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(履歴書つき)トランスジェンダーの就活失敗談


トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別とアイデンティティとする性別が異なる人の総称です。自分はその中でもXジェンダー(またはノンバイナリー)を自認していて、自分のことを男とも女とも思えません。
 
そんなことがあるのかとびっくりする人もいれば、自分も昔そういう時期があったなー、と懐かしく感じる人もいるでしょう。実際に、自分の周りでは何人かのXジェンダーが「卒業」していきました。出生時に女性と割り当てられ、男性の服を着て女性を愛していた人もいました。だけど、就職、結婚、子育てといったいわゆる「普通」のルートを歩きたいとき、男女どちらかに属さないアイデンティティは邪魔になります。ホルモン治療や手術を経て男性として生活していく人も、トランスジェンダーであったことを隠すかのように女性として生きようとする人もいます。それまでのアイデンティティを脱ぎ捨てて、大人になっていくのかもしれません。
 
でも自分にはそれがどうしてもできません。わかってるんです、女性として割り当てられたなら、顔や声が女性的なら、女性らしく社会に出たほうが楽だってことは頭ではわかってるんです。でもできない。できないし、そうしなければいけない意味もなんだか理解できていない。自分みたいなのがいるとそんなに迷惑なのでしょうか?たぶん迷惑なのでしょうね、こんなに就職できないのだから。
 

【自己紹介】


160㎝45㎏、細くて白くて普段は金髪。周りから「王子」とあだ名をつけられています。でも自分としては「もう少し身長欲しいなー」「筋肉つかないのコンプレックスなんだよなー」と思っています。好きな食べ物はお寿司とキャベツと家系ラーメン。
 
婚姻制度には疑問を感じており、法律で相手を縛る権利を持ちたくないと考えているのでパートナーと結婚する気はありません。(それはそれとして同性婚できる国になった方がいいとは思っています)
 
普段から男性の服を着ることが多く、ナベシャツ(胸つぶし用のインナー)をつけています。「私は男か女かどちらに見えますか?」と声を出さずに質問したとして、「パッと見は男、よー-く見ると女?」みたいな返事をされる感じです。
就活時のスーツも男性用です。本当はオーダーメイドのスーツの方が体形にも合っていて良いのかもしれませんが(肩幅とかお尻のサイズとか)、お金がないので弟のやつを借りていました。骨格は弟と似ているのでそこまで違和感がなかったのですが、さすがに脚の長さは違ったので身長を高く見せるためのシークレットシューズを買いました。
 

【どっちのトイレ使えばいいの!?】


 日常生活で一番困るのはトイレです。パッと見が男だから、女性トイレで何度も怒られ、戸惑われ、店員を呼ばれ……。かといって男性トイレは個室しか使えないので埋まっていたら最悪です。
また、他人から見ても男性か女性かわからない状態が居心地が良いので、男女どちらかのトイレに入っていく(または出てくる)のを見られることで、その人の中での自分の性別が確定してしまうことが悲しくて怖いです。結局はオールジェンダーの多目的トイレを使用することになります。
 
 しかし、就職先にオールジェンダーのトイレは果たしてあるのでしょうか?狭い事務所なら便器が一つしかなく勝手にオールジェンダーになるとしても、もし更衣室があったら?それが男女別だったら?悩みは尽きません。
 

【名前を変えよう!】


まず就活の準備として必要だったのは名前を変えることでした。女性らしいもともとの名前で社会に出ることは苦痛だったからです。
大学生になってから公的な場でも徐々に通称名を使うようになり、教育実習でも通称名を使わせてもらいました。
また、セクシュアルマイノリティについてみんなで学んだり大学を過ごしやすくしたりするという目的でLGBTサークルを立ち上げ活動を行い、大学でも通称名で在学証明書や学籍簿を出してもらえるようになりました。
 
そして、それらの証拠を持って家庭裁判所へ行き改名の申請を行うことになります。これは提出した申請書の文章です。

申立人は、幼少期より性別の違和を感じ、精神的苦痛のため〇年頃から現在の通称を使用し始めた。大学生からは周囲に自ら説明することで通称の使用を認められ、トイレ・更衣室や合宿時の部屋割り等の場面で配慮を受けてきた。
休学を経て現在大学4年生となり、学籍簿や在学証明書が通称となっているため戸籍名での就職活動に支障がある。また、教育実習で通称を使用したため、小学校教諭免許状の取得予定の名が実習時と一致しないという問題がある。今後も、医師や臨床心理士の指導の下で性別違和の治療を進めていく予定である。そのため、名の変更を申し立てる。
実生活では通称を使用しているため、改名後の生活に支障はない。

 
(家裁で必要になる「性別違和の診断書」の入手も大変でした!長くなる話なので別の機会に)
 
大学4年生の7月1日、晴れて新しい名前となり就職活動を始めます。
 

【狙った業種について】


障害児心理という分野を専修し、小学校教諭の免許を取得しました。そこで、児童指導員となり放課後等デイサービス(障害のある子どもの放課後の療育を行う施設)に就職したいと考えていました。

放課後等デイサービスには児童発達支援管理責任者が配置されています。いわゆる施設のリーダーです。たいていの場合は会社の社長か管理責任者(以降「管理者」と表現する)が人事にかかわってくることになります。
 

