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古金工鐔

鐔は既に古墳時代から見られ、その時代から存在しているという事は平安時代や鎌倉時代、南北朝時代も存在している事は想像に容易い。

(画像出典:倒卵形十二窓鍔 文化遺産オンライン

また以下は江戸時代(1661年頃)に狩野安信により描かれた平敦盛の肖像画である。
製作年からして空想が多分に含まれている事が想像されるが、鐔は付ける物と言わんばかりに合戦図や武将図など殆どに鐔が描かれている。

(画像出典:平敦盛 wiki

現に鎌倉期に作られたとされる獅子王の拵には鐔が付帯している。

獅子王の黒漆太刀拵


①古金工鐔について

刀装具の起源(著:笹野大行)」を読むと、年紀の入った鐔で一番古い物は真鍮地の鐔に施された「永享13年(1441年)」とあるが、そもそも鐔の年期入り作は枚数が非常に少なく(笹野氏でも慧眼したのは僅か4枚という)研究の対象にしづらいと書いてある。
因みに1441年というと室町時代であり、それ以前の物について伝来品などをベースに時代時代の特徴を研究し書籍にまとめられているが、いずれも平安時代や鎌倉時代の物と断定されているわけではない。
現代の日刀保の鑑定においても、これらの古いと思われる物で後藤、美濃、太刀師どこにも属さない系統が不明な作を「古金工」と総称して鑑定されている。
時代の幅で言えば、桃山時代あたりまでの古い物を指すようであるが、これまた幅が広く、鑑定書には「無銘 古金工」のようにだけ書かれ、時代までは書かれない。
つまり日刀保も断定はできないというのが現状のようである。
その為にかなり古そうと思われる素朴な物から、金工鐔のように見える物まで古金工極めになっているので厄介。
素材で言えば山銅地が多いが、稀に赤銅や真鍮などもある。

個人的にはやはり古い時代の素朴な質感の物に興味を惹かれる。
美濃を思わせるような赤銅地に金でうっとり色絵のような古金工鐔などは高級武士が身に付けたものと想像でき格調の高さを感じるが、個人的に好きな「詫び寂び」という概念からは少し外れていくような気がしている。
またうっとり(袋着)色絵の筋で良いものを探していくと古美濃鐔や古後藤などに行きつき、そちらの方にも素晴らしい作が沢山ある。

一方で不純物が多く含まれている山銅地は、銅の精錬技術が進歩して純度の高い素材が主流となる江戸時代以降は殆ど見られなくなる。
この事からも山銅地は必ずでは無いが、古いものに見られる特徴であり味わいとも言える。
そして古い物は櫃孔の形が「変わっている」点も特徴である。
江戸時代以降に見られるような整った楕円穴ではない。
これは「刀装具の起源(著:笹野大行)」によれば、やはり拵の形態変化、それに伴う小柄や笄の形状の影響を受けていると考えられるとの事。
実に理にかなった説明である。
その為、この「変な」形の櫃孔も時代が感じられて古雅さを感じるポイントに思う。
「刀装具の起源」は以下からも買えるので気になる方は是非。



②個人的に魅力を感じた古金工鐔

そのような事を考えながら古金工鐔を2週間ほど合間で探してみた所、以下のような物に個人的には魅力を感じた。
殆ど販売済なのが惜しまれるが、今後もし手元に来る機会があれば鑑賞を楽しみたい品ばかりである。

艶のある上質な古い質感に加え、8㎜という厚みが戦国味を感じさせてくれて素晴らしい。
佐野美術館で行われた特別展「武士の意匠 透かし鐔」出品作で名品。
(画像出典:菊花透鐔 古金工 飯田高遠堂
10㎝近い大きさと、櫃孔の形状が何とも古雅である。南北朝期頃の大太刀に合いそうな鐔である。なによりこの櫃孔の小ささも素晴らしい。一体どのような小柄、笄が付帯していたのだろうか。
(画像出典:古金工 菊花透鍔 永楽堂
表は葡萄の葉と蔦、裏面は葵葉と唐草が毛彫で表現され、そこに金や銀の点象嵌(まま古い太刀師鐔などに見られる)が花を添えている。1点1点打たれた不規則な鏨など力作感が感じられ古雅。
(画像出典:葡萄葵唐草図鐔 gallery陽々youyou
真鍮地という非常に珍しい物。刻印された家紋と思われる紋様が何とも良い味を出している。
キノコのような松透も古刀匠鐔にまま見られる紋様で時代の古さを感じてとても良い。
(画像出典:松透桜巴紋散図大鍔 日本刀・草薙の舎
桃山頃とされる古金工鐔で、一見朽ちこみに見える跡はよく見ると規則性を伴った模様だと気づいた時のアハ体験たるや…。花の模様だろうか。細川家が好みそうな茶の道に通じそうな趣がある。
(画像出典:古金工 菊花図 青山不動
古金工鐔には葡萄図が多いが何かトレンド的なものがあったのだろうか。この鐔は美濃を思わせるようで格調の高さが伺える。耳の形は江戸期の物にもよく見られる気がするがその先がけであったのかもしれない。実に味わいあり良いが値段も良い…。
画像出典:古金工 葡萄図鍔 銀座誠友堂


③終わりに

古金工鐔はヤフオクなどにも時々出てくる。
素朴で味わい深く感じられるものも多い。facebookなどを見ていると海外にはコレクターが一定数いるようだ。
海外の人は明治金工の超絶技巧物を好むとはよく聞くが、実際は詫びさびを感じられる品を楽しんでいる方も多いと感じる。
古金工鐔はまだまだ数万~数十万円程度で買える物もあり値段がお手頃なのが魅力かもしれない。
時代の古さに魅力を感じる方は探されてみては如何だろうか。
そして良いものを手に入れられたら是非こっそり見せて頂きたい…(切望)
私も先日刀屋さんで桃山頃と思われる古金工鐔を手にしたが、当時の思想が感じられ味わい深く良い物であり、毎日見ては歴史に思いを馳せるなどしている。

「分登る 麓の道はおほけれど 同じ雲井の 月をこそみれ」
と一休宗純の和歌が象嵌で描けれている。裏には南無阿弥陀佛の象嵌。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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