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刀装具

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金工鐔 伊藤正次①

金工鐔 伊藤正次①

武州伊藤派の初代は伊藤正長と言われ、一説にその弟と言われる人物が今回取り上げる伊藤正次である。
相州小田原伊藤派の祖とも言われ正徳頃(1711年頃)の金工とされる。
伊藤家は慶長頃(1596~1615年頃)からの古い金工家の家柄とされ、伝系は正確には判明されていないものの、一説には正阿弥系、埋忠系、長州萩鐔系、相州小田原系と言われている金工らしい。

「鐔の鑑定と鑑賞 著:常石英明」を見ると、伊藤

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埋忠鐔の捻り耳の造形の観察

埋忠鐔の捻り耳の造形の観察

埋忠明寿をはじめとした桃山頃の埋忠鐔はこねくり回したような捻り耳の造形が特徴であり個人的にも溜まらないポイントの1つとなっている。
明寿などはここに更に薬品で表面を腐食させて皺を作る事で、陶器のような質感を生み出しており感嘆させられる。
更に細やかでブレの無い象嵌は見事という他ないわけであるが、とにもかくにもまずは耳の造形ありきに感じられる。

鎌倉期の古刀が今現在再現不可とされているように、この

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古金工鐔 唐草模様図鐔①

古金工鐔 唐草模様図鐔①

表に葡萄の葉と蔦、裏に葵の葉と唐草を毛彫で表現し、水滴を表現しているのか金と銀の点象嵌が施された古金工極めの鐔。
この鐔の鑑賞記録を残しておく。
縦77.6mm×横76.1mm×耳厚4.5mm、切羽台厚3.8mm。

・象嵌部の拡大金と銀の点象嵌は綺麗な丸い形をピッタリはめ込んでいるというよりは、球のような窪みにラフに打ち込んでいる様子が見られる。

因みに象嵌が外れている部分もいくつかあり、その

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古金工鐔(花弁虫散図)①

古金工鐔(花弁虫散図)①

最近少し刀装具の鑑賞記録を残せていなかったので久々に。
古金工極めの花弁虫散図鐔である。
縦76㎜、横73㎜、耳厚5㎜、切羽台厚3㎜。
材質は鑑定書では四分一とある。

縦に魚々子が入り古色が感じられる。
「花弁虫散図」という名称が付いているが、虫は蝶と蜂と思われる。
一方で描かれた草花は多い。

草花は知見がなく、どのような物が描かれているか分からないものが多い。

更に鐔全体を駆け抜けるように

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成木鐔⑱ 成木鐔のどこが良いのか

成木鐔⑱ 成木鐔のどこが良いのか

先日「成木鐔のどこが良いのか?」と問われた。
確かに古作と比較すると古作の方が出来としては良いのはその通りなのだ。
例えば成木氏の信家写と信家本歌を比較すると、こう言っては失礼かもしれないが、鉄味についても、彫の書体の表現力などについても、それらからくる詫び寂び感においても、全て本歌の信家の方が上手い。
これは尾張写や金山写と比較しても同じ事が言えるだろう。

しかし私が好きなのはもっと別の所にあ

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成木鐔⑰道歌鐔(信家写)

成木鐔⑰道歌鐔(信家写)

今回紹介する鐔は無鑑査鐔工、成木一成氏により平成4年に作られた信家写の道歌鐔。
刀連全国大会の天位賞で送られた鐔と箱書きがあります。

この本歌は以下になります。

表裏それぞれ並べて見ます。
櫃孔は後世開けられたものと思われるので、写の方は製作当初の形を再現するためか櫃孔は開けられていません。

この鐔は平成作でいわゆる成木氏の作風が確立した頃の作と見られ、トロンとした艶やかな地鉄をしている。

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糸巻太刀拵のささやかな発見

糸巻太刀拵のささやかな発見

現在目貫は単体で楽しむアイテムとしても地位を確立していますが、本来は柄に付いて実用を兼ねていました。

しかし拵などが展示されていても鐔や下緒、縁頭などの金具には目がいっても目貫は柄糸の下に埋め込まれているからか個人的にあまり記憶にない事が多い…。
という事で過去の展示会写真から拵の柄部分を眺めていたのですが、糸巻太刀拵には必ず家紋の目貫が付いている事に気が付きました。
龍や獅子、植物などの目貫は

