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アメリカでの転職活動 リファレンスチェック

今回はアメリカでの転職で経験したリファレンスチェックの重要性について書きます。転職活動のほとんどは、人に頼らずに自分の力で進めていくものですが、最後の大詰めでやっぱり人の力を借りなければなりません。それがリファレンスチェックで、日ごろから人脈を大切にしておくことの重要さを痛感させられるものです。

リファレンスチェックとは、採用を考えている会社が、採用を決定する最終段階で、応募者の前職での実績や勤務状況に偽りがないかを、一緒に働いたことのある同僚や上司に確認する調査です。日本で転職活動をしたことがないので、日本にこのプロセスがどれくらい定着しているかは知りませんが、アメリカでは、4度転職した僕の経験上、リファレンスチェックはとても大切なものです。

転職活動をする際、応募者は、まず履歴書(職務経歴書、CV, curriculum vitae)を準備して、転職希望先の会社に直接それを送るか、リクルーターを介して送ってもらいます。通常、リクルーターからは、履歴書には、自分のこれまでの職務を客観的に淡々と記載するのではなく、自分がこれまでに達成したこと、成し遂げてきたことを能動的に記載し、自分を高く売る工夫をするようにアドバイス受けます。

例えば、僕の場合、「新薬の非臨床安全性評価・申請資料の作成」のように書くのではなく、「3年という極めて短期間に、これまでとは全く異なる機序のがん治療薬の非臨床評価を完了させ、その間に認められた安全性の懸念をすべて解消し、新薬承認申請資料を作成し、米国食品医薬品局から承認を得ることに成功した」のように、可能な限り自分を高く売るように記載します。もちろん、事実に基づいていなければ経歴詐称となりますが、事実に基づいている限り、積極的に自分のこれまでの実績を高くアピールして、自分を高く売る履歴書を作成することは転職を成功させるためにすごく大切なことです。ただし、採用を考えている会社側も、そのことはもちろんお見通しです。

ジョブインタヴューでは、採用を考えている会社の主要メンバーが、実際に応募者と面談してCVに書かれている以外のソフトな部分を厳しく評価しますが、30~45分間、話しただけで応募者の人となりをすべて把握することには限界があります。個別面談に加えて、僕の業界の場合、ほとんど必ずと言っていいほど、自分のこれまでの実績を30分~1時間のセミナーにして、プレゼンテーションすることがジョブインタヴューの際に要求されます。もちろんこのセミナーでも自分を高く売る工夫を最大限盛り込みます。ただし、新薬の研究・開発は、ひとりの研究者が行えるようなものではなく、非常に多くの人が関わり、チームとして取り組んで成し得るものです。応募者が素晴らしい新薬の研究・開発の成果を、自分の実績としてプレゼンしても、聞く人たちは、その発表された実績のどれくらいの部分に、応募者が実際に貢献しているのかを正確に知ることは難しいのが現状です。

アメリカの会社は完全にジョブ型雇用であり、募集しているポジションのジョブディスクリプションに書かれた仕事内容を確実に実行でき、即戦力で会社に貢献できる人材を求めています。もし、誤った人材を採用してしまったら、とんでもない損害を被ることにもなりかねません。

リファレンスチェックは、このような採用ミスのリスクを減らすためにとても重要なものです。採用される側の応募者にとっても、過大評価されて採用されてしまったら、結局は悲劇です。期待されたパフォーマンスが発揮できず、会社に多大な迷惑をかけたり、雇用契約破棄(クビ)になったりしたら、結局は応募者にとってもその転職は大失敗ということです。なので、リファレンスチェックは、採用を考えている会社にとっても、転職を成功させたいと思っている応募者にとっても重要なものです。

とは言え、会社の新規人材採用は、履歴書(CV)の精査とジョブインタヴューでほとんど大方が進みます。採用がほぼ決定し、最後の最後でその採用に万が一のギャップがないかどうかを確認するために、リファレンスチェックが行われます。考えてみれば当然のことです。採用かどうかがまだ全然決まっていない段階で、応募者の同僚や上司にいちいち応募者のことを根掘り葉掘り聞いていたら、応募者としては大変なことになってしまいます。特に、複数の会社と転職活動を進めていたりしたら、応募者のためにリファレンスを提供する同僚は、それら複数の会社とやりとりすることになってしまい、大変な負担となってしまいます。

