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祖父刀⑨ 祖父の愛刀家人生を刀から推測

祖父から引き継いだ1振の刀は残念ながら偽銘であった。

祖父の事は以前もこのブログで少し触れたが、日本軍将兵の死者数が16万人という史上最悪と言われるインパール作戦で奇跡ながら生還した1人であった。
終戦後は風呂にも入れないような非常に貧しい生活をしながらリヤカーを押して起業し、1代で40名規模位の会社を作ったと聞いている。
贅沢な暮らしをしているようには子供ながら見えなかったが、晩年は苦労を傍で支え続けた祖母に宝石などを買ってあげていたと伝え聞くから最後の方はお金の管理には基本的に厳しくも、使う場面では使っていたのではないかと思われる。

そんな祖父はどのような愛刀家だったのだろうか。
所持していた刀は拵付のものも含めて全部で7振ほどあり、内訳は軍刀1、現代刀1、古刀3(備前長船幸景、一(偽銘)、宇多國次)、新刀2(初代兼若、兼高)、そのような配分だった。

祖父の残した刀

軍刀は戦時中身に付けていた物ではどうやらないらしく、戦時中は憧れていたものの身に付ける事が出来なかったから買ったと聞いている。
軍刀については詳しくないので分からないが、所持するにあたり階級が足りなかったのかもしれない。

現代刀(無鑑査刀匠の作)はいずれ会社を継ぐであろう孫が生まれた年の製作年紀が切られている事から成長を願い作ったようにも思える。

初代兼若や宇多国次は富山あたりの刀工であるし、兼高も後に越前国に移った刀工らしいので、富山に住んでいた祖父としてはこの3振はいわば郷土刀として愛蔵した様子が伺える。

長船幸景(室町時代)には立派な拵が付帯しており、棒映りも鮮明に出ており見る限りは一番出来が良い。
しっかりした所から購入していそうな名刀に感じる。
何か1つ名刀が欲しくなり求めたようにも思える。

そして最後が偽銘となった一文字の刀。
地刃が冴えて映りも出ている。
出来は良いが反りはあまり無く新刀のような反りをしている所が引っ掛かった。
刀屋さんや研師さんにも事前に見てもらったが恐らく新刀の石堂あたりではないか、ただ出来が良いので一度鑑定に出してみるのも面白いかも、という事で出してみた次第。
偽銘は偽銘としてどのような刀工と考えられるか日刀保の方に見解を聞いてみるのも非常に勉強になりそうである。

さてこの一文字(偽銘)の刀、祖父はどのようないきさつで購入したのだろう。
幸景購入後に更に上の刀を…と欲が出て求めた結果だろうか。それとも愛刀家になって最初の方に購入し、痛い目を見て戒めとして手元に置き続けたのだろうか。
この刀については甲種特別貴重などの旧鑑定書も付いていなかったので、無冠として譲り受けた事になる。
そう言う意味では一文字と思って所有し続けたのではないだろうか。
社長業という事で目を付けられて高値で偽物を掴まされてしまったのだろうか。
もしくは偽銘だけど出来が良いから求めたのだろうか。

祖父の愛刀家人生を想像すると、以下のようなものだろうか。
戦時中に憧れだった軍刀を購入、おそらくここを入口にして新刀や古刀の北陸の郷土刀あたりを集めつつ、孫の誕生を記念して現代刀を製作、刀の知識が更に付き長船幸景の名刀を購入、ここで自信が付いたところで更に大銘の一文字の名刀があると吹き込まれて購入、騙される。(もしくは偽銘と知りつつ出来優先で買ったか)

全くの想像でしかない。
直接祖父に言ったらひっぱたかれそうである。
いずれにしても改めてラインナップを見ていると祖父の愛刀家像が何となく見えて来るから面白い。

富山県にある則重鍛刀碑の裏に名前が刻まれていることから祖父は富山支部に所属していたらしい事が分かるが、一連の刀の出来などを見るにそこまで刀にどっぷりとはまっていたわけではなさそうな気もしている。

則重鍛刀碑(画像出典:google map :富山県富山市安養坊56-1 富山市民俗資料館
則重の石碑の裏に書かれた当時の富山刀剣研究会の名簿(頂いた写真)


「いつまでもあると思うな親と金」

この言葉は私の母の結婚式に祖父が母にしたスピーチらしい。
この刀はもしかするとそんな祖父から何かしらのメッセージが込められているのかもしれない。
油断せず慢心せず、刀そのものを見て判断出来るような愛刀家人生を送る為にも祖父の意志を継いでいきたいと思う。

愛刀家としての道はまだまだ始まったばかりであるが、50年後などに所蔵刀を振り返った時に何か自分なりの色が出ていると面白そうであるとも感じた。
そして人生を全うした後に雲の上で祖父と刀談義してみたら素晴らしい花が咲くのではないだろうか。


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それでは皆様良き刀ライフを!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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