でマグロがドシャーって、滑ってるところに似ていました。


S君が投げ飛ばされた理由は…


S君は賢い。
つい、先生が誰かに問題を当てる前に答えを言ってしまったんですね。

でもそれは……

投げ飛ばすほどのことじゃないと思う。
言葉で話せばわかることだと思う。

ちょっとこれはマジ本気の浜ちゃんが10人で合唱するくらいのツッコミで……

なんでやねん!!!


だけど、相変わらずクラスメイトのみんなは、椅子の後ろに手を組んで、黙って、下を向いている。

その異常な雰囲気の中、私の頭の中に警報がなりました。

「なんでやねん」
「これはほんまになんでやねん」
「…誰か大人に話した方がいいかもしれない」

その次の日も、S君は先生に投げ飛ばされていました。理由はわかりません。

ところで、私が他の子どもと違って歪んでいた理由についてですが、当時の私の実家は、荒れに荒れていたからです。

両親とは今は和解してます。それまでの数十年の物語を書いた1万文字エッセイはこちら

荒れた家の中で、私は毎日、両親に突っ込んでました。
「なんでやねん!」
「なんで私だけが!」
「なんでこんな目にあうの!?」

小学生低学年くらいのころ、両親の代わりに育ててくれた祖母に聞いたことがありました。


すると祖母は、私の目をじっと見て答えました。


つまり、「あなたの親はおかしいし、おかしいと思ってオッケーよ!」ってことを教えてもらったんです。

低学年の子どもに、そんな厳しい現実突きつけるのは、祖母としてどうなん?とも、思います。

ですが、祖母はこのあと間も無く亡くなりました。

もしかしたら、当時の私が幼いとわかっていても、大切なことだから伝えようとしてくれたのかもしれません。

事実、私の中で祖母のこの言葉は、お守りのようになりました。

「親だから」、「大人だから」、「先生だから」といって、言うことすべてが正しいとは限らない。

周りの人が黙っていても、違う意見でも、自分が「おかしい」と思ったときは、「おかしい」で間違いない。

そう自分の感覚を信じることができるから。

だから

やっぱり

先生が友達を投げ飛ばすのは……


しかし、それをH先生本人に話すとなると、私まで投げ飛ばされそうで嫌なので、母に話すことにしました。

母は父より話を聞いてくれるけど、極度の人見知りでした。
回覧板すら近所の人に回せないほどの。

そんな母に、H先生とS君のことを話しました。


すると、母は、かなり、だいぶと迷ってから……

引き受けてくれました。

母は震えながら受話器をとり、S君の家に電話をかけました。

TLLLL

TLLLL

TLLLL

ガチャ

「も、ももも、もしもし…」

母はカスカスの声で吃りながら、S君のお母さんに、私が話したことを伝えてくれました。

すると、突然

大きな声で叫びました。
母がこんな声を上げるのはとても珍しいことです。

きっとS君のお母さんがら我が家に来て話を聞きたいと言ったのでしょう。

それは無理ですよね。
だって、うちは家の中が荒れ荒れですから!
自慢じゃないですが、実家に友達を呼んだことはありません。

母は震えた声で、なんとかおばさんを説得し、電話を終えた後、一緒にS君の家に向かいました。

S君とは、幼稚園からの幼馴染でした。
めちゃくちゃ仲がいいってわけでなく、そこにいたら遊ぶみたいな、そこそこ友達。

お家もご近所でした。

壁も廊下も割れてない、ゴミ一つない美しいリビングに通され、S君のおばさんが、お菓子や飲み物を運んでくれました。

その空間に、ゴミハウスの主で人見知りの母はもう、限界でした。


こういう話し合いって、母親同士でしてくれるのがベターですが、あいにく私の母は、「母らしく」ないので。

おばさんは、母の様子を察して、私に話しかけてきました。




それは

私も気になりました。

こんなにしっかりしたお母さんなら、きっと、守ってくれるはず。

 

S君は答えました。



すれ違っていた親子の感動シーンを前に、私は盛大に突っ込みました。

頭の中がハマちゃんフィーバーです。

いや、だって、なんで気づかないの?
普通、気づくよ!
普通…?
あれ?普通ってなに??

そのとき改めて気づいたんです。


ほとんどのこどもは、親に守られる。
純粋でいられる。

だから、親と同じ大人であること、つまり先生であるだけで、その人たちの行いは正しいと信じ込みやすい。

そうか、それでみんな、先生に何言われても下向いて黙ってたんだ。
おかしいって気づいてなかったんだ。
いや、気づいててもS君みたいに親に言えないのかもしれない。

大人より、こどもの自分の方が間違ってるって思うから。

私のお父さんは、お父さんらしくないし、お母さんはお母さんらしくない。

こんな家庭で、親が正しいなんて思い込んだら、心が壊れてしまう。

だから、祖母は教えてくれたのです。


お守りの言葉を。

でも、そのおかげで、親を親としてではなく、一人の人として対等に見ることができるから、

私は母に、自分の気持ちを伝えることができたのかもしれない。

「おかしい」って思う気持ちを。

それに母は、確かに他の母親に比べたら頼りないけど、

あの言葉はとても嬉しかった。
今、思い出しても。

「この人は、何を話しても大丈夫(頼りないけど)」って、安心しました。

不器用ながらに、慣れないことをしてくれた母に、ありがとう。

そう思い、母の方を振り向くと、母は緊張を通り越してウトウトし始めていました。
気を失いかけていたのかな?


私はそんな母と一緒に、荒れ果てた家に帰りました。

このあと、S君のおばさんと学校が、どんなやりとりをしたかは知りません。

もう、30年近く前のこと。

確か、S君の家に行ったあと、すぐに夏休みに入った記憶。
そのあと、H先生は生徒を投げ飛ばすことはなくなったと思います。

H先生からの当たりがキツくなることもなかったので、S君のおばさんが、私に気を遣って、うまく話してくれたのかもしれません。

あの頃の、あの教室は、「なんでやねん!」って突っ込めない空間でした。

学校の教室はそれくらい、閉じ込められた世界。

今もどこかで、同じようなことが起きてるかもしれない。
 
誰かの「おかしい」と思う気持ちが、押し潰されてるかもしれない。

私には今、当時の私と同じ歳の息子がいます。

私と違って、慎重で心の優しい子。
なんでこんなに似てないんだろうと心配になります。

でも、優しさは最高の才能だと思うから。

息子が息子らしく生きれるように。

私は、祖母がくれたお守りの言葉を、少しアレンジして息子に渡しました。

お守りの言葉、令和バージョン。

祖母は早くに亡くなってしまったから、何かあったとき私は相談できなかったけど。
私は生きてるから、長生きするように夜中のゲームもそこそこにするから、何かあったらすぐ話して欲しい。

これから先、学校や会社、人との関わりの中で、理不尽な目にあうかもしれない。

でも、周りが黙ってるからって、違う意見だからって、自分の気持ちを押しつぶさないでほしい。

「なんでやねん!」って思ったときは、その自分の気持ちを信じて、考えて、行動してほしい。

たくさんのハマちゃんたちと一緒に。

このお守りの言葉が私を守ってくれたように、息子を守ってくれますように。


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