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【妄想脚本】古畑任三郎vsママタルト2/3

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〈場面転換〉

場面⑥青葉公園。

既にガクの死体は発見され、警察が臨場している。
周囲には非常線が張られ、サイレンの音。
ガクの死体にフラッシュが焚かれる。
古畑任三郎と部下の今泉慎太郎、死体の脇に立って

今泉「(手帳を手繰りながら)被害者はガク・カワマタさん。芸人だそうです」
古畑「M1ファイナリストだよ、真空ジェシカ。知らないの? 吉住でシコッたらちんちん取れた。」
今泉「うち、おばあちゃんがB&B以降の漫才を認めてないんでM1見てないんですよ」
古畑「続けて。」
今泉「あっ、はい。死因は後頭部の打撲による脳挫傷。直径2センチほどの、細長い棒状の鈍器で殴られています。護身用の特殊警棒のようなものかと」
古畑「直径2センチの、棒状の鈍器……」

古畑、しゃがんでジャングルジムの中を指さす。
地面に引っ掻いたような跡が何か所かついており、土に血液も付着している。

古畑「今泉くんあそこ、引っ掻いたような線があるね」
今泉「子供の落書きじゃないですか?」
古畑「見てごらん。血の跡がついてるんだよ。鑑識に言って調べてもらって。たぶん被害者の血液だから」
今泉「ど、どういうことですか?」
古畑「たぶんねぇ、犯人が被害者と揉み合いになった時に身に着けてたものが取れたんだよ。たとえばイヤリングとか、服のボタンとか……被害者を殺した後で、ジャングルジムの中に落ちてるのに気づいて凶器の警棒を使って取ったんだ」
今泉「なーる……」
古畑「(人差し指をぴん、と立てて)でもね。」

古畑、今泉のスーツの胸ポケットからペンを抜き取り、ジャングルジムの中へ放る。

今泉「ちょっと! 何するんですか!」
古畑「それ取ってごらん」
今泉「もう……」

今泉、ジャングルジムの中に潜り込もうとする。

古畑「ストップ。……そうなんだよ。棒でつついたりするより、中に潜って取った方が簡単だろ? どうして犯人はそうしなかったんだろ?」
今泉「……ジャングルジムの中に、入れなかった?」
古畑「だとすると、犯人は相当、体の大きな人間ということになるね」

古畑、思案げに指でこめかみを弾く。

古畑「……今泉くん。サンミュージックに電話して、ママタルトが今どこにいるか確認してもらえる?」

〈場面転換〉

場面⑦会議室。

大鶴と檜原、古畑と机を挟んで対峙。
大鶴はコートを羽織り、うっすら額に汗を浮かべている。

大鶴「……信じられません」
古畑「お察しします。おふたりはガクさんとは仲良しだったとか」
檜原「一番お世話になってる先輩でした」
大鶴「どこで殺されたんです?」
古畑「現場は赤坂の青葉公園です。いらっしゃったことは?」
大鶴「ああ……近くの劇場でよくライブをやってるので、ネタ合わせに使ったことはあります」
檜原「でも、ここからはけっこう離れてますよね。どうして僕たちに事情聴取を?」
古畑「あくまで形式的なものです。ガクさんの死亡推定時刻は午後7時から7時半の間、その時おふたりがどこにいたか、えー差し支えなければ」
檜原「その時間やったら、ちょうどこの会議室で新ネタを作ってました」

檜原、古畑の方にスマートフォンを突き出し、ツイートを見せる

大鶴「SNSの投稿を見てもらえたら、少なくとも……7時5分から7時42分まで、ふたりでここにいたことは分かってもらえると思います」
古畑「なるほど。時計も写ってて分かりやすい。(自分の腕時計を指して)時刻もぴったりだ。んふふ、鉄壁のアリバイです。ファンなので安心しました」
檜原「7時ごろだと246も混んでますから、青葉公園までだと車でも往復で20分以上かかるんと違いますか? まぁそもそも、僕らふたりとも免許持ってないんですけどね」
古畑「(遮るように)肥満さん、コートのボタンどうされました?」
大鶴「あ、ああ……どこかで引っかけちゃったみたいで」
古畑「そうですか。実は犯人も、ガクさんと揉み合った時に服のボタンが外れてしまったらしいんです。遊具の下に転がり込んだのを道具を使って拾った跡が」
大鶴「犯人が気づかなきゃ決定的証拠だったのに、残念でしたね」
古畑「そのコート、お暑いならお脱ぎになればいいのに。汗がそんなに」

