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小説 アイドルの条件

 私が所属するTKG480『通天閣ガール』はロクなもんじゃない。
 名前からも分かる通り、A〇B48を真似して作られた大阪のグループなんだけど、
 問題は0がひとつ多い事・・・。

 「じゃあ最後No,400番から480番までの方、ステージに上がって下さい」
 TKG,No416番の私もステージにあがる。
 プロデユーサーに認められようと、前列は押し合い越し合いだけど、私は無理しない。
 そんなことしてもこのグループじゃあ無駄なことぐらい、分かってるからだ。
「練習曲はA〇B48の恋する〇ォーチュン〇ッキーいきます」
 レッスン担当の山岸さんがメガホンで叫んだ。
「なんで、よそのグループの曲やの?」
 なんて不満を言う子もいるけど、答えは簡単。
 カラオケが出ているからだ。TKGの曲に今のところカラオケなんてない。

 私は後ろで声をそろえながら、みんなを観察する。
 500人近くいるメンバーの殆どを私は知らない。
 時々、スパーランドや遊園地に派遣されたメンバーと仲良くなっても、
 その後、仕事で一緒になることはまずないからだ。
 なぜならTKGはチーム数が20もあり、お呼びがかかると全国津々浦々、電車賃だけで地方の盆踊りや商店街のイベントにも顔を出す。
 そういう意味では、時々行われる合同練習は、仲良くなった人と再開できるチャンスといえた。
 もっともこんな私でもセンター10と呼ばれる人達の事はよく知っている。  
 彼女達はやはり、このTKGのアイドルだからだ。
 TKGは入るのが簡単だけど、センター10に回るのは難しいというコンセプトだそうだ。

 でもそうは言っても、ここのセンターって・・・。



「ハイ、ではセンターの人達にステージに上がってもらいます。アンダーガールズの人達は客席で声を合わせて下さいね」
 山岸さんの声でステージに上がって来たのはセンター10(自称・神テン)というメンバー達。
 実に個性的で、キャラがかぶっていないのはいいが、見事にバラバラだ。      だいたい募集要項には歌と踊りが大好きな13歳から20歳までの女性と書いてなかったっけ?
 それなのに、狭山さんは明らかに40歳を超えてるっしょ。
 春川さんは芦屋のお嬢さんだけど、体重80キロ越えはいただけない。
 小杉さんは、妊婦さんだし『おいおい大丈夫か』
 田中さんは元バレーの選手で1m80㎝、逆に沙耶ちゃんは小柄だが7歳だ。
 深山さんは子供の頃は演歌歌手で、必要もないのにコブシをきかせる。
 横山さんは唯一、歌がうまくて可愛いが、男だ。残念!

 「なんで、あんな人達がセンターやってんのよ」
 と、いう声があちこちで上がるけど、これは人気投票の結果だから仕方ない。
 そう、なにをかくそうTKG480にも選抜メンバーを選ぶ選挙があるのだ。
 でもって選ばれたのが、今ステージにいる10人
 どの人も堂々1,000票、獲得した人ってわけね。
 勘の良い人は分かったと思うけど、CD一枚につき一票の計算。
 つまりセンターに選抜された人は、自分か身内が1,000枚のCDを買ってるってわけ。
 TKGのシングルは一枚700円と安いけど、3カ月に一度の新譜ごとに70万払うってきつくない?
 ちなみに480人のメンバーに残るのも最低100票(つまり100枚のCD)が必要だ。

 そうまでして、女優志望の私がなんでこのTKGに入っているかといえば、  TKGがマスコミによく取り上げられるから。
 CDの売れない現在、毎回57,000枚以上CDを売り上げるTKGは無視できない存在なのね。
 ちなみにオリコンのCDシングルランキングでは、これだけ売れると毎回トップだ。(有名歌手がCDを出す時期は避けているので)
 そうなるとラジオでもよくTKGの曲がよくかかる。
 なんとカラオケもまもなく収録予定だ!

 合同練習の終わった後、めずらしくプロデューサーのカツオシ Dがステージに上がって来た。
「今日は皆さんにうれしいお知らせがあります。なんと先にリリースしたディスタンスが57,136枚売れたんです」
 これにはみんな驚いたようで、いっせいに拍手が巻き起こった。
 つまりどういう事かと言うと、自前の57,000枚を除いて136枚も実売したことになる。
 西〇カナさんのDistanceじゃなくて、カツオシ Dの作曲した、あのつまんない(失礼)曲を136人も買ってくれたってことに!

  そんな事もあるのかと感心していたら、横にいた狭山さんが「あれ、ホントは私が買ったのよ。最後の6枚は知らないけど」とペロリと舌を出した。   そうとは知らないカツオシ Dと他のメンバーは大いに盛り上がっていたが、ここはまあ黙っておく事にした。
 それにしても、いったいこのTKGに花の咲く日は来るのだろうか・・・。 
 私はフッとため息をもらした。

            ( おしまい )

ありがとうございます。けれど、私はあなたがサポートしようと思ってくださっただけで十分です。そのお気持ちに感謝いたします。