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【妄想脚本】古畑任三郎vsママタルト1/3

※このシナリオは、『チャンスの時間』の企画「古河新三郎」に感銘を受けて書き上げ、ABEMAさんへ投稿したものです。ママタルトのお二人が真空ジェシカ・ガクさんを殺害し、古畑さんと対決します。

〈アヴァンタイトル〉
古畑「TwitterやInstagramを年中やってる人に一言。行ったお店や食べたものの感想をつぶやくのは、一日待ってからにしてください。リアルタイムで投稿すると、その時居合せた知り合いにアカウントがバレてしまう可能性があります。……特に、人の悪口をSNSに書くのが好きな人は、お気をつけて。」

♪オープニング

場面①ABEMA本社ビル・通路~衣装倉庫

壁に番組ポスターがずらりと貼られた長い廊下を、番組ADに先導されて歩く大鶴肥満と檜原洋平。
大鶴は半袖のTシャツ姿で、大きなリュックを背負っている。

檜原「犯人はまだ捕まってへんのですか」
AD「ええ。警察にも来てもらったんですが、なにせ頻繁に人の出入りがある場所なので鍵もかけてなかったですし、監視カメラの類いもありませんでしたからね」
大鶴「それじゃあ、容疑者を探すのも一苦労だ」
檜原「しっかし、テレビ局の衣裳部屋に泥棒なんて聞いたことないな」

AD、振り返って肩をすくめ、

AD「テレビで使う衣装は造りがしっかりしてるから、コスプレイヤーとかに高く売れるんですって。……こちらです」

衣裳倉庫。AD、ドアを開けてふたりと中へ。
ハンガーラックが並び、雑然と様々な舞台衣装が吊るされている。
AD、大きなサイズの衣装が何着か架かったラックを引き出す。白衣や学ラン、それに警官の制服。

AD「無事だった衣装の中から、肥満さんが着られそうなものをいくつか出しておきました。」

檜原、警官の制服を手に取り、大鶴に当てて、

檜原「お巡りさんなんかええんちゃう? 有りネタ組み替えて色々できそうや」
大鶴「ひわちゃんがそう言うなら」
檜原「(ADに)僕は私服でええんで、じゃあこれだけ使わせてください」
AD「分かりました。申し訳ないです。本番直前にネタ変更なんて」
檜原「そんなん、スタッフさんのせいと違うやん。なあ肥満」

大鶴、にっこりと笑って。

大鶴「まーごめです」

〈場面転換〉

場面②ABEMA本社ビル、会議室。

AD「(ドアを開け)こちらの会議室を使ってください。冷蔵庫の中の飲み物は自由に飲んでもらって構いませんので」

長机にパイプ椅子が4脚置かれただけの小さな会議室だが、冷蔵庫と個室トイレが設置されている。
壁の時計(アナログ)は7時を指している。

檜原「ありがとう。じゃあ、ネタ詰めたいからしばらく二人っきりにしといてや」
AD「承知しました。(長机の上の電話を指さし)何かあったら内線で呼んでください」

AD、出て行く。
大鶴、檜原に微笑みかける。ふたり、無言でハイタッチ。

〈画面フェードアウト〉

場面③会議室。

冷蔵庫からペットボトルを取り出して飲む大鶴。

大鶴「(振り返って檜原に)じゃあ、写真撮ろうか」

檜原、頷く。
大鶴、机に飲みさしのペットボトルを置き、リュックから三冊のノートを取り出す。

大鶴「じゃあ、何も書いてないノートから。座って」

大鶴、檜原を向かいに座らせ、自分のスマートフォンで「白紙のノート(1冊目)の1ページ目を開いて困った顔をしている二人」の写真を撮影する。

檜原「次は『二十分後』の動画やな」

大鶴、頷いて二冊目の「半ページほどネタが書きかけのノート」とペンを机の上に広げる。

檜原、会議室の掛け時計を7時24分にずらす。
檜原、書きかけのノートと時計が映り込むように、「大鶴がSWITCHでぷよぷよをやっている姿」の28秒の動画を撮る。

ふたり、撮れた動画を確認。顔を見合わせ頷く。

大鶴、リュックから取り出した黒いコートを羽織ってボタンを留め、手袋をはめて特殊警棒を握って振り、伸びることを確かめる。
大鶴、警棒をコートのポケットにしまって机の上のスマホを手に取り、最初に撮った「白紙のノートの写真」をツイートする。

>『諸事情で、今から1時間以内にコントを1本作ることになりました!!!!ノートはまだ真っ白!!!まーごめです!!!』

大鶴、時計の時刻を直している檜原に、

大鶴「そろそろ行くわ」
檜原「待ってくれ」

檜原、自分のバッグから厚みのある茶封筒を出し、大鶴に押しつける。

檜原「これを」
大鶴「(戸惑った様子で)そんな話が通じる相手じゃないって」
檜原「頼む。最後のチャンスをやってくれ」

大鶴、ため息を一つついて頷き、コートの内ポケットに封筒を入れる。
腕時計に視線を落とす。7時6分である。

大鶴「40分には戻る」

大鶴、ドアノブに手をかける。檜原、その背中に

檜原「粕谷……すまん」
大鶴「(振り返らず)まーごめ。」

廊下に出た大鶴、ビルの非常階段から警備員のいない通用口を出る。
停めてあった自転車にまたがり、ペダルを踏みこむ。

〈場面転換〉

場面④青葉公園

人気のない児童公園。ブランコ、ジャングルジム、シーソー、雲梯といった遊具が一通り揃っている。
真空ジェシカ・ガク、ジャングルジムのそば、外灯の下に立っている。
ガクの首にはコルセットが嵌められている。

