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栗の花学園投資研究会 その2

〇 栗の花学園寮・室内

 早朝。窓から射す光は薄暗い。ベッドからそろりと起き上がる下着姿の琴里。

 同居する真奈美の部屋を除く琴里。真奈美は和布団の上でスヤスヤと眠っている。寝相が悪いのかパジャマをはだけている。

琴里「真奈美先輩はまだ寝てはる・・・。」「二年生はええなあ。一年生みたいに朝の掃除はせんでもええし」

 琴里、台所兼居間にあるハンガーラックから自分のメイド服(制服)を取り出して着込む。

 そこにもう一枚のメイド服(真奈美のもの)が普段着と一緒にかかっている。

琴里「確か今日から新入生争奪戦が始まるとか言うてたな」「わたしは美術部のワッペンも返したし、投資研究会のはまだもろてへんから狙われるっちゅうことやな・・・」

 真奈美のメイド服をハンガーごと持つ琴里。悪いことを企んでいる顔。

琴里「すんません。先輩、今日だけワッペンお借りします」

 真奈美の制服に拝む琴里。

 胸に付いたサッカー部のワッペンを取り剥がす琴里。

 その時、真奈美のカチューシャが落ちる。

琴里「これは、二年生以上が付けられるカチューシャ。これもあったら万全やろな・・・」

 それを拾い頭に付けて、鏡を見る琴里。

琴里「(カチューシャを外しつつ)まさか、これ一つしか持ってへんってことはないやろ・・・」

 借り物を自分の制服のポケットに入れる琴里。

書置き(手書きで)「すんません。今日は部活動で新入生狩りがあるそうなんで、ワッペンとか借ります」

 書置きをテーブルに残し、食パンを咥えて、そっと部屋を出る琴里。


〇 諒凰女子高校・廊下

 廊下を掃除している琴里と羽田恵子。他数名の栗の花の一年生。

 大あくびをする琴里。

琴里「フワァ~。朝が早いから、まだ眠たいわ」

 モップをかけながら、琴里を見て苦笑する恵子。

恵子「(ちょっと不満そうに)諒凰の人たちは、まだ寝てるのでしょうね」

琴里「ほんまやで。なんで栗の花の者だけ働かなあかんのや。担任の先生までアレやし」

 琴里たちの近くのトイレからバケツを両手に持って出てくる真田由紀。

 教員用の、本格的なメイド服を着ている。

琴里「この学校、身分差別が激しいわ・・・」

担任・由紀「はいそこ、ホウキ掛けサボらない!」

 叱られているのは琴里たちではなく、別の生徒。

恵子「それはそうと、あなた美術部を辞めたんだって?」

琴里「待遇が酷いから」

恵子「バカね。諒凰と共通の部はダメよ。」「乗馬クラブに入った芽衣だって馬糞掃除ばっかだって。」

 二人の話に割り込んでくる別の生徒・吉岡久美。

久美「馬術部なんていい方よ。レスリング部じゃ先輩から技をかけられるのは栗の花の子だけだって」「柔道部でも先輩の機嫌が悪いと、時々寝技で絞め落されるそうよ」

恵子「今日のお昼から強引な勧誘があるから琴里も気を付けないとね。」「ワッペンがないと狙われるそうだから。」

琴里「(満面の笑顔で)ジャ~ン!」

 真奈美から拝借したサッカー部のワッペンをポケットから取り出して見せる琴里。

久美「えっ、サッカー部のワッペン⁉ あんたサッカー部に入ったの?」

琴里「いや、先輩からちょっと借りてきたの。ほら、これも。」

 カチューシャも取り出して頭に付ける琴里。

 恵子と久美、顔面蒼白になる。

恵子「あ、あなたね・・・」

琴里「えっ、これって、そんなに悪いこと?」


〇 栗の花学園寮・室内

 下着姿で、焦ってメイド服をラックから取り出している真奈美。

真奈美「遅刻する~。」「今日は午前中、敬老ホームの実習なのに」

 真奈美、メイド服を頭からかぶりつつ、

真奈美「琴里ちゃんは起こしてくれないし」

 カチューシャが無いことに気づく真奈美。

真奈美「あれ、おかしいな。大事なカチューシャが無い。一つしかない支給品なのにどこへやったんだろう?」

 探していて、テーブルの上の書置きに気づく真奈美。それを手に、

真奈美「ヒェ~!」


〇 栗の花学園・教室

 昭和の香りがする古い教室・昼食時間。お弁当を広げている生徒が多数。

 羽田恵子が一人の生徒(山野なつみ)に話しかける。

恵子「なつみ、あなたも購買部へ行く?」

なつみ「行かない、行かない。だって私ワッペン無いから、捕まっちゃうよ」

恵子「あ、そうか。じゃ、琴里あなたは?」

琴里「私は、行かなあかん場所があんねん」

 そう言いながら、カチューシャを頭に乗せる琴里。

琴里「じゃ」

 琴里教室を飛び出す。

琴里「あ、やってる、やってる」

 壁際で左手にテニスラケットを持った諒凰女子の先輩から壁ドンをされ、怖がっている栗の花の一年生。

 陸上部員の先輩に親しそうに肩を組まれて困っている者もいる。

 レオタード姿の新体操部の先輩からフラフープで捕まり「逃がさない」と、言われている者。

 体格のいい諒凰女子ラグビー部の先輩にボールのように抱えられている生徒もいる。

 その時、死角からラクロスのラケットを持った部員が現れる。

琴里「怖!」

 琴里を見て残念そうなラクロス部員。