大鶴、取り繕うように笑って、

大鶴「いやこれでも寒気がしてるんですよ。どうやら風邪ひいちゃったみたいで」
古畑「それは大変だ。お大事になさってください。えーところで、いつもこちらを控室に?」
大鶴「まさか」
檜原「まだまだ若手ですから、普段は他の演者さんと一緒に大部屋の楽屋です。今回はネタを一から作り直さんとあかんかったんで、集中できるよう個室を用意してもらったんです」
古畑「そうですか……しかしまた、どうしてネタを作り直したんですか?」
大鶴「昨日、ここの衣裳部屋に泥棒が入ったんですよ。それで、僕が収録で着るはずだった衣装も盗まれちゃって」
古畑「なるほど。それで、別の衣装でできるネタを作ることになったわけですね。災難でしたね」
大鶴「5XLの宇宙服は、さすがにお店で買うこともできないですから」
古畑「んふふふふふ。……ただ失礼ながら、ママタルトのネタは檜原さんがおひとりで作ってるんでしたよね?」
檜原「僕が出したアイディアをまとめてノートに書き留めてくれるのは肥満ですから。(ノートを机の上に広げる)なんなら筆跡を鑑定してください。このノートが、彼が僕と一緒に会議室にいた証拠です」

古畑、ノートを取り上げて立ち上がる。

古畑「一応、お預かりいたします。失礼します」

古畑、出て行こうとして振り返り、

古畑「んー。それにしても変な泥棒だ。」
大鶴「はい?」
古畑「転売が目的なら、もっと需要がありそうな衣装を盗めばいいじゃありませんか。大きさで言えばMサイズかLサイズの。5XLの宇宙服が売れるとはとても思えません」
檜原「(苦笑して)僕らに言われても……」
古畑「えー、あるいは犯人には何か別の目的があったのかもしれません。5XLの宇宙服でなければならない理由が。……んふふ、失礼しました」

古畑、出て行く。大鶴と檜原、顔を見合わせる。

〈場面転換〉

場面⑧ABEMA本社ビル・ロビー。

大鶴、自販機でエナジードリンクを買ってベンチに腰を下ろす。
地図を小脇に抱えた古畑、その姿を見つけて声をかける。

古畑「肥満さん! こちらにいらしたんですね」
大鶴「ああ、刑事さん。」
古畑「(エナジードリンクを指さし)今日はまだ収録長いんですか?」
大鶴「僕たちは、あとは出演者全員で集まって番宣を撮るだけです。それで何か?」
古畑「えー、おふたりが投稿したSNSの写真なんですが、ひとつ引っ掛かりまして」
大鶴「お聞きしましょう」

古畑、スマートフォンを取り出し、

古畑「まずは1枚目の、7時5分に投稿された写真です。このジュースのペットボトルにご注目ください」
大鶴「僕が飲んだものだ」
古畑「3枚目の7時42分の写真にもペットボトルは写り込んでます。これ、見てください。表面が結露してます」
大鶴「冷蔵庫に入ってて冷えてましたからね。それが?」
古畑「では7時24分に投稿された動画を見てみましょう。(動画を再生する)ね、ペットボトルが結露してないんです。こんな不思議なことがあるでしょうか? 最初の20分間はまったく結露せず、後半20分で急に水滴がつくなんてことが」
大鶴「……確か、動画を撮る前に拭いたんじゃなかったかな?」
古畑「1枚目と3枚目を比べて、ボトルが動かされてるようには見えませんが」
大鶴「(苦笑してみせ)こんな小さな画像じゃなんとも」
古畑「そもそもですね、この動画28秒あるんです。ツイートの投稿時刻は写り込んだ時計と同じ7時24分。つまり28秒の動画を撮影し、アプリを開き、文章を考えて文字を打ち込み、投稿するまでを60秒以内に終わらせたことになります。そんなこと可能でしょうか?」
大鶴「やってやれないことはないでしょう」
古畑「かなり急げばできたかもしれません。しかし、このツイートをそんなに急いで投稿する必要があったんでしょうか?」
大鶴「会議室の時計が少し進んでたんじゃないですか?」
古畑「時計は正確な時刻を指してました。先ほど確認を」
大鶴「分からないな。何が言いたいんです?」
古畑「えー、これをご覧ください」

