海外で働けるトキシコロジストという研究者の道 - 4. 強力なサイエンスチームを作る
僕はアメリカの製薬会社で働く研究者です。2021年8月に、これまで10年間働いた大手製薬会社から、小さなスタートアップカンパニーへ転職しました。今後、一から新たなサイエンスチームを作っていくことになります。今回はサイエンスの雑誌としてはユニークなサイエンスの分野で強力なチームを作っていくためのモデルについて書かれた論文を見つけたので、簡単に紹介します。
サイエンスの研究分野では、さまざまな専門性、バックグランド、国籍、文化、教育・仕事経験を持つ個性豊かなサイエンティストがたくさんいます。それぞれの専門分野で自らの専門分野にプライド、情熱をもって研究に取り組んでいるサイエンティストが集まり、チームとしてまとまって、一丸となってプロジェクトの成功に向かえば、ものすごい成果を生むでしょう。しかし、個性豊かゆえにチームとしてまとまるのが難しい場合が多々あります。この論文はそのようなサイエンスの分野特有のチーム作り(Team Effectiveness Model for Science [TEMS])について書かれたものです。
リーダーが一方的にチームをコントロールするのではなく、チームメンバーすべてが相互学習できるマインドセットを中心に置いたチーム作りをしていくモデルです。
以下の2つの質問に答えていく形で、強力なチームを考えていきます。
強力なチーム作りに重要な要素は何か?
その要素を生かして強力なチームを作るには、それぞれの要素をどのようにデザインしていく必要があるか?
論文では2番目の質問に対してしっかり回答することなく、チーム作りを進めることで、強力なチームが作れなくなってしまうことが多いことを指摘していました。
これを踏まえて、サイエンスチームにありがちな3つのギャップを上げ、それをどのように埋めていくことで、強力なサイエンスチームを作り上げることができるかが紹介されています。
ギャップ1:明確な基盤となるべきチームの価値感、想定、および行動規範の欠如
ギャップ2:サイエンスとサイエンスチームの関係を統合させるプロセスの欠如
ギャップ3:チームの価値感、想定、行動規範から生まれるべき構成要素としてのチームプロセスおよび構造の欠如
ギャップ1:明確な基盤となるべきチームの価値感、想定、および行動規範の欠如
才能あふれる個々のサイエンティストのアイディアを最大限に活かしたチーム作りをするには、ひとりのリーダーがチームをコントロールしてしまう一方的制御(Unilateral Control)ではなく、相互学習(Mutual Learning)のマインドセットでチーム全体が動ける価値観、想定、および行動規範を明確にすべきですが、それが曖昧なままチームが動いていることがよくあります。共有すべきとなっているのは相互学習マインドセットのはずなのに、実際に使われているマインドセットが一方的制御になっていることもよくあり、特に難しい問題がチーム内に発生している時に起こりがちであります。とくに価値観、想定、および行動規範をすべて明確に言語化せずに、一部を暗黙の了解としてチームを運営していると起こりがちです。
サイエンスの分野で今後の研究計画やデータの解釈を議論する場合、表1のようにチーム内で明確なマインドセットの価値観、想定および行動規範をいつも確認しておくことで、健全かつ有効なチームワークが可能になります。
ギャップ2:サイエンスとサイエンスチームの関係を統合させるプロセスの欠如
次にサイエンスとサイエンスチームの関係を統合させるプロセスの欠如を埋めるために、表2のようにチームアクティビティでの結果を3つの点に着目して評価し、健全なチームワークができているかを評価していきます。
ギャップ3:チームの価値感、想定、行動規範から生まれるべき構成要素としてのチームプロセスおよび構造の欠如
そして最後に表3のようにチームの価値感、想定、行動規範から生まれるべき構成要素としてのチームプロセスおよび構造の欠如を埋めます。
至極当たり前のことが書かれていると感じますが、同時にはたして自分のチームでこれらが本当にできているか?と問われると、はっとさせられるところがあります。特にアメリカに来てから感じますが、プロジェクトチームが新たに作られるとやたらにチームビルディングやチームチャーターといったミーティングが行われます。特にバックグランドもさまざまで個人主義の強いアメリカではこのようにチームの価値感、想定、行動規範を明確に言語化することが、チームが最大限のパフォーマンスを発揮するのには重要になるのでしょう。
日本では、至極当然のこととして、または暗黙の了解のこととして、しっかりしたチームビルディングがあまりやられていないかもしれないですが、実際にはこのようにチームの健全な運営ができているかをしっかり確認することが大切だと思います。
いきなりチームメンバーを集めて、チームビルディングといってもメンバーはシラケてついてこないかもしれません。チームリーダー自らが、まず率先して理想とする価値観、想定、行動規範に基づいた言動をブレずに続け、チームメンバーの信頼を得ることが必要だと思います。
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