続きの続き

その時だった。

辺りがバサバサバサッという音に包まれ、一瞬にして視界全体を黒いものが覆ったのは。生き物の粘膜のような生暖かいぬめりけが顔を撫で、わたしは気色悪さで反射的に目をぎゅっとつむった。数瞬の後その恐ろしい羽音のようなものが止みそっと目を開くと、そこにはこの世のものとは思えない光景が広がっていた。

どこまでもそびえ立つかのような大きな螺旋階段、そして暗闇に沈む世界のそこかしこに先ほど通り過ぎたであろうコウモリのようなものの死骸、地面は先ほどまで立っていた固いアスファルトではなく何かグニョグニョした謎の材質でできている。

わたしは直感的に異常事態を悟った。そしてこれが間違いなく首の謎のあざに関係していることも。

そう言えばあの謎の何かは”ヤレ”と言う言葉を残して消えたのではなかったか…?つまりわたしはこれから何かをやらされるのではないか…?わたしは謎の何かの意図が読めてしまった気色悪さにゾッとした。

わたしは決して人気者ではない。社会の片隅でひっそりと息を殺して暮らし、日々がただ平穏にすぎることだけを祈って過ごしている。それなのに突然こんな怪異に絡まれ、神隠しにあって死に、現実世界で行方不明だかなんだかとされるなんてあんまりではないだろうか。あまりのわびしさにわたしは涙をこぼしそうになった。いやだいやだいやだっ…!

恐怖に強張る足を叱咤激励し、わたしはなんとか現状を解明しようとした。まずはあのとてつもなく大きな螺旋階段。あれに何かが隠されているのではないだろうか。わたしはこの仄暗い世界の中央に聳え立つ天を衝くほどの巨大な螺旋階段に近づくことにした。

泣きそうになるのを堪えながら、口を真一文字に結び、グニョグニョとした気持ち悪い感触を足の裏に感じながら、一歩一歩階段を目指して歩く。その近くまで来ると、階段は二十人の人間が一緒に登っても大丈夫なのではないかと思うほどの大きなものであることがわかった。この世界にある手がかりはこの階段だけだから、とりあえず登ってみるほかはないだろう。わたしは心臓がバクバクと早鐘を打つのを感じながら、階段の一歩目に足をかけた。

何が起こっても対応できるように警戒は解かず、一歩、また一歩と階段を登る。いくら段を登ってもこの世界の地平線は仄暗い闇に覆われていて、目を凝らして見下ろしても全容をつかむことができない。
一体どれほどの段数を登ったのかもうわからなくなりかけた頃、突然目の前に真っ白な木製の扉が現れた。精緻な彫刻を施された扉の先に階段はなく、謎の扉の後ろには何もない世界が広がっている。

わたしは一瞬たじろいだ。しかしグッと唾を飲み込み、扉の取っ手にそっと手をかけてみる。扉は音もなくそっと開き、中からブワッと生暖かい空気が吹き出して顔の周りを吹き抜けていった。


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