応募者は自分の履歴書(CV)に、可能な限り自分を高く売るようにこれまでの実績を記載します。インタヴューでも、自分がいかにそのポジションに適しているか、いかに会社に貢献できるかをアピールします。もちろん人間性もポジティブな印象を持ってもらえるよう最大限努力します。セミナーでは、自分がこれまでに達成してきた成果がいかに意義のあるものかをアピールします。採用を考えている会社側は、応募者が示してきたこれらすべてのポジティブな面を総合的に評価して大方の採用を決めます。そして、オファーレターを応募者に出す直前、これまで下した評価と応募者の実際の働きぶり、性格などに大きなギャップがないかを、リファレンスチェックで最終確認するのです。すなわち、応募者と実際に働いたことのある同僚や上司に直接連絡して、彼らから見た応募者の人となりと、採用を考えている会社がインタヴューなどで得た応募者の評価が合致しているかを最終確認します。そしてギャップがないことが確認できれば、晴れて採用となり、オファーレターを送ることとなります。

今回の僕の転職は、カリフォルニア州にある10年間働いた大手製薬会社を辞めて、ボストンにある小さなスタートアップのバイオテックに移るというものです。最初は転職するかどうかは置いておいて、自分のこれまでの経験・実績が、どのように評価されるかを見てみよう、くらいの軽い気持ちで始めた転職活動でした。しかし、応募した会社が、面談などを通して自分のことをとても高く評価してくれたこと、そしてこの会社が開発している新たながん治療薬の研究・開発に自分もぜひ貢献したいと強く思えたことから、ぜひ転職したいという気持ちになっていきました。

転職の大詰めを迎えたところで、リクルーターからリファレンスチェックのため3名を紹介してほしいと連絡が入りました。3名のうちひとりは僕の直属の上司が好ましいとのことでした。転職活動は、現在いる会社の中では秘密裏に行われているので、現在一緒に働いている同僚や上司には、よほど親密な関係がない限り頼めません。僕の場合、10年間も同じ会社で働き続けたので、それ以前の会社の同僚では、僕の最近の実績を保証できるリファレンスチェックにはなりません。なので、10年間働き続けた今の会社の元同僚や上司で、すでにこの会社を去っている人が最適でした。僕は、今の会社で働いていたが、現在は別の会社に移っている元上司のひとりと元同僚のふたりにお願いしました。もと上司は、移った別の会社の研究部門でトップをしています。二人の同僚も、別の会社に移ってVice President、Directorとなって活躍しています。学歴・経歴を重視するアメリカでは、リファレンスを提供してくれる人の肩書も大切です。3人とも久しぶりに連絡を取り、突然リファレンスをお願いすることになりましたが、とても快く引き受けてくれました。逆に僕が元同僚の転職を支援するためにリファレンスを頼まれることもありますが、これまでの経験上、よほど不自然な関係でない限り、多くの人が快くリファレンスを引き受けてくれます。持ちつ持たれつの関係になれるわけですから。

実際にリファレンスを行うのは、人事部や転職エージェントや第三機関の場合もあるようですが、僕のこれまでの4回の転職経験では、すべて実際に採用を考えている部署の長が直接電話で話す形で行われました。また、僕が逆に元同僚の転職を助けるためにリファレンスを提供する場合も、実際の採用を考えている部署の長と話す場合が、ほとんどでした。リファレンスチェックは、短いものであれば15分間程度の電話での会話で終わってしまうものもあれば、長い場合だと1時間以上に及ぶ場合もあります。短い場合は、履歴書に書かれている内容と照らし合わせて簡単に確認するような内容です。長い場合は、応募者の実績や人となりがわかるようなエピソードを紹介してほしいなどと言われる場合もあります。リファレンスを提供する際は、元同僚の転職をサポートしたいので、できるだけ応募者の良い点をアピールするようにしますが、リファレンスチェックの相手からはあえて短所・欠点を上げるとするとどういうものがあるか?などと聞かれることもありました。

今回の僕の転職でも、研究・開発のトップの方が、僕が紹介した元上司・同僚と直接電話で話して、僕の経歴・実績・人となりなどを確認してくれたようです。快く引き受けてくれた元上司と同僚のおかげで、リファレンスチェックも大変順調に進み、最初のふたりと話し合った段階で、リファレンスチェックは十分となり、無事、オファーレターがいただける運びとなりました。

こういう時に助けてくれる元上司・同僚がいたことにあらためて感謝しました。また、リファレンスのためだけではないですが、日ごろから、上司、同僚、社内の仲間とは裏表なく良い人間関係を築くことが重要だなと改めて思いました。それに加えて、転職で別の会社に移っていく同僚・仲間ともLinkedInなどできちんと繋がっておくことが大切です。人脈は、自分の経験・知識・スキル以上に重要な自分の大切な無形資産になります。

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