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成木鐔⑯ 刀匠鐔(鎌透)

成木鐔⑯ 刀匠鐔(鎌透)

今回紹介するのは昭和54年(己未)に作られた古刀匠鐔を写した鎌透かしの板鐔。成木氏は昭和53年から自家製鋼による鐔作りを開始している。
箱は無いが銘の形はこの時期のものと一致しているし、まず成木氏が製作した鐔で間違いないと感じる。
縦104㎜、横103㎜、厚み2㎜(耳、切羽台共)と大型。

こちらは常に見る成木鐔とは鍛が明らかに異質で、一言で言えば泥を乾燥させたような肌をしている。
爪ではじくとカ

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成木鐔⑮ 赤坂初代忠正  鉢木透写

成木鐔⑮ 赤坂初代忠正 鉢木透写

好きすぎる成木鐔の紹介が止まりませんが、手元にある成木鐔でまだ紹介していない物がいくつかあるので気が向いた時に載せていきます。
今回は有名な赤坂鐔の鉢木透写の鐔になります。
謡曲の「鉢木」の物語を比喩した図柄です。

箱書きは無いのですが、鉄の質感や銘の書体から平成頃の作と思われます。

成木さんの作は高温で熱する為か側面に鍛割れが出ているのが多いのですが、こちらの作も出ています。
むしろこれがあ

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なんか出てきた鐔

なんか出てきた鐔

なんか出てきた鐔、という意味の分からないタイトルになってしまったが、部屋の片づけをしていた時に「なんか出てきた」のでそのようなタイトルにしてみた。
それが以下の短刀鐔。恐らく素銅だろうか。

家紋散らし、というよりは季節の花を散らしているように見える。
例えば以下は梅だろうか。
桔梗にしては花びらが丸すぎる気がする。

以下の「特別展 金工 美濃彫」を参考にすると、桔梗であれば以下の様にデザインさ

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成木鐔⑬ 相場感やどこで買えるかについて

成木鐔⑬ 相場感やどこで買えるかについて

今回は成木鐔(現代鐔工の成木一成氏の作品)が大体いくら位のレンジで買えるのかという相場感や、どこで買えるのかについて書こうと思います。
というのも先日中学生の方から成木鐔について上記の問い合わせを頂いたのがきっかけです。
あくまで私がここ2年程で見てきた主観的な内容、かつ2024年時点での情報ですが書かせて頂きます。

①相場感刀剣店で買おうとした場合の話ですが、並品で安くても10万円以上です。

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成木鐔⑪ 成木氏についての本

成木鐔⑪ 成木氏についての本

虎徹の刀を買ったら虎徹について書かれた本を買い虎徹の事を詳しく知りたくなるのと同じく、成木鐔を買っているうちにやはり作者である成木一成氏のことを知りたくなってくるもの。

私が成木鐔を好きになった時には残念ながら既に成木氏は他界されていたので、成木氏の事は人伝てであったり本などで追っていくしかありません。

今回はその成木氏に関する本についてですが、成木氏の生涯を通して作品を一同にまとめたような本

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ここが難しい「小柄」の時代判定

ここが難しい「小柄」の時代判定

今日は刀装具の鑑賞会のため、東京美術倶楽部へ行ってきました。

テーマは「小柄」で、古金工や古美濃の古い物から、後藤家の作、町彫の作と室町頃~幕末頃までの全時代の物が並びました。

実は私自身小柄はまだコレクションを1つも持っていません。いや正式に言えば拵に付いている小柄が1つあるのですが。
なぜかまだ欲しいと思える作に出会った事がないのが理由ではあるのですが、ではなぜなかなか触手が伸びないのか考

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