【キャリアセンター】


大学生が就職活動をする際、まずは大学のキャリアセンターにお世話になります。希望する職種から企業を探してくれたりもしますし、履歴書の添削から面接の練習までやってくれます。自分が男性用のスーツで面接を行うことに対して慎重になってはいましたが、履歴書や面接については「全く問題なし!堂々と行っておいで!」とお墨付きをもらい、自信をもって就職活動に臨むことになります。
 
ここからは、書類選考が通って面接になったものだけを集め、実際にどのような選考があったか書き連ねていきます。
 
 

【聞くのが人事の仕事では?/一社目(カミングアウトなし)】


履歴書の選考が通り、一次面接はオンラインでした。
面接官は若い女性でしたが、履歴書を読むと顔を青くしてうなり始めます。多分ですが、LGBTや性的少数者、セクシュアルマイノリティといった単語を知らないのです。知らないなら聞いてくれたらいいんだけどな、と思っていたけど言葉にできませんでした。
そして、志望動機も聞かれず、メールでお祈り文が届きました。
 
この経験から、やはりカミングアウトして自分のことを説明したほうがいいのではないか、そのほうがオールジェンダートイレの有無も聞きやすいし…と方針転換することになります。

 

【これってセクハラ?/二社目(カミングアウト済)】


知人の心理士の紹介でまずは施設見学をし、本社で面接ということになりました。

社長「ここ男女別のトイレしかないんだけど大丈夫?」
自分「徒歩1分の駅の多目的トイレを使うということでどうでしょうか?」
社長「業務中に出てってほしくないなあ…」
 
何も言い返せないですね。トイレは我慢します。
 
そして、社長と管理者からの質問攻め。
「手術しないの?性器はどうなっているの?プールはどうしてる?温泉は?男性と女性とトランスジェンダーのどれを好きになるの?生理来るの?来たらどうするの?」
 
志望動機は聞かれなかったけれど、「履歴書はしっかりしてるし問題ないんじゃない?」と社長が言い、管理者からは「在学中バイトしてもらうからシフトいつ入れるかLINEしてね~」と挨拶されその場は終わりました。
 
翌日、社長からの電話で「別の人を採用することにしたから」とお断りされました。
 
あとから心理士の知人に又聞きしたところ、社長が「福祉の人間嫌いなんだよね」と言っていたとか。では何故面接に呼ばれたのだろう、やっぱり興味本位でいろいろ聞きたかっただけなのかな…。
 

【モラハラ上司からの逃亡!/三社目(カミングアウト済)】


施設見学兼面接ということで、履歴書を持参して伺いました。
日当たりがよく、なかなか心地よい空間です。トイレもオールジェンダーで問題なし。
 
面接に入ると、管理者の方が「いきなり給与について聞いてくる人は全員落としてるんだー。お金ばっかり気にしてる人多くて嫌になっちゃうよね!」と。お金について何も聞けなくなりました。給与、そりゃ知りたいですよ…。
そして、「社員全員辞めちゃってさ、一人は鬱で休職代行で飛んじゃって、一人は寿退社で。私一人で回してるの。でもね、私は社員に厳しくありたいと思ってるの。人手足りないから明日からでも来てくれない?」
 
給与について何も聞けなくて、管理者が気難しく社員に対して厳しい人だとわかっていて、社員が一人しかいないという環境で働く勇気、ありますか?
弱腰な自分はこちらからお断りすることにしました。
 

【令和にまだいたのかセクハラおじさん!/四社目(カミングアウト済)】


施設見学はなく、本社にていきなり社長と一対一で面接です。
「え、性同一性障害ってこと?顔は女なのに。美人だから男にモテるよー?どうしてそうなっちゃったんだろうね。まあ俺ゲイとか同性愛者嫌いなんだよね…。」
 
ほかに何を言われたんだろう。これ以上思い出すのを避けています。
会社のことも聞いたような気がするけど、それ以上に言われたことがショックで耳に入ってきませんでした。顔が女なんて一番気にしているところなのに…。
 
履歴書も読まれず、志望動機も聞かれず、言いたい放題されてしまいました。
明確なハラスメントに疲れ、就職活動をいったんお休みにします。
 

【せめてお話ししませんか?/五社目(カミングアウト済)】


面接と聞いて事務所に行ったら紙の束を渡されました。社長とはそのとき目を合わせたきりで、全く話をしなかったです。
書類の記入欄には、身長、体重、血液型、性別、病名、通院先…。そして心理テストや性格検査諸々。うーん、体重とか聞くのは誰に対しても失礼なのでは…?
 
その後施設で子どもと触れ合う時間もあり、管理者の方が履歴書を読んで「全く問題ないですね!職歴も経験も資格もありますし、ぜひうちに来ていただきたいです!」と。
 
よし、これは間違いない!
 
しかしその後、社長からの連絡によりお祈り文が届きました。
 
そして、とうとう、在学中に内定をもらうことは叶いませんでした。

【履歴書】


ここからは、皆さんに履歴書を見ていただいて、これまでの学生生活がどんなものだったか、志望動機に問題はなさそうか、自分の人柄などを知っていただけたらと思います。この後も選考は続きます。
 

志望理由

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