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価値と供給の鎖:すべては環で結ばれる

はじめに

考えていたことが、つながりました。

私は、生態系システムの分析の中で、価値の森という考え方を提案していました(参照記事1)。生物種の進化の過程では、単に生存能力が高いものや、環境適用能力が高いものが生き残るという考え方が主流です。しかし、それだけでなく、他の生物種とお互いに生存能力を高め合う関係、つまり「価値」を提供し合う関係が構築できる種が生き残る、という考え方です。

また、生態系システムは生物の進化と発展だけでなく、人間の社会の進化と発展、知識の進化と発展、文化や経済の進化や発展、そして生命の起源、つまり生命以前の有機物から細胞が生み出されるまでの有機物の進化と発展のメカニズムにもなっていると私は考えてきました(参照記事2,3)。

特に、私がこのnote記事全体のメインテーマにしている生命の起源における有機物の進化と発展と、知識の進化と発展についての共通性は非常に興味深く、様々な発見があるため繰り返し記事にしています(参照記事4,5,6,7,8)。これらの記事では、生態系システムというモデルを通して、太古の水たまりを有機のスープとその器、人間の脳を知識のスープとその器と、見立ててモデル化しています。このモデル化により、いまいち把握しづらかった生命の起源と知識形成のそれぞれのメカニズムを、相補的に深く理解することができ、次々と新しい発見ができるのです。

今回は、価値の森と、スープと器の話が、つながったという話です。

サプライチェーンとバリューチェーン

生命の起源についての私の打ち立てている仮説は、有機のスープの器の中で有機物の合成が進みつつ、時々、器と器が有機のスープを交換して多様な有機物の合成を促進する、という考え方です。

この考えをもとに、現実的にあり得るシナリオを掘り下げていくことが私のnoteの目下の主題です。その掘り下げの中で、最近気が付いた重要なポイントは、有機物のバリューチェーンです。生命誕生以前の有機物の生態系システムは、遺伝子による自己複製に頼って複雑で高度な有機物を生み出すことはできません。このため、何かの拍子に奇跡的な確率で複雑で有用な有機物が運良く合成されても、その有機物が壊れてしまうと、また次の奇跡を待たなければなりません。

つまり、細胞の誕生に至るまでの有機物の合成は運や奇跡に頼るだけでは駄目です。そして、このことを突き詰めて考えていった結果、有機物のサプライチェーンが必要だという気づきを得ました。

太古の地球環境において、様々な場所で無機物から単純な有機物は合成できた可能性があるという研究が進んでいます。大気中の雷、海底の熱水噴出孔、鉱物表面や火山地域に近い場所の水たまりなど、豊富な無機物とエネルギーが供給されるような環境です。

こうした場所で、基本的な何種類かの有機物が合成され、それらが合成されて少しずつ複雑な有機物が出来上がっていったと考えます。先ほどの話のように単発での奇跡的な合成では駄目です。段階的に複雑な有機物が合成されていくのであれば、各段階での合成は一回限りの運任せでなく、繰り返し同じ合成をして、次の段階へ有機物を供給する仕組みがなければなりません。つまり、有機物がどんどん複雑なものに進化する過程は、その有機物を合成する仕組みの進化と維持も伴わなければならないという事です。

これは、現代の社会を支えている物づくり、製造業の仕組みとそっくりです。最初の方で説明したように、経済の進化と発展も生態系システムの特性を持っていますから、同じ生態系システムとして捉えれば、有機物の進化と発展が、製造業とそっくりな仕組みを持っていても、不思議はありません。

現代の製造業は、サプライチェーンと呼ばれる流れに沿って複雑で高機能な製品を作り上げています。金属・木材・樹脂・石油化学製品などの基本的な原材料から1つの工場で最終的に我々が手にする製品が作られるわけではなく、様々な部品や素材を多数の工場で手分けして作っています。そして原材料から最終製品までの工場のつながりを描くと、段階的に高機能で複雑なものが作り上げていく様子がわかるでしょう。この様子は、工場同士で必要になる素材や材料の「供給」が行われていることから、サプライチェーン(供給の鎖)と呼ばれます。また、サプライチェーンは時代と共に変化します。その変化を動機づけるものは、製品や材料や素材の「価値」です。消費者の好みが変わってある製品Aよりも製品Bの方が売れるようになると、つまり製品Bの方が価値がある時代になると、製品Aのサプライチェーン上でのモノの流れは少なくなり、細く弱いチェーンになります。一方で、製品Bのサプライチェーンは太く強くなっていきます。また、何らかの技術革新で、製品を作る途中の部品が高品質で作れるようになったり、同じ品質でより安い材料が見つかったりすると、つまりより価値のある部品や材料が見つかると、サプライチェーンはその部品や材料を作り出せる工場を取り込む形で変化します。つまり、物の流れから見るとサプライチェーンになっていますが、その背景には製品や部品や素材などの価値のつながりがあり、その価値のつながりこそが、サプライチェーンの形を決定づけていることが見えてきます。それをバリューチェーン(価値の鎖)と呼びます。

有機のスープにおける価値と供給の鎖

このバリューチェーンにより形作られるサプライチェーンが、有機物の世界にも形成されたというのが、生命の起源についての私の仮説を大きく補強します。

まず、有機物というただの物質が化学反応を繰り返すだけの世界に、工業社会に見られる知的で高度なバリューチェーンのようなものが発生し得るのか、という疑問があると思います。その答えは参照記事1で考えてきた価値の森の構造で説明がつきます。有機のスープの器(例えば水たまり)の中で単純な有機物から合成された有機物が、自身を合成する仕組みを促進するのに役立つ機能を持っていれば、その有機物は生成され続けるでしょう。もう少し高度に進展すれば直接自分の合成を促進できなくても、水たまりの中の他の合成を補助する機能があれば、生成され続け得ます。これは知的な存在がいなくても自動的に発現され得るメカニズムです。例えば水たまりの温度を基本的な有機物の生成に適した温度に保つことができる有機物が生成されたり、他の有機物を壊してしまう紫外線を水たまりの表面でブロックするような有機物が生成されたらどうでしょう。その水たまりは、他の水たまりよりも、高度な有機物が生成される環境が整っていくと容易に想像することができるでしょう。水たまりの中の他の合成に役に立つ機能や性質が、ここでは「価値」です。この価値がうまく鎖のようにつながるような新しい有機物が合成されると、価値の鎖(バリューチェーン)が延びて発展し価値の森を形成していきます。その鎖に沿って有機物を段階的に合成して供給し続ける供給の鎖(サプライチェーン)も発展し、維持し続けられていくわけです。

そして、有機のスープの器、地球上で有機物が合成される水たまりや池や海は全てつながっていき、それらのネットワークが多様な有機物を生み出して細胞の誕生に至るという私の生命の起源に対する仮説が、このバリューチェーンとサプライチェーンというモデルで、一層、強化されます。この仕組みが自然界においても働くという私の洞察が真実だとすれば、グローバル経済が高度な工業製品を生み出している事実から、生命の起源について私が謎に思っていた事の半分くらいは、既に解けたように思えてなりません。

さいごに

まだこの話には続きがあるのですが、工業社会と生命の起源の話でずいぶん長くなってしまったので、この記事はここまでにします。
続きは次の記事(「意味と記憶の鎖:続・すべては環で結ばれる」というタイトルを予定しています)で。お楽しみに。


参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4

参照記事5

参照記事6

参照記事7

参照記事8


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