ガク「……遅かったじゃねえか、粕谷」

暗闇から大鶴、現れる。

大鶴「ガクさん、もうこんなことやめにしませんか」
ガク「なんだよ?」

大鶴、懐から封筒を取り出す。

大鶴「ここに百万あります。これで手を打ってくれたら、これまでのこと全部許すって檜原も言ってます」
ガク「『許す』だと? おいおい、自分らの立場分かってんのかよ。人のこと自転車で轢いて大ケガ負わせたのはお前の相方だからな? 本来なら警察沙汰になるところを、毎月治療費を払えば黙っててやるって言ってんだから感謝しろよ。……許すとか許さないとか、それ、言うとしたら僕。」
大鶴「(吐き捨てるように)その首だって、本当はとっくに治ってるくせに」
ガク「おい調子乗んなよ!?」

ガク、大鶴の胸元を掴むが、冷ややかな目で見下ろす大鶴に怯んだように手を離す。

ガク「(舌打ち)ほら、その百万はもらっといてやるから、封筒置いてさっさと帰れよ」

大鶴、しばしの逡巡の後、叩きつけるように封筒を地面に投げる。

ガク「(鼻で笑い)ひでえなぁ」

ガク、屈んで封筒を取ろうとする。
大鶴、特殊警棒を伸ばしてガクの後頭部に振り下ろす。鈍い音。

ガク「て、めえ……っ!」

ガク、縋りつくように左手で大鶴の二の腕を掴み、右手でコートの合わせ目を握る。
大鶴、もう一撃、警棒を振り下ろす。ガク、その場にくずおれる。
その右手が引っ掛かり、コートのボタンが一つ飛ぶ。

倒れ、動かなくなるガク。それを見下ろし、肩で息をする大鶴。
我に返り、コートのボタンが取れていることに気づく。
周囲を見回す。ジャングルジムの中に落ちているボタンを見つける。
手を伸ばすが届かない。何度か失敗しながら警棒の先をひっかけ、やっと回収する。
腕時計を確認する。7時18分である。

〈場面転換〉

一人、コントの練習をしている檜原。
内線電話が鳴る。
檜原が出ると、番組ディレクターの海老沢からだ。

檜原「はい?」
海老沢「ディレクターの海老沢です。いやぁこの度は本当に申し訳ありませんでした!」
檜原「いえそんな、もうネタもだいぶ形になってきましたし」
海老沢「おふたりに差し入れを買ってきたのですが、お持ちしてもお邪魔じゃないでしょうか?」
檜原「えっ、あ、ああえーと……」
海老沢「いやもう! お渡ししたらすぐ帰りますので!」
檜原「……分かりました」

受話器を置き、自身のスマートフォンで大鶴に電話する。
(ここから、檜原と大鶴のカットバック)
夜の私道。自転車で走る大鶴。スマートフォンの着信音。

大鶴「どうしたのひわちゃん? こっちはもう済んだよ」
檜原「え? 終わったんやったら一本くらい電話くれよな……いやそれどころやなくて!」
大鶴「……ディレクターが?」

会議室。ドアをノックする海老沢。
檜原、ドアを開ける。海老沢、洋菓子の紙袋を掲げ、

海老沢「お疲れ様です。コレ、おふたりで召し上がってください」
檜原「あー、すいませんどうも。(トイレのドアをノックして)肥満、ディレクターさんからシュークリームもろたで!」

トイレ内から『まーごめです!』の声。

檜原「ごめんなさいね、今相方トイレ入ってまして。」
大鶴『ディレクターさんごめんね、ディーごめ!』
海老沢「いやいやお気になさらずに! では失礼します」
檜原「本当ありがとうございました」

檜原、ドアを閉めて安堵のため息。
トイレの扉を開ける。
スピーカーフォン設定にした檜原のスマートフォンが便座の上に置かれている。
檜原、スマートフォンを取る。

檜原「肥満、もう大丈夫や。なんとか乗り切ったで」
大鶴『そろそろ二つ目のツイートをする時間じゃない?』
檜原「(掛け時計に目を向け)やばっ、ほんまや」
大鶴『こっちはあと10分で戻るから。』

時計は7時24分になったところ。
檜原のツイート。

>『開始20分でネタ作りに飽きてぷよぷよを始める大鶴肥満。五歳児の集中力。』

大鶴、自分のスマートフォンから檜原のツイートが投稿されたことを確認し、また自転車のペダルを勢いよく踏みこむ。

〈場面転換〉

場面⑤会議室。

コート姿の大鶴、入ってくる。

檜原「おかえり。……やっぱり駄目だったんやな」
大鶴「交渉決裂。自業自得だよ」
檜原「――ありがとう。あとは最後の写真やな」

大鶴、紙袋を掲げ、

大鶴「もらったシュークリームを食べてるとこを撮ろうか。ツイートで触れないのも不自然だし」
檜原「せやな」

大鶴、コートを脱ごうとして窓に映った自分の姿を見て固まる。

大鶴のアカウントから、「一枚目と同じ構図で、ネタ台本がびっしり書き込まれたノートを開いて片手にはシュークリームを持ったふたり」の写真ツイートが投稿される。
前の二枚と異なり、大鶴はコートを羽織っている。写り込んだ時計の時刻は7時42分。

>『なんとかネタ完成!!差し入れのシュークリームがなければ遭難してました!!!』

暗転。

→次回・捜査編へ続く!

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