ラクロス部員「残念。サッカー部、二年生のメイドか」

琴里「一瞬、ゾンビ映画かと思たわ」

 胸を撫で下ろす琴里。

琴里「あかん。はよ投資研究会のワッペンもらいに行こ」


〇 校庭

 校庭を横切る琴里。

 誰かが、また捕まって言い争っている。

琴里「あれ? クラス委員長の相沢京子さんや」

 ゴルフクラブを持った諒凰の先輩が説得している。

ゴルフ部員「ウチのゴルフ部じゃ栗の花の子もコースに出てプレイできるのよ」

京子「でも、そのためにはクラブセットやバッグを買えって言うんでしょ」「私には買えない。つまり先輩は私を部室の掃除係&キャディとして、こき使いたいだけでしょ!」

 ピシリと言い放つ京子。

琴里「おお、さすが委員長!」

ゴルフ部先輩「チッ!」

京子「今、チッといいましたね。どうやら図星だったようですね!」

 勝ち誇る京子、しかし……。

 笛を吹くゴルフ部員。

 多数のゴルフ部員が湧き出し、連行されて行く京子。

琴里「みんな悲惨やなあ・・・」

 走り出す琴里。


〇 文化クラブ棟・投資研究会部室

 室内は豪華で会議室から、キッチンやコンピューターの並んだトレーディングルームが見える。

 会議室にいるのは部長の美幸の他、上級生数名と新入生の嘉穂と麗香。

 テーブルに琴里用のワッペンが置かれているが、諒凰の生徒たちは誰もワッペンを身に付けていない。

 応接室の壁には、毛筆で書かれた株取引の格言が額に飾られている。

『天井三日 底百日』『株を買うより時を買え』『押し目待ちの押し目無し』『買いたい強気 売りたい弱気』『もうはまだなり まだはもうなり』など。

 諒凰の制服を着た一人の生徒が全員分の紅茶をワゴンで運んで来る。

 慌てて手伝う嘉穂と麗香。

美幸「(紅茶を飲みながら)昨日の栗の花の御堂さん、ここまで来れるかしら」

副部長・天音加奈子「全クラブが栗の花の新入生を狙ってますので、難しいかと」

 副部長の加奈子は女優で言えば池田ライザ風の長身美人。

加奈子「私が、あの子の教室までこのワッペンを届けてきましょうか?」

 加奈子がそう言った時、部室に琴里が飛び込んでくる。

琴里「遅うなりました。新入部員の御堂琴里です」

 驚く嘉穂と麗香。

嘉穂「よく来れましたわね。ってアレ?」

 美幸も琴里の姿を見て驚く。

美幸「あなたサッカー部も兼ねてたの? それにそのカチューシャ。二年生だったの?」

琴里「あ、これですか?」

 カチューシャとワッペンをはがす琴里。

琴里「(満面の笑みで)部屋の先輩から借りてきました」

美幸「そう、よくそんな大事なものを貸してくれたわね」

琴里「いえ、先輩が寝てたので書置きをして・・・」

 汗がタラリと流れる美幸と琴里。

美幸「すぐに先輩に返してらっしゃい。おそらく困っておられるでしょう」

 美幸の剣幕に驚いて、たじろぐ琴里。部屋を出ようとするが、

美幸「あ、待って。その前にこれを胸に付けて行きなさい」

 投資研究会のワッペンを渡される琴里。

 喜びの表情に変わる琴里。

琴里「ありがとうございます! すぐに真奈美先輩に返してきます」

 走り去る琴里。

加奈子「美幸、本当に大丈夫なの? かなり世間知らずな子のようだけど」

美幸「そう? 明るくて良い子じゃありませんか」


〇 栗の花学園・廊下 

 柱の陰に隠れながら、周りを伺っている倉橋真奈美。

真奈美「もう琴里ちゃんったら酷いんだから。実習でカチューシャが無いからすごく怒られたじゃないの。返してもらわないと・・・」

 その時、後ろからラクロスのラケットを頭にかぶせられる。

ラクロス部員「栗の花の新入生、見っけ!」

真奈美「ギャ~!」

 慌てて逃げる真奈美。

ラクロス部員「あ、待ちなさい!」

 猛然と追いかけてくるラクロス部員。

 その様子に気づく馬術部員やフェンシング部員たち。

 いっせいに真奈美を追い始める。


〇 栗の花学園・階段

 カチューシャとワッペンを手にした琴里が階段を上がっている。

 胸には『投資研究会』のワッペンが貼られている。

琴里「真奈美先輩、教室におれへんかったなあ。まだ実習から戻ってないんやろか?」

 廊下から「離して~!」という悲鳴。

琴里「また誰かが捕まったんやな?」

 そっと廊下を除く琴里。

 真奈美、両手両足を諒凰の部員らに掴まれ、引っ張りダコ状態。

ラクロス部員「これは私が先にみつけたのですよ!」

馬術部員「捕まえたのはウチです!」

フェンシング部員「いいえ、この子はウチが引き取ります」

チアリーダー部員「何言ってるの。この子はチアリーダー部に入りたがってるのよ」

真奈美「エ~ン、言ってないです。ボク二年生でサッカー部だし」

チアリーダー部員「ウソおっしゃい。ワッペンもカチューシャも無いじゃないの」

 その様子を汗を流しながら見ている琴里。

琴里「これはとても今、返すの無理やな・・・」

 そっと引き返す琴里。

琴里「真奈美先輩、どうか無事に帰って来てや」

 走り去る琴里。

 
     第二話 おしまい。



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