アメリカでの転職 転職のモチベーション
僕はアメリカの製薬会社で働く日本人研究者です。この8月に10年間働いた大手製薬会社から、小さなスタートアップカンパニーに転職しました。完全にジョブ型雇用が浸透するアメリカで、自分の価値観と合わせて自分の成長・働き方を決めていくことはとても大事なので、僕が転職に至ったモチベーションは何であったかを考えてみました。
1. 収入
もちろん収入の増加は、転職のものすごく大きなモチベーションのひとつでした。会社内でよいパフォーマンスを発揮して、基本給(ベースサラリー)を上げていくことは、日本と比べればアメリカの方がやりやすいと思います。しかし、同じ会社内でベースサラリーを上げていくのは、やはり限度があります。パフォーマンスが期待以上と評価され、さらに昇進も達成した年が2020年でしたが、その年のベースサラリーの増加率は6.65%でした。その他にもパフォーマンスが期待以上と評価された年は4回ありましたが、基本給の増加は、せいぜい2.5%止まりでした。10年間かけて増加したベースサラリーは、23%でした。これに対して今回のたった1回の転職でのベースサラリーの増加は31%でした。このような爆発的なサラリーの増加は、同じ会社にいたらほとんど無理でしょう。やはり転職による給料の上昇効果は桁違いでした。
2. 肩書(タイトル)
これまで働いた大手製薬会社と転職したスタートアップカンパニーでは、会社の規模が違いすぎるので、タイトルは比べられません。小さい会社では、一般的に大きな会社より高い位のタイトルがもらえます。僕の場合も、もし同じ会社内だったら2階級昇進にあたる高いタイトルを転職先からもらいました。給料が上がるだけでなく、より高いタイトルがいただけることも、やはり大きなモチベーションになりました。
3. 責任範囲
これまで働いていた大手製薬会社では、同じ部署内の社員数は100名を超えていました。プロジェクトの数も100を超え、それらたくさんのプロジェクトの中の数個について非臨床安全性評価をする部門のリーダーとなるという一研究員という立場でした。新たな転職先は、スタートアップカンパニーなので、限られた数のプロジェクトしかありません。しかし、それらすべてについて大きな責任を負うことになり、僕の部門の成功・失敗が、プロジェクトや会社の運命にも大きくインパクトを与えることになります。これまでとは負う責任は比べものにならないほど大きくなります。大きなプレッシャーもありますが、同時に大きなやりがいもあり、これも大きなモチベーションとなりました。
4. 地理的変化
これまで10年間働いた会社はカリフォルニア州ロサンゼルス郊外にあります。年中乾燥していて雨が少なく、夏は涼しく、冬は暖かい、最高の気候です。物価は高いですが、このあたりの人たちは、この最高の気候のためにお金を払っているとよく言います。新たな会社は東海岸のボストンに隣接した学園都市ケンブリッジにあります。日本と同じで四季があり、冬は極寒の地となります。気候だけでみると、今いるカリフォルニアは最高で、以前の朝散歩の記事でも紹介したように大自然を満喫できます。
一方、文化的な面でみると、ボストン・ケンブリッジは、めっちゃ魅力的です。コンパクトなエリアに歴史あるボストンの街とハーバード、MITをはじめとする有名大学がひしめくケンブリッジの学園都市がちょうどよいバランスであり、様々な文化を満喫できます。実は10年以上前に2年弱、ボストン郊外に住んでいたこともあり、またあの文化的な街に帰り、古い街を散策したり、美術館・博物館を見たり、おいしい食べ物を満喫できると想像するのもモチベーションのひとつとなりました。
5. 新しい挑戦へのワクワク感
転職を決めた最も大きなモチベーションは、新しい挑戦へのワクワク感でした。僕が10年間働いた大手製薬会社は、日本にいた時から「こんな会社で働いてみたいなぁ」とあこがれていた僕にとってのドリームカンパニーでした。その夢がかない、10年間働くことができました。素晴らしい仲間にも恵まれ、たくさんのプロジェクトで成功体験を積むことができ、とても幸せでした。ただ、ちょうど10年を過ごし、僕が抱えていた最も大きなプロジェクトでも大きな節目を終えたところで、次の5年、10年を想像してみました。このまま、会社に残ったら、また新たなプロジェクトを任され、これまで同様素晴らしい仲間たちとチームを作って、実績を作っていけるだろう。それはそれで充実して楽しい経験だ。ただ、ここで全く違う環境の会社に転職して、全く新しい人達と全く新しい新薬のプロジェクトのために働くのはどうだろう? 同じ会社で今後5年、10年を以前と同じように繰り返すのと、全く違う環境に身を置いて新たな挑戦に挑むのとでは、どちらが自分の成長にとってよいだろうか? ちょうど、そんなことを考えているところに、リクルーターから今回の転職話が舞い降りたのです。その会社が求めている人材のバックグランドも僕のこれまでの経験にぴったりでした。その会社がもっている新薬の卵も、僕がとても興味が持てるもので、ぜひこれを世に出すことに貢献したいとときめくものでした。その会社も僕のこれまでの経験・実績をとても高く買ってくれて、ぜひ入ってほしいと熱望してくれました。もうそうなるとそのワクワク感を抑えることはできませんでした。もちろん、収入が上がることや、高い肩書がいただけることもうれしいですが、この新しい挑戦へのワクワク感が、僕が転職を決めた最も大きなモチベーションとなりました。
この挑戦が、僕の次の5年、10年にどう影響するかはまだ全く分かりませんが、このまま転職せずに、将来になってから「挑戦すべきだった」と後悔するよりかは、今挑戦した方が絶対にいい! たとえうまく行かなくても、後で笑い飛ばせるんじゃないか、と思えました。これからどうなるかは、今後の自分次第。後悔しないように、行動的でい続けたいです。
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