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就職市場における情報の非対称性について考えてみる。

就職、転職、採用活動における情報の対称性はどこまで必要なのか?という点について、漠然とした疑問を感じていました。

採用側と求職者側の立場はイーブンであるべきで、求職者側が面接などの採用選考を通じて、ありとあらゆる情報を開示する(させられる)のと同様に、企業側も出来る限り情報を開示し、お互いに選び選ばれる立場関係を構築しようというのが、昨今の風潮です。


労働法的な観点から考えると、どのような人を採用するかは企業側に判断する権利があり、またその採用基準を開示する義務は課せられていません。従って、求職者側との情報開示の対称性を求める必要はありません。

しかし、企業側の情報開示があまりに少ないと「上から目線だ」「フェアではない」「情報が足りなくて不安(選考に参加したくない)」というネガティブな印象を求職者から持たれてしまう。結果として、必要な応募者を獲得できなくなったり、採用活動にネガティブなインパクトが発生してしまう原因の一つになる。


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ルールに厳しいけど、唯一無二の旨さをほこるラーメン屋があったとする。
その店ではこんなやり取りが日常茶飯事で発生している。

客「大将、ルール細かすぎるよ」
大将「こだわりを持ってやってますから」
客「SNSにアップしたいから写真くらいいいでしょ?」
大将「黙ってさっさと食べてもらえます?」
客「その言い方は何なんですか?」
大将「文句があるならお代はいいからさっさと出て行ってくれ!」
とある伝説的ラーメン屋での会話

さて、この店が辿る末路はどのようなものでしょうか。

この態度の悪い大将の様子があっという間にSNSで拡散されて、人気店から不人気店に転落してしまうかもしれません。

しかし、この店のラーメンが本当に唯一無二の旨さで、他のどんなラーメンを食べても、この店の味には敵わないとすれば、態度が悪いこだわりの強い大将のルールを我慢してでも、この店に来店する客は途絶えないかもしれません。

仮にとてつもないお金持ちがやってきて「1億円払うから自分のためだけにラーメンを一杯作ってくれ」と言ったとしても、頑固者の対象が首を縦に振らない限り、金持ちの手元にラーメンが届くことはありません。

逆にラーメン店側が、(味には自信があるけれど)集客に苦戦しているような状況であれば、割引をしてでも食べに来てもらいたいと思うかもしれませんし、強力なインフルエンサーがいれば、お金を払ってでも食べてもらおうとするかもしれませんが。


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企業の採用活動と求職者の関係というのは、上記のラーメン屋と客のような関係に通じるものがあります。

優秀な人材を採用したい企業は、高いお金を払ってでもラーメンを食べたい客です。

他に似たような旨さのラーメン店が近くにあれば、わざわざ面倒な大将がいる店を選ぶ理由はありません。
しかし、他に代替となるものがなくて、そのラーメンでしか味わえない旨さがあって、且つそれを求めているのであれば、何とかしてそのラーメンを食べる方法を考えます。
即ち、希少性の高いスキルや知識を持っている求職者がいて、どうしてもその人材を採用する必要性に迫られていれば、企業は可能な限りの手段を講じてその人材を採用します。
もっとも、唯一無二のスキルや知識というのは、非常にレア(おそらく芸術家や一部の研究者などに限られる)ので、大抵の場合は、待遇や条件は青天井となることはなくて、採用市場の中で妥当性の高い範囲に落ち着きます。


では、求職者側であるラーメン店の大将はどうすればよいのでしょうか。
ラーメンの味を唯一無二のレベルまで引き上げる。それが難しい場合は、客のニーズや状況に対して、店の方針をフレキシブルに調整していく必要があります。

採用市場で言うならば、企業側が求める自分要件や採用条件に対して、多少アジャストしていく必要性があります。
もっとも、客(=採用する企業)は一人ではないので、完全に客に媚びへつらう必要はありません。

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この辺りのバランス感というのが、変わってきたのがこの10~15年くらいのことなのだろうと思います。
前時代的な採用環境であれば、企業がどのような採用を行っているか、求職者に対して対応を行っているかというのは、ほとんどブラックボックスの中でした。かすかに漏れ出たとしても、求職者のすぐ近くの友人知人まで。あとは尾ひれがついて原型をとどめない噂が漂うばかりでした。

しかし、現在ではインターネットとSNSが普及し、情報の共有レベルが一気に引き上げられました。そのことによって、ある企業の特定の人事担当者が発した一言が、その日のうちに列島各地に拡散されるようになりました。その結果、求職者側は合理性の高い比較検討の材料を手に入れることになり、採用企業側と求職者側のパワーバランスが変わってきたのです。


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採用企業と求職者の関係について、ラーメン屋と客という妙な喩えで表現してみました。ちなみに、ラーメン屋側ではなく、客側を企業と捉えたことに違和感を感じた方がいるかもしれません。
意図としては、(すごく乱暴な表現になってしまいますが)企業は社員にお金を払って、労働力や知識、技術などを”買っている”ように捉えたところがきっかけです。
もちろん、労使の関係というのは、賃金報酬と労働力のトレードだけではなく、人間関係の構築や、新たなスキル習得、中長期的な安心など、様々なものを互いに提供したり享受しあう関係です。

採用企業との関係性に不平等感を感じている求職者の方は、自分がどのようなラーメン店と思われているのか。その客(=企業)の他にどのような客やマーケットがあるのか、少し俯瞰的に捉えてみると、有利なのはどちら側か、自分を有利な立場にするためにはどすればよいか、新しい視点が見えてくるかもです。



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