ライダーズジャケットを着てママチャリに乗っていた少年。1985年頃の話。
ボクは15才からボディビルを始めた。
別にイジメを受けていたから仕返ししてやろうと思って始めたわけじゃない、
…まぁ、結果的にそうなってしまうのだが基本的にそういう志ではやっていない。
トレーニングを始める最終的なきっかけをつくったのは漫画「北斗の拳」の影響だ。
出てくるキャラクターは皆、肩や腕や背中がモコモコに分厚い筋肉に覆われていて、ウエストは細く腹筋も筋量が多くバキバキに割れている。
最初は主人公ケンシロウの
「あたたたたたたた!」とか
やられた方の「あべし!」とか
…面白いなぁ。… いや、こんなわけないやろ。
とツッコミを入れたりしながら読んでいたが
北斗の拳を読む事が習慣になると
それがたまらなくかっこ良くなって来た。
だが北斗神拳は無理だ、そんなものは無い。
南斗聖拳も無理だ、そちらも無い。
だからボクは小学生の頃から家業である印刷会社の手伝いで得たお金を使い
通信販売でケンシロウが着ている様な革ジャン、つまりライダーズジャケットを買おうと思った、先ずは形からだ。
実際にどこで売ってるか解らなかったが、ちょうど週刊少年ジャンプに革ジャンの通信販売の広告が出ていた。
「カタログ無料進呈」とあったので即電話してカタログを取り寄せ
あれやこれや見ながらケンシロウの革ジャンに一番近い物を見つけて電話で注文した。
その時に初めてあれは「ライダーズジャケット」と言うのか、と知った。
無垢な少年はこうして物を覚えていくものだ。
郵便振替で確か送料込み2万円ぐらいを支払い、到着まで3週間ぐらいかけて家に届いた。
梱包の箱を開けてビニール袋から取り出しハンガーにかける。
これだよこれこれ!
ボクはニンマリしたが
いわゆる 普段着るには難しいぞこれ?
と言う事に気づく。
馴染んでない新しくて硬い皮ジャケットだけ買ったのだ。
ズボンは買ってない、そのカタログのはケンシロウのイメージの黒い革パンじゃなかったし
靴はスニーカーしか持ってない。
もっと先の時代では、ライダーズジャケットも誰でもポピュラーに着る様になるがそれよりも前、バブルの少し前の頃(1985年頃)に
ライダーズジャケットを着てママチャリに乗ってる14~15才ってボクぐらいだっただろう。
時代が早すぎた…。
それに今は夏だし…。
買ったライダーズジャケットは長袖だ。
ケンシロウが着用している袖の無いのはカタログには載っていなくて袖無しのベストがあるとは知る由もない。
その時点で北斗の拳の元ネタになった「MADMAX2」は知っていてメル・ギブソンはライダーズジャケットの袖を切っているし、当時新日本プロレスに出ていたヒロ斎藤さんも入場時にライダーズのベストを着用していたがこれも袖を切っていると思っていた。
(プロレスラーってとりあえず袖を切るし。)
なのでオレも切るか、とハサミを取ったものの
2万円もしたので一旦思いとどまる…
だいたいそれはケンシロウじゃない、MADMAXかヒロ斎藤さんになってしまう。
でも肩パットは付けない、当時コスプレと言う言葉は確かまだ無かったけど、コスプレしたかったわけじゃないからだ。
しかもMADMAXも肩パット付けている
ヒロ斎藤さんは肩パット付いてない…
だったらもうどっちでも良いじゃないか。と思うけどそれは違うのだ。
もはや男心と秋の空だ、夏だけど。
よく解らなくなってきたが
ライダーズジャケットをベストに改造し、それを着たボクを想像した。
切り落とした袖から露出するボクの腕は細すぎるのではないのか!?
あらゆるトレーニングを始める前のボクは体重が49kgで腕回りが30cmもないのだ。
スポーツ等はやってなくて、テレビや漫画ばかり見ていたのだ。
ちょっとこれでは北斗の拳でもMADMAXでもない。
期せずしてボクは
「形だけ真似てもしょうがない、要は中身だ。」と言う論理にたどり着く。
ボクはまたまた雑誌の裏表紙に広告がでている日武会という所から
早速 アポロエクササイザーやらエキスパンダーやらバーベルを通信販売で買い、いよいよ体を鍛え始めるのだ。
部屋で!
それからは通信販売で腕立てのプッシュアップバーやらハンドグリップやら
リストウエイトの重いやつやらアンクルウエイトやら鉄アレイやら買って母親が2階の床が抜けるのでは?との心配をよそに自宅の木造長屋の2階にトレーニング器具を揃えていった。
書店で月刊ボディビルを見つけて買って読んで独自で毎日3時間トレーニングを開始する。
そしてトレーニングを終えて近所の銭湯「辰巳湯」に行ってサウナに入るのが気持ち良かった。
サウナの中でも誰も居なかったら腕立てや腹筋をやった、
10代の代謝の良い体からは汗が良く出た。
サウナでトレーニングしなくても、日常的に汗がものすごい良く出る様になった、自分でもびっくりするぐらい出る。
サウナに入る前にジュースや水を飲んだら更に出る、そういう事もこの時代に既に発見する。
きっとそういう事に気づいているのは世界中でオレだけなのでは?…そんなワケないが、まだまだサウナ前には水分…水分と言わなかったし運動中は水を飲まない方が良いと言う間違った風潮がまかり通った時代に
「水飲めば凄い」
って気持ちになり一人喜ぶ。
そんな秘密を知った気分だ。
サウナの後で水風呂に体を沈めて冷やした後、
露天に出てその辺に座ってるとホントに気持ち良い。
心も体も気持ち良い。
いろいろあるけど心が軽くなる。
そこの銭湯サウナに行くたんびに居たヤクザの親分さんが居る。
すぐに汗まみれになるボクの体の変化を見てこう言った、
「お前の体は噴水か。」
親分さんだってどっかの海からあがって来た提灯鮟鱇の様にビシャビシャだ。
昨年(2023年)「北斗の拳」は40周年を迎えた。
原作の武論尊先生、作画の原哲夫先生、
心よりお祝い申し上げます。
また北斗の拳40周年プロジェクトの一環として
「北斗の拳」新装版が発売されているのでボクは改めてこの作品を読んでいる。
作品というのは同じ作品でも自身の周りの環境や自分の思い込みによって解釈が変わる時もあるしその時自分の取り組んでいる物事によっても変化を生じる。
好きな作品があるのならば自分が10代の時に初めて読んだとして、
また20代に読み返して、
30代になっても読み返してみてほしい。
ボクは40代の時もそして50代の今でも読み返している。
必ず新しい発見があるものであり、
若い時には気にも止めなかった表現が年を重ねることで理解出来たりするものだ。
ボクもそんな作品を創ってみたい。
どんな形の物でも作品を創りたいんだ。
たとえボクが死んでも作品は残り、
皆の想像力で成長し続ける事が出来るからだ。
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