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完全バーチャルで行ったアメリカでの転職活動

2021年8月13日に10年間お世話になった会社を辞め、8月23日より新たな会社で新たな挑戦をスタートします。転職活動はコロナ禍の影響ですべてが自宅からバーチャルで行われました。このコロナ禍での貴重な転職の体験を書きます。

コロナ禍のおかげで良くも悪くもアメリカでの働き方は大きく変わりました。これまで10年間働いてきた会社は、ロサンゼルス郊外に大学のような大きなキャンパスがあり、そこで3000人あまりの人が働いていました。しかし、コロナ禍のため2020年3月にキャンパスは閉鎖となりました。その後、ラボで働く必要のある、限られた数の社員は、必要な時間のみキャンパスのラボに戻り、働くことになりました。一方、それ以外の人はすべて自宅からリモートで働くことになりました。僕の仕事はデスクワークのため、完全に自宅からのリモートですべての仕事をするようになりました。僕と同じ部署のほとんどの同僚も同じようにリモートですべての仕事を続けています。

2019年の半ばから、会社の中でも最重要プロジェクトの担当者に任命されました。ある種類の肺がんを治療するこれまでにない画期的新薬です。2020年12月にそのプロジェクトの承認申請を米国食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)に提出しました。その後は、その申請資料を精査したFDAから質問やコメントが出され。新薬の承認に向けてチームが一丸となって対応していました。最終局面を迎えていた2021年5月終わりのころのことです。リクルーターのひとり、エイリンがとても興味深い転職候補先を紹介してくれました。社員が100人程度しかいない小さな会社ですが、とてもユニークな方法のがん治療薬を開発している会社でした。その会社が募集していたポジションも、僕の経歴にぴったり合致するものでした。ただ、僕はその時、重要プロジェクトの担当者だったので、「ポジションにはとても興味があるけど、今はとても重要なプロジェクトの最終局面にいて、とても充実しているので、転職のことは考えていない」と断りました。リクルーターのエイリンは、僕が内心興味を持っていることを知ると、簡単には引き下がりませんでした。「転職活動はそれほど急には進まず、実際の転職は9月くらいになりそうだから、急いで結論を出さないで転職の可能性も考えてみて」と言われて、後日また話すこととなりました。

ところが、その数日後に、担当していた新薬があっさりとFDAから承認されてしまいました。FDAは当初、承認の目標期日を2021年8月までにとしていたので、担当者の僕も驚いてしまう、3か月も早い5月での承認でした。転職活動はまだ時期早々で、担当している重要プロジェクトがある程度落ち着いてから、と考えていたところが、そのプロジェクトのゴールが早まって達成されてしまったのです。こうなったら、別の会社が自分のこれまでの経験をどのように評価してくれるかを知る良い機会だから、転職するかどうかはまだ決めなくてよいから、とりあえず、応募してみようと考えを改めました。さっそくリクルーターのエイリンが僕の履歴書(CV, curriculum vitae)をその会社に送ってくれることになりました。

数日後にエイリンから連絡が入り、その会社が大変興味を持ってくれたことを知りました。さっそく研究開発のトップの方とズームで面談をすることになりました。すぐ翌日に30分間のズームミーティングが設定され、その方と気さくに楽しく話すことができました。こちらが一方的に質問攻めに遭うのではなく、どのような会社で、どのようなミッションでがんの治療薬を開発し、どうして僕に興味を持ってくれたかを丁寧に説明してくれました。僕からも、大きな製薬会社で重要なプロジェクトを任され、とても充実した10年間を送ってこれたこと、大きなプロジェクトが一区切りつき、別の環境で働く可能性も考え始めて応募したという経緯を話しました。すぐに話はまとまり、本当に転職するかどうかはまずは置いておき、研究開発に関わる他のキーメンバー何名かとさらに面談すること、僕のこれまでの経験を1時間程度にまとめて社員の前でセミナーを行うことが決まりました。

これらの転職の進め方は、僕がこれまで経験したアメリカでの転職と全く同じものです。ひとつだけ異なることは、これまでは実際の会社を訪問して、個別面談やセミナーを行いましたが、今回はすべてズームを使ってバーチャルで自宅にいながら行えてしまうことです。コロナ禍の影響で、良くも悪くも転職活動まで大きく変わったことを実感しました。

僕が実際にその会社に入った場合、関わりそうな部署の方、5名と人事部長の合計6名とズームで面談をしました。ひとりあたり30分~45分の面談です。実際に会社を訪問してインタヴューを行うのであれば、これらの各面談と1時間のセミナープレゼンテーションをすべて1日に詰め込んで行うところです。しかし、今回はズームを使ってバーチャルで行われたので、数日に分散して行うことができました。僕が住んでいるのはカリフォルニア州、この会社があるのは東海岸のマサチューセッツ州ボストンの北にあるケンブリッジで、時差が3時間あります。このため、数日に分けて時差の影響を受けずに進められたことで大変助かりました。

各面談では、それぞれのインタヴューアーが、まず最初に自分の役職や部署の役割をとても丁寧に紹介してくれました。その後に僕の経歴、経験、応募動機、インタヴューアーへの質問などを聞かれました。大きな会社から小さな会社へ移ることの覚悟、不安などを聞く人もいました。僕が経験した大きな失敗や自覚している弱点などをあえて聞かれる人もいました。僕は、今回の転職活動は、「双方が本当にしっくり合い、ワクワクしあえたら進めればよい。そうでなければやめればよい。」と大きく構えていました。なので、大きな失敗談(前の前の会社をほとんどクビ同然の状態で去ったこと)なども隠さずすべて話すようにしました。逆に開き直ったのがよかったのか、結局すべての面談者から大変ポジティブな評価がいただけたようです。

面談に加えて、バーチャルですが、たくさんの社員に向けて1時間のセミナープレゼンテーションを行いました。幸い僕の担当した新薬がFDAに承認されたところだったので、そのプロジェクトで僕が達成できたことを1時間のプレゼンテーションにまとめて発表しました。いくら自分が達成したことであれ、会社の機密事項に触れるような内容を別の会社に漏らすことはできません。そんなことをしたら、今いる会社を裏切るだけでなく、自分の利益のために機密事項を簡単に漏らす人間だとみなされ、結局、面談先の会社にもネガティブな印象を与えてしまいます。僕の場合は、プロジェクトで達成したことを、ちょうど科学雑誌に論文発表し、すでに一般公開していたので、機密事項にはならず、堂々と発表することができました。

こうして個別面談もセミナー発表もとてもうまく行き、ポジティブな評価をもらうことができました。そして、その後すぐに「ぜひ採用したい」という連絡をいただくことができたのです。

思い返すと、今回のすべての転職活動が、自宅にいながら、会社を一切訪問もせずに完了してしまったことにビックリです。


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