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シンプルの本質:結素指向アプローチへの招待

2つの価値を1つの仕組みで達成出来れば、物事はシンプルになります。これがシンプルの本質の一つだと気が付きました。

以前の記事で、このような複数の価値を1つの仕組みで達成することを「ソリューション」と呼ぶことにしていました(参照記事1)。しかし、問題解決を意味する言葉ですので、少し表現したい言事をカバーできていないと感じてました。また、その記事を書いた時には、これがシンプルさの本質とは気が付いていませんでした。

そこで、改めて考え直し、日本語では結素(ゆうそ)、英語ではSimulという言葉を定義して、この概念を表現することにします。

結素(Simul)の定義

  • 複数の価値・意味・機能・効果が、単一の物・事・構造・仕組みで成立するとき、そこにある抽象的な本質を指す。

結素(Simul)という言葉の由来

まず、日本語の結素について。「結ぶ」という言葉から着想しました。複数の物をつなぎとめることです。結合や結集、結論など、複数のものがしっかりとつながっているイメージがあります。「素」は、要素や元素など、基本的な成分を意味する言葉です。

英語のSimulですが、これはシンプルの語源となっているラテン語です。正確には、「一緒に」を意味するSimulと「一つに」を意味するunusからシンプルという言葉は成り立っているそうです。このラテン語のSimulを、結素に対応する英単語として、採用することにしました。なお、ラテン語のSimulは、 "simulate"(模倣する)や "simile"(比喩)にも影響している言葉なのだそうです。

結素(Simul)について考える

ここで、結素(Simul)の事例をいくつか挙げます。まず、空間に固定化されて動かない静的な結素の代表例として「支え合い」があります。これは、2枚のカードを「人」の字の形に立てかけた構造です。2枚のカードをそれぞれ別々に立てようとするよりも、安定しています。その上、この2枚のカード以外に何も使わなくて良いというシンプルさがあります。

動きがある結素の例であれば、振り子があります。シンプルな構造でありながら、運動エネルギーと位置エネルギーを交互に交換して周期を生み出すことができ、エネルギーを長時間散逸させることなく動くことができます。

もっと複雑な結素の例としては、例えば工業デザインにおける機能美と呼ばれるものたちがあります。具体的には様々なものがありますが、ある製品のフォルムが機能面でも優れており、同時に美的要素も持つというものです。まさに2つの価値を実現する結素です。

機能と美だけでなく、そもそも設計(デザイン)は、機能と性能、美しさと独自性(例えば日本らしさ)、などを両立させる知的作業と言えます。エンジニアの設計図、デザイナーのデザイン、リーダーの戦略デザインは、目的に即して最もリーズナブル(たいていは最もシンプル)になるように、結素の組み合わせを考え出す作業とも言えます。

ここで大きなポイントは、結素は模倣やコピーが可能という性質です。それは、同じ分野ではもちろんですが、異なる分野でも同様です。特にシンプルで強力な結素は、抽象化して別の分野に適用すると、同じような力を発揮します。私が、結素を英語ではsimulと名付けることにしたのは、一緒にという意味の他に、"simulate"(模倣する)や "simile"(比喩)のニュアンスを持っているからです。

結素(Simul)の観点で考える

このような特性を理解すると、設計やデザインや問題解決は、結素に着目して考える事が、とても良いアプローチであること分かります。ある分野で本質を考えて見ぬいて、そこにある結素を抽出してその本質的な仕組みや構造を明示することができれば、同じ分野の別の個所にも適用できますし、全く異なる分野へも応用ができるようになります。

この結素の抽出と形式化、そして応用するという作業に焦点を当てることで、知識の発展や問題解決を加速することができると思います。これを結素指向アプローチ(Simul Oriented Approach)と呼びたいと思います。

私のこのnoteの元々のメインテーマは生命の起源の探求です。その探求のアプローチとして、この考え方を採用しています。

生命の起源は有機物から細胞ができるまでの化学進化によるものと考えられています。私はそこに、有機物の自己組織化と自律的発展の仕組みがあるはずと考えました。別の分野で、そのような性質を持つシステムがあれば、それを抽象化して有機物の世界に適用すれば、何か興味深いことが分かるかもしれないと思ったことが発端です。それが生態系システムであり、その抽象モデルを有機物の世界に当てはめて考えました。それにより、経済システム、知能の仕組み、ソフトウェアシステムなどから有用な知見を集めることができたのです(参照記事2, 3, 4)。

この作業は、今振り返ると、結素として生態系システムというシンプルで有用な抽象的な構造を見つけ出し、それを分野を超えて応用することで、さらに応用可能な他の結素を見つけ出すという作業でした。まさに結素思考アプローチです。

このように、分野を超えて物事をシンプル化する性質を持った結素という概念を取り入れることで、デザインや研究における知的活動で何が行われているのか、また、そうした知的活動で何がポイントになるのかが見えてきました。

結素は、私の中でもまだ着想したばかりの考え方です。これを掘り下げていくことで、新たな地平線を切り開いていける可能性を、ひしひしと感じています。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4


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