古畑、地図を取り出して広げる。地図には青と赤の線でルートが引いてある。

古畑「このビルと公園の位置関係を調べて面白いことがわかったんです。車を使うと大回りになるので片道15分程度かかってしまいます。しかし、裏路地を縫うように進んでいくと、かなりショートカットできるんです。もちろん車やバイクは入れませんが、自転車でも20分あれば往復可能です」
大鶴「それが?」
古畑「7時24分の動画は、本当は7時5分の写真の直後に撮影されたものではないんですか? だとすれば、あなたのアリバイは怪しくなります。聞いたところ、7時20分ごろに担当ディレクターが会議室に差し入れに行った時、檜原さんの姿は見たがあなたはいなかったとか」
大鶴「トイレに入ってたんです」
古畑「声だけなら、ハンズフリーにしたスマホを使えばどこにいても聞かせられますからね」
大鶴「言いがかりだ。僕たちは今日、たまたま衣裳部屋で警官の制服を見つけて、そこから新ネタを作ったんですよ。人を殺しに行ってる余裕なんてありませんよ」
古畑「本当にたまたまでしょうか? ……例えば、あなたか檜原さんのどちらかが、衣裳部屋に忍び込み宇宙服を盗んだ」
大鶴「違う」
古畑「その時に警官の衣装にあたりを付けておいて、あらかじめネタを作っておいたんじゃないですか?」
大鶴「違う!」
古畑「衣装泥棒はテレビ局に二人きりになれる個室を用意させ、アリバイを作るための下準備だった。違いますか?」
大鶴「何もかもあなたの想像じゃないか! それとも、何か証拠でもあるんですか?」
古畑「(人差し指を立て)……肥満さん、コートを脱いでいただけますか?」

大鶴、怯んだ表情。

古畑「……えー、先ほども言った通り、ガクさんは殺される間際、犯人とかなり揉み合ってます。離れた遊具の下まで犯人の服のボタンが飛ぶほどに。ですから、犯人の体にも残ってるかもしれないんです。ガクさんの抵抗の跡が」

大鶴、しばしの逡巡の後、諦めたようにコートを脱ぐ。
右肩にガクの指の跡が赤い痣になって残っている。

大鶴「誤解しないでください古畑さん。これはひわちゃんにやられたんです。ネタの内容でちょっと口論になりましてね」
古畑「ネタ作りの最中に掴み合いの喧嘩を? 先ほどの動画と言い、せっかちな人たちだ。24分の動画を投稿してから42分の写真を撮るまでのたった18分の間に、大喧嘩して仲直りして、半分しかできていなかったネタを完成させたとおっしゃるんですか?」
大鶴「そうじゃないと、あなたに証明できますか?」

大鶴、挑むように古畑を見据える。古畑、笑いだす。

古畑「あなた、なかなかしぶとい方だ」

大鶴、立ち上がりコートを羽織り直す。

大鶴「当たり前でしょう。友達と自分の人生がかかってるんです。では。」

大鶴、立ち去る。残された古畑、含み笑いを漏らす。

暗転。

古畑「えー、今回の犯人はなかなか肝の座った人物のようです。正攻法で攻めてもびくともしない……見た目にたがわぬ重量級の犯人です。そこで、今回は一つ、罠を仕掛けてみたいと思います。上手く引っかかってくれると良いのですが。んーふふふ、古畑任三郎でした」

→解決編へ続く!

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