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DMO・観光協会の「生産性向上」の切り札は、公式観光サイトの一括管理だ!

半年ほど前に、『「中小企業は日本の宝」という大いなる幻想』という、なかなか衝撃的な小見出しがついた記事を読みました。

この記事を読んで考えたことなどを書いてみたいと思います。

「中小企業は日本の宝」という大いなる幻想

この記事を書いたのは、インバウンド業界では有名なデービッド・アトキンソン氏
新・観光立国論」や「世界一訪れたい日本のつくりかた」といった観光関連の書籍を執筆し、観光庁の「世界水準のDMOの在り方に関する検討会」委員を務めたられたこともあって、観光業界に長く携わられた方というイメージがありますが、元ゴールドマン・サックスのアナリストということで、バリバリの金融エリートです。

アトキンソン氏の主張は、次のとおりです。

国の経済は、「人口増加」と「生産性向上」の2つの要因によって成長する。これからの日本は人口が急減する一方、社会保障費の負担は変わらないので、生活を維持するには「生産性向上」が急務

・企業の規模が大きいと生産性は高く、規模が小さいと生産性が低いのは、世界中で確認できる、動かしがたい事実。『中小企業白書』のデータでも、同様の傾向をハッキリと見て取れる。日本では、規模の小さい中小企業をやたらと美化して捉える傾向があるが、中小企業の生産性が低いという厳然たる事実から目をそらしてはいけない。

永遠に成長しない中小企業は、国の宝どころか、負担でしかない。大企業、中堅企業こそ「国の宝」だ。

「下町ロケット」や「陸王」といった、下町の中小企業が活躍する池井戸小説のファンとしては、なかなか受け入れがたい話ですね。。。

なおアトキンソン氏は、「新・観光立国論」で次のように書かれています。

20年あまりに及ぶ日本でのアナリスト人生を振り返ると、
事実を客観的に分析して、その結果がどんなに都合が悪くても、人間関係を悪化させようとも、建設的な話ができると信じて指摘した結果、反発を招く
ということの繰り返しのような気もしています。

今回の記事も、反発を招くであろうことを分かったうえで、それでも「建設的な話ができると信じて」書かれたに違いありません。

別の記事でも、中小企業について同様のことを書かれています。

日本の小規模事業者は約305万社で、全体の84.9%を占めています。この305万社の1社当たりの従業員数は3.4人です。
その規模の会社で、ビジネスにITを活用できるでしょうか
ビッグデータを分析したくても、そもそもデータがビッグではないし、データサイエンティストを1人雇うこともできません。規模が小さいままでは逆立ちしても、人材や資源を集められないのです。

中小企業は、小さいこと自体が問題。ですから、中小企業を成長させたり再編したりして、器を大きくすることをまず考えるべきです。

DMO・観光協会も「小さいこと自体が問題」

アトキンソン氏の記事を読んで、DMO・観光協会(観光連盟)においても「小さいこと自体が問題」なのでは、と感じました。

全国の観光協会を調査した資料によると、市町村の観光協会は「4人以下」が最多で、「5人以上~10人未満」をあわせて約6割を占めているとのこと。

※古い資料ですが、次の報告書も参考になります。
地域観光協会等の実態と課題に関する調査報告書

観光協会に求められる役割は年々変化しており、地域のイベントを運営するだけでなく、観光サイトの運営管理やSNSでの情報発信、Web広告も手掛けなければいけません。
いわんやDMOであれば、マネジメント・マーケティングをしなければいけないということで、やるべきことは多岐に渡ります

しかし、スタッフの数は限られたまま。
「規模が小さいままでは、逆立ちしても人材や資源が集められない」状態といえます。

ファシリティ・マネジメントの考え方が応用できないか

規模が小さいこと自体が問題なのであれば、「DMO・観光協会の再編・統合」は一つの解決策であるようにも思えます。
しかしながら、行政単位ですべての仕組み(予算・組織)が決まっていることから、現実的には不可能に近いと言わざるをえません。

そこで、現実的な解決策として、エリア一体型ファシリティ・マネジメントの考え方が応用できないか、と考えています。

「ファシリティ・マネジメント」とは、一般的には「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」のことを言います。

「エリア一体型ファシリティ・マネジメント」とは、同じ地域のビル管理やごみ処理等の業務を一括して発注することでコストを削減し、浮いたお金の一部をまちづくりの資金にする、というものです。

地域再生のカリスマで、まちビジネス事業家の木下斉氏は、著書「稼ぐまちが地方を変える」にて、次のとおり書かれています。

相手に得してもらいながら、着実に事業成果をあげるために、まずは手薄だった不動産にかかる維持管理経費を減らす方法を提供することにしました。
コスト削減で、浮いたお金の一部を不動産オーナーに渡していく仕組みにし、残りの一部を地域活性化の基金として積み立てていく方式を採用したのです。

木下斉氏から学んで熱海の再生に取り組まれた市来広一郎氏も、同様の取組で成果をあげられています。

エリア一体型ファシリティ・マネジメントとは、同じ地域のビルのメンテナンスを一括して一つの業者に任せることで、メンテナンス経費を削減するものです。
最初、このやり方で八台のエレベーターのメンテナンスを一括して契約しました。これによって削減したコストから一定の割合が私たちの会社に入ってくるという仕組みでした。
まちづくり会社では、街全体を会社と見立て、街を再生していきます。
そのときにまず初めに大事なことは、会社の再生と同じように、まずはコストカットから考えることです。
街の外に流出してしまっている資金を止め、それを街への投資資金とすることが第一歩でした。

公式観光サイト運営の一括管理

この考え方を、規模の小さいDMOや観光協会にも適用できないか、と考えています。
具体的には、公式観光サイト運営の一括管理です。

公式観光サイトを運営管理するには、サーバ管理費、保守管理費、ドメイン管理費等の経費が発生します。
また、単にイベント情報を更新するだけではなく、SEOの知識やコンテンツマーケティングの理解が必要となってきます。

DMOや観光協会が、それぞれ業者さんと契約しているところですが、これを一括契約することでコストカットをし、浮いたお金でデジタルマーケティングの専門家を雇い、サイト管理やWebプロモーションを一手に担う仕組みを構築できれば、規模の小さいデメリットを克服する手がかりになるのでは、ということです。

三重県観光連盟での取組事例

具体例として、三重県観光連盟での取組を紹介させてもらいますね。
三重県の北勢エリア10市町で構成する「北伊勢広域観光推進協議会」の公式観光サイト「ふらっと北伊勢」は、2年前から三重県観光連盟が委託を受けて運営管理を行っています。

三重県観光連盟の公式観光サイト「観光三重」とは、デザインが全く異なりますが、サーバ、ドメインを一括管理することで、三重県観光連盟が受託する前と比べ、コストを削減することができました

また、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を「観光三重CMS」に統合することにより、運営の手間も削減することができました。

もともと「観光三重CMS」は、会員である三重県内の市町・観光協会さんがそれぞれログインしてイベント情報等を自由に入力・更新できるシステムとなっていたので、「観光三重」用にイベントを入力すれば、自動的に「ふらっと北伊勢」のイベント情報にも反映されるようにしたのです。

【昔】
①自分の市町の観光サイトCMSに入力
②北伊勢広域観光推進協議会の観光サイトCMSに入力
③観光三重CMSに入力

【今】
①自分の市町の観光サイトCMSに入力
②観光三重CMSに入力

同じイベント情報を3回入力する手間が2回で済むようになりました。

また、メインコンテンツであるレポート記事についても、同じCMSを活用していることから「ふらっと北伊勢」と「観光三重」でコンテンツを有効活用できるようにしています。

「ふらっと北伊勢」のレポート記事作成は、三重県観光連盟が外注して作成・掲載しているのですが、三重県観光連盟としても「北伊勢エリア」で独自に取材してレポート記事を作成するので、それも「ふらっと北伊勢」に掲載できる仕組みになっているんですね。

例:昨年12月に自分が取材して書いた「アイススケートリンク」の記事

〇観光三重

観光三重

〇ふらっと北伊勢

ふらっと北伊勢

※まったく同じコンテンツとなるため、Googleからスパム扱いされないようコピー側のコンテンツに「canonical」タグが入るようにしています。

こうすることで、コンテンツを相互に有効活用することができるのです。
ちなみに「アイススケートリンク」の記事を「ふらっと北伊勢」に掲載することについては、三重県観光連盟として特にお金をいただいていません。

さらなる今後のイメージ

このような「公式観光サイト運営の一括管理」は、少し大げさですが、小さい規模の観光協会がコストや手間を省くための切り札になるのでは、と思ってます。

また、都道府県レベルの地域連携DMOとしては、一元化する事業を受託してより効果的に実施する、という新たなビジネスモデルを構築することもできるのでは、と考えてます。

※三重県観光連盟のマネタイズの取組については過去のnoteをご覧ください。

今後、サイトのアクセス解析とか、アナリティクスのオーディエンスデータを有効活用したWeb広告といったことも一括管理できれば、さらなる効率化を図りつつ、DMOとして稼げるビジネスモデルを確立することができるのでは、と夢想しています。

「世界水準のDMO」への道のりは果てしないですが、こういった取り組みを通じて生産性を向上し、少しでも近づいていければと思っています。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

※このnoteにて紹介している本については、アマゾンのアフィリエイトリンクが貼られています。このリンクから購入していただくと、「三重県観光連盟」に手数料収益が入りますので、購入してくれると嬉しいです(笑)。なお、川口個人の収益にはなりませんので、ご安心ください。

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